10-6 裏切り者
アルルはリッチェルに手を引かれて走り続け、やがて入口の大きな扉の前までやってきた。リッチェルはその扉を開けようとしたが、扉は重くてびくともしなかった。
「そんな?!どうして?!入ってきた時は何も無かったのに」
「リッチェル、どこへ行くの……?」
「帰るのよ!この城から出るの!私達はこんな所にいちゃ駄目!アルルだってリアさんが、お母さんが居るんだよ?きっと心配するよ!」
「心配なんかしないよ……だって母さんは始めから私がサングスターと結ばれることを望んでいたんだから。これが母さんの望み通り―」
「ふざけないで!私は何としてでも別世界に帰るから!」
「リッチェル!!」
名を呼ばれて振り返ると、ルークがかけつけてきたところだった。そのルークの後を追うようにツバサも走ってきた。
「ルーク、ルークも帰ろうよ、別世界に。おかしいよ……アルルもルークもカーターとかいう奴も……」
「……どちらにせよそこの扉は入口のみで一方通行なんだ。出口は別の場所にある……ツバサ、レンとベティが脱獄をしたそうだ。お前の父親、カーティスも一緒だそうだ」
「どういう事だ?!」
「そんなことより出口はどこにあるのルーク!」
リッチェルがそう声を上げるとルークはしぶしぶついてくるように言った。階段を上がり玉座のある扉へと向かって走っていく。
「おいおいおいおいちゃっかり逃げようとしてんじゃねえよ!」
魔法を解いたカーターが下から叫ぶ声がした。カーターは魔術を発動し、ドロドロとした毒術を玉座のある 扉に張り巡らした。ルークがリッチェルを止めて後ずさった。
「アルルを俺に返せ!そしたら出口への道を開いてあげるよ、リッチェルちゃん」
「カーター……!!」
「ダメよ、アルル」
リッチェルはアルルの腕を掴んで引っ張った。ツバサもアルルの背中を押すと、魔術を発動させた。カーターに向けて攻撃するが、カーターは易々と黒術を避けた。
「さあ、早く。できることならツバサ君とは戦いたくないんだ。仲間内で戦うことは良くないよ」
「……リッチェル、つかまって」
ルークはリッチェルの手を掴んで、影術で共に姿を消した。その時リッチェルはアルルの腕も掴んでいた為、アルルも影術の影響を受けて姿を消した。アルルとリッチェルが目を開けるとそこは空っぽの玉座の間だった。ルークはアルルも連れてきてしまったことに気づき顔つきを豹変させて叫んだ。
「走れ!出口は奥の階段を使って行けば着く!俺が時間を稼いでいるうちに!」
「時間って……」
「カーターがすぐにここに来る!早く逃げろ!」
その時ルークの右肩に激痛が走った。右肩を押さえると緑色で染まっていた。影術で移動した時にカーターの毒に触れてしまったのだろう。リッチェルはアルルと共に奥へと走り出した。
アルルの姿が消えたのを見て、カーターの顔から微笑みが消えた。真顔になったカーターはツバサに目をやった。
「最悪だよ……俺は一族の人間を消さなくてはいけないらしい。ルークは、ルーク先輩は俺達のことを裏切ったんだ……お前らが脱出しようがしまいが、アルトゥール様に俺は秘密を話す」
「な、何なんだよその秘密って……」
階段を登り始めるカーターから一定の距離を保ちながらツバサは尋ねた。カーターは笑み一つ浮かべずにぼそりと言った。
「ナターシャの封印を解く方法を俺は知っている」
「アルルが読めなかった部分……!!」
「今まで誰もアルトゥール様に教えることが出来なかった、ナターシャの封印を解く方法。それは俺によって伝えられる」
「……」
「そこをどいてくれないか」
「……嫌だ」
「……どけって言ってるんだよっ!!」
途端に猛スピードでカーターの毒術がツバサに向かって発射された。ツバサは慌てて攻撃を避けたが、片腕に少し毒術を受けた。瞬時に重くなる腕にツバサは声を上げた。
「くそっ!!」
「邪魔だ、ツバサ君」
ツバサの横を平気で通り過ぎカーターは玉座の扉へと向かう。ツバサはいきなり走り出すとカーターの背後に回った。
