10-7 好きだよ
「ルーク……そんな……いや……ルーク……」
「……リッチェル……」
「嫌だ……嫌だよ……!!ルーク……!!」
リッチェルは泣き叫んだ。場に沈黙が流れた。カーターまでもが膝から崩れ落ちる。ツバサはルークの元に駆け寄り、その体を揺さぶった。
「死ぬな!ルーク!」
「……ごめん……もう体の感覚が……無いんだ……ツバサ。俺は……カーターの言う通り……皆に出会って……浮かれていたのかもな……これからも……生きろ……必ず……レン達と再会しろ……生きのびろ」
「最期の言葉みたいなこと垂らすなよ!まだ生きるんだよ!ルークも俺も皆!リッチェル置いていくのかよ!」
「……リッチェル」
ルークが何か言う前にリッチェルはそのぐったりとした体を抱きしめた。リッチェルの体は震えていた。ルークは抱き返す力すらもう無かった。
「一緒に帰ろう、別世界に。こんなところでお別れなんて私は嫌だよ。ルーク……私達まだ出会って1年も経っていないのに、どうして。ルークと出会って色んな友達ができて、ルークのおかげで私は頑張ってこれたのに。私、まだルークに何もしてないよ!ルークにまだ、何も……」
「ごめん、ごめんね、リッチェル」
ルークは涙を流した。リッチェルはルークの手をしっかり握った。ルークの頬にリッチェルの涙がぽたぽたと零れる。ルークは少し笑顔になって小さな声で言った。
「……好きだよ、リッチェル」
「私も、私も好きだよ……」
リッチェルは顔を近づけると、ルークの唇にキスをした。ルークは涙を流しながらゆっくり目を閉じた。
アルルはカーターの方に目をやった。カーターはうなだれていて、顔を見ることはできなかった。
それからルークが目を開けることは二度と無かった。
エレベーターは城の上層階に停止した。悪魔達は一人も居なかった。3人が降りた途端にエレベーターが急降下していった。
「アルトゥールが下から来る」
静かな通路を3人は警戒しながら小走りで移動した。どこかから誰かの声がする。その声を追いかけながら奥へと進んでいった。その時ベティが叫んだ。
「あれって出口だったりしない?!」
ハシゴがかかっている通路の横に扉があった。ハシゴを登っていけばすぐに扉を開けることが可能だ。カーティスがすぐに言った。
「私が先に登ろう。あそこの通路は狭い。一人しか歩けなさそうだ。出口に敵が潜んでいる可能性もあるからな」
「そうですね。じゃあ、カーティスさんお願いします」
カーティスが上へ登っている間、レンは足音が近づいてきていることに気づいた。誰かを担いで歩いてくる人が居る。その後ろにも続いている。
「ツバサ!」
「えっ?!ツバサ?!」
ベティとレンが叫ぶとカーティスも驚いたように上から見下ろした。ツバサは3人に気づき、特にカーティスに目をやった時仰天して、担いでいる何かを落としそうになった。担いでいるものはルークだった。
「ルーク……ってかツバサ、お前腕が……」
「大したことない……カーターの毒を受けただ―」
しかしツバサの体は言うことを聞かずにその場にくずおれた。レンはルークの体を受け取り担いだ。ベティはツバサに肩を貸して、ハシゴを登るのを手伝った。
「リッチェル、先に行って」
ベティはリッチェルの背中を優しく叩くと、リッチェルはうなずいた。アルルは黙ったまま突っ立っていた。レン達の顔を見ても何も様子が変わらない。しかしレンに攻撃をすることは無かった。
ぼうっとアルルは来た道を見つめている。アルルがハシゴを登ろうとした時、何かを察してアルルはハシゴから手を離した。
ハシゴはあっという間に崩壊した。アルルだけが下に取り残された。ベティがすぐに叫んだ。
「待って!アルルが!」
「やはり外に悪魔達が居た!まずいぞ!」
カーティスの声がしてベティは外へと顔を覗かせた。あっという間にアルトゥールも地下から戻ってきたようだ。悪魔に対抗できる人数が少ない。ツバサも腕に怪我をしている。レン、ベティ、カーティス、それからリッチェルが居るが魔法が悪魔に通用するかは分からない。そもそもリッチェルに戦える気力があるかどうかわからない。
「リッチェル、戦える?」
「あ……え……」
「大丈夫、俺が行く」
「ええっツバサ腕が……」
ツバサは腕を押さえながら外へと出ると、カーティスの隣に立った。
「久しぶりだな、父さん。こんな風に再会するとはな」
「それはこっちの台詞だ。"感動の再会"はもう少しお預けのようだな」
カーティスは怪我をしたツバサの腕を掴むと、治癒魔術をかけた。嘘のように毒が解毒され、ツバサは目を見開いた。
「父親を甘く見るんじゃないぞ、ツバサ」
「俺達2人でも相手できそうだな」
ベティはレンのローブを掴み、城内へ引き入れた。
「レン、アルルを何とかして上へ連れてきて。私がカーティスさんとツバサの援護をする」




