13-4 合流地点
「……ベティ、分かったのかよ」
「うん……今頭の中で条件を変えて考えているから……意外と難しくない?これ」
ふう、とベティは息をついて本に向き直った。本は待ってましたと言わんばかりにベティの前に舞い降りた。
「……質問する内容は、"もう片方に、出口は右かと聞いたら何と答えると思いますか"。仮に出口が右だとするわ。正直者に尋ねた時、もう片方は嘘つきだから嘘つきは反対の左と答えることが正直者にはわかる。だから、正直者は正直に左だと答えるわ。嘘つきに尋ねた時は、もう片方は正直者。正直者は右と答えるからその反対の左と嘘つきは答える。よって回答が同じになる。答えられた方向とは逆の方向の扉が必ず出口になる」
「素晴らしい!!パーフェクトだ!では次の問題に行くぞ。チームメンバーのことをよく知っていれば解ける問題だ」
本のページの上にチームメンバー1人1人の写真が浮かび上がった。その下には空白の白いスペースがあった。ちょうどそれぞれの写真に何か書けるようなスペースだった。
「マグショットというのを知っているか?」
「囚人が身長計の前に立って、ネームプレートをかけて撮る写真のことだな」
「そう、それそれ。そのマグショットをお前達チームメンバーは撮ることになったのだが、ただ名前を書くだけではつまらない。その代わりにそれぞれの特徴を書く事にしたのだ。しかしネームプレートがバラバラになってしまい、どれが誰のものなのか分からなくなってしまった。今からページの下に語群が出る。多少過激な表現をしているが、それぞれのことを分かっていればそんなに驚くことも無いだろう」
ツバサもベティも息を飲んだ。徐々に語群が浮かび上がった。語群は4つ現れた。
"凶悪暗殺者" "身内殺害者" "反逆者" "大魔女の子"
「では問題だ。"大魔女の子"に当てはまる名前を答えよ。解答権は1回のみ」
「何だよこれ……"大魔女の子"って何だ……ベティ、"大魔女の子"か?」
「私のママは魔女じゃないわ。私はこの中ならこれが一番当てはまっていると思う」
「それで多分レンがこれだろ……?俺はどっちだ?」
「アルルのお母さんはリア女帝でしょ?リア女帝は魔女じゃないわ。もしかしてツバサが大魔女の……私そんな話聞いたことないわよ」
「俺だって聞いたことねえよ」
反逆者って何だ、とツバサがつぶやいた。消去法で考えるとレンは"凶悪暗殺者"、ベティが"身内殺害者"になり、"大魔女の子"はツバサかアルルになる。ツバサの母親は魔女何かではなく普通のアース人だった。魔性の女というような、その辺りの意味なのか?確かにフェアリーを捨ててまでカーティスが愛した女性だ。それほど魅力的な女性と言っても無理は無い。
「でも何かピンと来ないな……」
「反逆者がどっちかで決まるんじゃない?反逆者っていうのは……権力に逆らって対抗する人のことよ。ツバサにはそういう対抗する相手がいた?」
「あ……殺し屋グループ。ずっと勧誘されているけど断ってるし、アルトゥールにも俺は……」
「じゃあツバサが反逆者ってことになるわね。そしたら必然的に……」
ツバサとベティは顔を見合わせた。そして首をかしげる。よく分からない、というのが2人に共通する本音であった。しかしこのまま黙っているわけにもいかなかった。ツバサは本を叩いた。
「叩くでない!」
「……答えを言うぞ。……アルルだ」
「……どうぞ、先へ進んでください。始めての訪問者です」
先程まで開かなかった扉が音を立てて開かれた。いつの間にか本は本棚に収まっていた。ツバサは懐中電灯をつけ、扉の向こうを照らした。幅が広い道だ。
「……行こう」
長く代わり映えのない廊下を歩きながら、ねえ、とベティは横から声をかけた。
「アルルが"大魔女の子"ってどういうこと?アルルのお母さんは女帝じゃない。あの人が実は魔女だとでも言う気?そしたらアルルはフェアリーの血を引いていないってこと?」
「アルルがフェアリーじゃないってことは有り得ないよ。カーターがあんなにもアルルのことを好んでいたし、それに……アルトゥールだって言っていたから」
「そうよね……それにアルルとリア女帝も雰囲気似ているものね。髪とか、瞳の色とかも同じだし」
「髪なんていくらでも染められる」
「……まさか、リア女帝がアルルのお母さんじゃないとでも言うわけ」
