11-1 警告
悪魔界、オウバルE。此処は黒の女王率いるグレイ一族の集会が行われる場所でもあった。アレン・グレイは気付いた時にはグレイの悪魔達と共にオウバルEに立っていた。
今日の黒の女王は機嫌が悪い。アレンはすぐにそう思った。前回の集会でレン・グレイがおかしなことを口走ってから女王の機嫌はずっと斜めを維持していたらしい。
「レンは居るのかい」
半分イライラしたような声で黒の女王が言った。普段ならすぐに体が宙を浮き女王の元まで飛ばされるレンであるが、今日に限ってその動きが無い。
ふとアレンが横を向くと、そこにはかつての組織の仲間であるジュリが立っていた。
「ジュリエット、レンは居ないのか?」
「あら、今日はレンは欠席なのかい。珍しいね。悪いけど私に聞いても無駄だよ。私とレンは住む世界が違うんだからさ」
「そう言われればそうだが……」
「……レンさん、何で来てないんだろう……」
心配そうに小声で呟いている少女が後ろに立っていた。近くにいるだけで冷や冷やとした寒さを感じる。氷術士か何かだろう。
「お前、レンのファンか何かか?」
「ファン?!ファンだなんてとんでもない。私にとってレンさんは恩人……そしてレンさんにとっても恩人……相互関係なだけです」
「相互関係?」
「そのままの意味ですよ。貴方は誰ですか?」
「俺はレジスタンスメンバーのアレンだ」
「ええっ!私もレジスタンスメンバーに所属するスズナと言います。支部が違うんですかね……左目どうしたんですか?治癒しましょうか?」
「結構だ」
スズナのことを手で止めると、また女王の方へ向き直った。女王はレンが居ないことを知り、ますます機嫌が悪くなった。
「アレンさんは女王のことがお好きなんですか?」
「好きも何も、忠誠を誓うべき相手じゃないのか?レン・グレイは俺達の敵となるかもしれない。お前の言う"相互関係"とやらも、もう少しで終わるかもしれないな」
「レンさんは良い人なんですよ!直接お会いしたことが無いんでしょう?!」
「確かにレンは良い男だと私も思うよ。あの時アレンの邪魔をしたのは正真正銘この私だしね」
ジュリも口を挟んできて、アレンは右目でジュリのことを睨んだ。この女達は一体何なのだ。レン・グレイの差金か?
「どこが良い男なんだ。奴はフェアリーの女を連れ回しているんだぞ。女王が嫌うナターシャという堕天使の血を引く者だ」
「レンさんがフェアリーの女なんかと一緒に居るところを私は見たことがありません!お仲間のベティは名字について何も知らない様子でしたし」
「ジュリエットは知っているよな?」
「ジュリで良いよ、アレン」
「……知っているよな、ジュリ?」
「……さぁ。そういうところに私は興味が無いからね」
「知らばっくれるな」
「女の好みなんて十人十色だろ。アレンは恋愛なんてしたことが無いから分からないんだな」
「お前に言われたくない!」
アレン達が会話をしている間に別のところで何やら声が上がった。それは一人の魔術士が伝えたとある情報についてだった。黒の女王が興味深そうに尋ねた。
「もう一度話せ。皆に聞かせよ」
「レンが別世界でフェアリーの女と、サングスターの男の魔術士にこてんぱんにやられているところを見たんだ。あれは間違いねえ、フェアリーの魔術士だ。目が潰れるんじゃないかってくらい眩しい天術でさ」
「それでレンは一命を取りとめたのか?」
「何とかな。レンの仲間の魔術士が駆けつけてきて退散していったよ。サングスターの奴は間違いなくグループの人間だ。しかも幹部にいる奴だと思う」
幹部という言葉を聞き、またざわめきが起こった。黒の女王も口に手を当て何かを考えるような素振りを見せた。それまで黙っていたスズナが口を開いた。
「要塞の一件で地雷でも踏んでしまったんでしょうか」
「要塞の一件というと?」
「別世界のイイナ村の隣にある殺し屋グループの拠点ですよ。知らないんですか?そこにレンさんとそのお仲間がおびき寄せられてドンパチやったんです。結構グループの人怒ってるんじゃないですか?」
「それ最近の話か?」
「ええ、割と」
ジュリは2人の会話を聞きながら黙りこくっていた。アレンの頭の中には疑問が広がった。フェアリーの女も連れて要塞に行ったと言うのか?レンの行動は理解不能だ。
「ジュリ、どうした。何か思い当たる事でもあるのか」
「いいや、別に。狩りをまだしていないから晩飯はどうしようかと考えていただけだ」
「……呑気な奴め。聞いた俺が間違いだった」
「アレンさんの言う通り本当にフェアリーの女が居たんですね。疑ってごめんなさい。レンさんを襲った女魔術士というのもその連れ回していた人なんでしょうか」
「そんな事があるのか?」
ジュリのおかしな反応にアレンもスズナも口をつぐんでしまった。ジュリは自分の発言に慌てて付け加えるようにして言った。
「レンが信頼して連れ回していた相手だろう?そんな女が攻撃なんかするものか……っていう意味だ」
「……あの女なんだな、ジュリ」
「あの女とは誰です?」
スズナの質問には無視して、アレンはジュリのことを見つめた。ジュリは困ったような顔をした。ちょうどその時女王が話し始めた。
「フェアリーとサングスター……遂に動き出したか。レンがこの場に居ないのも、夢を見る暇もなく一睡もできていないということなのか。この間レンはあんなことを言ってはいたが、その情報が本当なんだとしたら彼も考えが変わっているだろう。しかし、フェアリーが攻撃をしてくるとはレアだな」
「レンが苦戦していましたからね……というより、天術士なんかが相手では我々は歯が立ちません」
情報提供をした魔術士が落ち込んだ声でそう言った。黒の女王は唸りながら続けた。
「一方でサングスターとフェアリーは手を切ったという話も耳にしたのだ。一体何がどうなっている?しかしアルトゥールの奴はナターシャの石を手放した様子も無いし」
また口々に悪魔達や魔術士は意見を交わし始めた。アレンはぼそりとつぶやいた。
「もはや頭脳戦のようになってきているな」
「……実際のところ、サングスターの悪魔の方が頭はキレてる。もちろん黒の女王も頭は良いが。そのうち魔術士のサングスター氏を墓から掘り起こすかもねぇ」
「勝利はグレイ一族だ。この一族ほど団結している一族は右に無い」
「さあ、それはどうかな。勝敗は最後の最後までわからないもんさ。私は異界人だし魔術士でもないし、中立的な発言しかしない。許してくれよアレン」
「……とりあえずレンさんが一族から追放されなくて安心です」
ほっとしたように言うスズナに対してアレンは当たり前だろ、とため息をついた。
「身内を殺しでもしない限り、女王は追放なんかしない。フェアリーの女を連れ回していてもこの様子だからな」
「そもそも女王はフェアリーの女を連れているということ自体を存じているのですか?私ですら気付きませんでしたが」
すると黒の女王が叫ぶように言った。
「レンへの襲撃を受けて、諸君にもサングスターやフェアリーから攻撃が来る可能性がある。これまで以上に警戒せよ!」