「ツバサ、君ってやつは……本当」
「潰滅!!」
「馬鹿だね」
カーターは直前でバリアを張りツバサの攻撃に耐えた。ツバサの黒術は強力であっという間にバリアはひびが入り始めた。カーターは舌打ちをした。バリアが壊れた瞬間、カーターは玉座の扉を押して中へと逃げこんだ。ツバサも後を追ったが、扉に仕掛けてあった毒術をまた体に受けた。しかし不思議とまだ体は動いた。奥へと走っていくカーターの後を追っているとカーターはいきなり足を取られて転んだ。
「ルーク!!」
ルークはカーターの前に立ち塞がった。ツバサがいる場所にまでルークの魔力は感じられた。
「ルーク、もうあんたは先輩でもグループの人間でも何でもないね。残念です、本当に。俺の味方だと思っていたのに……どうしてアルルと俺は一緒にいちゃいけないんだ?何でレン・グレイのことを知っていたくせに何もしなかったんだ?なぁ、答えろよ!裏切り者!!」
「俺は潜入捜査をしていた。司書の仕事をしている時にツバサと偶然知り合った。レンのこともちゃんと報告しようと思っていた」
「嘘をつくな。都合の良いことを言うな!あんたは忘れたかったんだろ。自分の立場をさ!!ツバサやレン・グレイやリッチェルや、色んな人に囲まれて楽しかったんだ!!組織の皆のこともアルトゥール様のこともどうでも良くなったんだろ!たった4.5年前は、一体何人のグレイを殺してきたんだろなぁ?もしかしたらレン・グレイの母親を殺したのもあんたかもしれないよな?俺はあんたの背中を追いかけてここまで登りつめたんだ、サングスターが勝利する未来のために今まで頑張ってきたんだ」
「……」
「図星か?!じゃあ死ぬ前に凄いことを教えてあげます、ルーク先輩。ついでにツバサ君にもね」
ツバサとルークに挟み撃ちにされているような状況でもカーターは全く動じなかった。それどころかカーターは笑い始めた。ツバサは今になって体が毒に反応して小さく痛みに呻いた。
「1回しか言わないから。ナターシャの石の封印を解く方法」
「……」
「……」
「フェアリーの血をナターシャの石に与えること」
「まさか、リッチェルやアルルを……っ!!」
そうルークが言いかけた時だった。カーターは魔術を発動させ、飛び上がった。リッチェルとアルルの声がした。
「カーター!やめろ!!」
ルークは叫び、影術で姿を消した。ツバサは痛む足を引きずりながら走った。カーターはリッチェルを殺すつもりだろう。裏切り者のルークが愛するリッチェルのことを。
「ごめんね、リッチェルちゃん。でも、ナターシャを封印から解くには、誰かがやらなければいけないことなんだ。2人で仲良くあの世へ行くと良いさ」
「リッチェル!逃げろ!」
「ルーク!」
ルークが向かおうとした時、カーターは片手で一撃を出した。
「毒破壊」
狭い通路でルークは避けきることができず、攻撃をそのまま受けた。ルークは痛みで絶叫した。その時アルルがリッチェルの体を守るようにして抱いた。
「何やってるんだ、アルル……じゃあリッチェルを連れてゆっくりこっちへ来て。ゆっくりでいいから……」
しかしアルルは後ずさった。おまけに片手を伸ばして魔術を発動させようと構えた。その頃ツバサはルークのところまで追いついたところだった。
「何を怖がっているんだい?大丈夫だよ……ほら。本当はこんなことしたくないけど、アルルに当たったらすぐに治癒してあげるね」
「これ以上、人殺しにならないで……カーター!!」
そのアルルの小さな叫びは、リッチェルにもカーターにも届いたが、既に遅かった。
カーターの手から毒術が勢いよくリッチェルに向かってまっすぐ発射された。アルルはリッチェルの体を抱きしめた。
その時だった。ルークがリッチェルとアルルの前に影術で移動した。毒術がルークの体を貫き、ルークはカーターが発射した毒術を全て体に受けた。
ルークは力なく倒れた。