「もしかして、もしかすると、そうなのかもなぁ。でも俺とアスカが初めてアルルに会った時からリアおばさんは居たよ」
「……リア女帝は居るけどさ、アルルってお父さんはどうしたの?」
「父親?確かに、そう言われてみると聞いたことが……」
「怪物になる人……」
「当てたくないクイズだな。これ当てたら、将来怪物になるかもしれない奴が誰だか分かるんだぞ」
「"かもしれない"ではない。なるのだ」
口うるさく訂正してくる本に対してレンは少しイライラし始めていた。アルルはため息をついて本棚に寄りかかった。
「怪物っていうのがよく分かんないのよ。怪物になるって結構色々タイプあるでしょ。怒ったら鬼みたいになる、とか。男は夜に狼になる、とか。それだって怪物になる人って言えるじゃない?」
「ま、まあ確かに……今アルルが言ってた例は全部イメージが怪物って感じだよね。実際に怪物化しているわけじゃないってことだ。角が生えたり、牙が伸びたり……あっ」
「何か思いついたの、レン」
「うん。将来なるかどうかは分からないけれど、怪物みたいに体が変わったことがある人ならわかる。きっとそいつだ」
「答えを述べよ」
「ツバサだ!」
「……チームメンバーのことをよく知っているな。関心するよ。私も共に先へ進ませてもらうよ」
本はパタンと閉じられるとアルルの手の中に落ちた。目の前の扉が開いた。アルルが抱えていても本は喋ることができるらしく、くぐもった声で話していた。
「先へ進んだのはお前達が初めてだ。流石アルル・フェアリー……そして仲間も非常に優秀だ。向こう側の仲間も先へ進むことに成功したようだよ」
「ツバサとベティにも会える?」
「この先が合流地点だ」
アルルとレンがまっすぐ走っていくと、1つの扉の前に突き当たった。そこは行き止まりだった。扉の少し上にはスクリーンがあった。扉の向こうの映像だろう。人が1人回転椅子に座って、パソコンに向かっている。部屋の中は書類で溢れ、散らかっていた。
「この人が本物の"おしゃべり百科事典"?」
「"おしゃべり百科事典"はこの本に付けられたあだ名だ。ここまで来た魔術士は居なかった。ということは皆はまだ知らないんだ。こんな奥にまだ人がいるっていうことを」
「……おおレン」
いきなり背後から声がして、アルルとレンはびくっとなった。懐中電灯をこちらに向けて歩いてくるツバサとベティが居た。レンはそこで安堵をついてしまった。
「あれ、その本アルルに懐いちゃったの?」
「何か勝手についてきただけよ」
「私はここの案内役なのです!失礼な!……この部屋に入れるのは1人だけです。安心してください、中の様子はこのスクリーンから確認できます。声も聞き取れますよ」
「1人だけ?!」
4人は同時に声を上げてしまった。するとツバサは本を乱暴に掴むと尋ねた。
「中の奴は何の魔術士だ」
「な、なぜそんなことを私に聞くのですか」
「何かあった時に有利になる奴じゃないとダメだろうが。もし天術士でレンが襲われたらどうする。地獄をここで見させられて終わりだ」
「当たりですよ、ツバサ・サングスター。中にいる方は天術士だ。名前はアルノ……アルノ・フェアリーだ」
「何だって?!こいつ、本当に"おしゃべり百科事典"だな!そろそろ腹が立ってきた!」
レンが声を上げてツバサから本を奪おうとした。アルノ・フェアリーという名前を聞いてツバサの頭の中で色々な思考が繋がっていった。簡単にツバサの手から本が離れると、レンに叩かれる前に本は宙に浮いた。
アルノ・フェアリー。そうだ、フェアリーは女とは限らない。勿論男だって存在したはずだ。
「私が、行ってみる。同じ一族の人なら、分かり合えるかもしれない」
アルルの声で全員ははっとして静まり返った。アルルは扉の前に立った。扉に触れると簡単に開き、アルル以外の3人は廊下に取り残された。
スクリーンの中にアルルの姿が映る。ベティが疲れきったように地面に座ると、その両隣にツバサとレンも腰かけた。ベティはいつの間にか本を胸に抱えていることに気づいた。それを見てツバサがベティから本を取った。本はツバサの腕の中でばたばたと小さな抵抗をした。
「この変態百科事典め、お前はおしゃべりじゃなくて変態だ」
すると、スクリーンの中から声が聞こえてきた。




