表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/13

第4話 厄災と救世主

 不審な馬車達は、村の広場までやってきた。先頭の男が大きな声で叫ぶ。不穏な空気に人々は

窓を閉め、その隙間から外の様子を除く。


「村長に会いに来た!村長を出せ!そして、この村の若い娘達を、すべてこの広場へ連れてこい!少しでも抵抗してみろ、森に火をつけ、皆殺しだ!」


 住民達は身を震わせた。盗賊団だ。近隣の村では、この盗賊団に襲われて若い娘が、すべてさらわれたという。ついに我が村に厄災が来てしまったのだ。住民達は、おとなしく男達の要求に従った。若い母親は、幼い子供たちを納屋に隠し、自ら広場へ出頭した。中には、娘に男装をさせ、やり過ごそうするものもいたが、男の手下達にバレて、母親、娘共に広場に連れてこられた。父親は、妻と娘の前で殺された。


 帰路に着く途中であった、アレクシオスとアリッサは騒動を聞き、エリオ達が気になった。走って店まで戻ったが、彼女達はすでに囚われて、店はもぬけのからであった。二人は急いで広場へ向かう。広場に着くと、村じゅうの若い女達が囚われていた。その中にエリオの姿もあった。妻や娘を取られた男達の視線が、一人の男に注がれている。


「さあて、村長さん、我々と取引をしようじゃありませんか。私はあまり争いごとは好きじゃない。穏便に済ませましょう。ビジネスの話だ。」


 趣味の悪い派手な服を身にまとい、宝石をジャラジャラとつけた男は下卑た笑みを浮かべながら、村長の到着を待つ。しばらくすると、村長が到着した。


「こんばんは、村長さん。私はニールズ商会のカイルと申します。本日はビジネスの話を持ってまいりました。」

 

 村長は状況を飲み込んだのか、険しい表情になる。カイルは口角を吊り上げ、猫なで声でさらに続ける。


「そんな怖い顔をしないでくださいよぉ、本日はあなた方、エルフの美しさをお金にするいい方法を、提案しに来たのですから。こんな貧しい暮らしとはおさらばできますよ?村長?」


「断る!貴様らはニールズ商会とは名ばかりの、人間族(ヒューマン)の奴隷商人どもだ!我が村の娘たちを離すのだ!」


「おやぁ、早速、交渉決裂ですか?残念だ、非常に残念だ。では痛い目を見てもらおう。」


 乾いた音と共に、弾丸が放たれ村長が撃たれる。命に別条はないが、痛みにもがき苦しむ村長。それを合図に広場にいたエルフの男たち数人を、手下らが殺す。妻か恋人であったエルフの女たちが、悲鳴を上げ、泣き叫ぶ。カイルはそれを見てゲラゲラと笑いだし、手下たちもつられて笑いだす。


「ハハハ、外してしまったようだ。命拾いしたな、村長。だが次はない。さっさと返事をよこすのだ。私はせっかちでねぇ。いつまでも待ってられない。」

 

 皆がオロオロしている中、冷静に状況を見ていた男がいた。アレクシオスだ。奪い、奪われるそのような状況を見て、彼のラケダイモーンの戦士としての血が、たぎってくる。あの武器は何だ?音がして、煙が上がったと思ったら村長が倒れたではないか。アリッサなら何か知ってるかもしれぬ。


「アリッサ、おいアリッサ!あの煙の出た筒はなんだ?知らないか?」

 

目の前で起きている惨状に、呆然とする彼女の肩を掴み、揺らすと、アリッサは我に帰る。


「あ、あれは、鉄砲(マッチロックガン)です。最近、人間族が開発した武器です。詳しいことはよく知りませんが、金属の弾を発射する武器のようです。」


 鉄砲、聞いたことも、見たことのない武器だ。だが、どんなものかはだいたいわかった。

あの武器は非常に厄介だが、次弾は連続して打てないらしい。なれば十分勝てる。あいつらはただ武器を持った素人に過ぎぬ。


 カイルは、返事をしない村長にしびれを切らし、村長を撃ち殺すと、手下たちに向かって叫ぶ。


「野郎ども!俺たちに逆らったものを、すべて殺してしまえ!そして森に火をつけろ!」

 

 手下たちが住民を再び手にかけようとしたその時、アリッサが叫んだ。

 

「おやめなさい!村人に乱暴をするのは!私は、この村の巫女、アリッサです。奴隷なら私がなります。だからもう、こんなひどいことはやめて、皆を解放しなさい!」


 カイルは再びゲラゲラと笑った。そしてわざととらしく拍手をした。手下たちも下卑た笑いとともに拍手をする。

 

「すばらしい!泣けることをいってくれるじゃないか、お嬢ちゃん。よーし、わかった。俺のそばまで来い!仲間たちを助けてやる。もう誰も殺したりはしない。ほんとうさ。」


 アリッサは歩きだし、カイルのそばまで着くと、皆を解放するように再度懇願する。だがアリッサの期待は裏切られた。カイルの指示で、手下が再びエルフの男たちを殺したのだ。カイルは、絶望の表情を浮かべるアリッサに後ろから抱きつき、尻や胸を弄る。


「約束なんて守るか、バーカ。お前もまとめて性奴隷だ。特にお前のような、上玉の巫女は高く売れる。ハハハ、大金持ちだぁ!」

 

 もうダメだ。この村も、私たちもおしまいだ。誰もがそう思った時、どこからか拳大の石が飛んできてカイルの手下の一人に命中した。手下は額が割られ、一撃で絶命した。その場にいたすべての視線が、カイルの目の前に歩み出た一人の男に注がれる。


 「誰だ!ん?その服装、その耳、エルフ族ではないな。どこの野蛮人(バーバリアン)だ?オッサン!」


「我は、アレクシオス、ラケダイモーンのアレクシオス!貴様らは奴隷(ヘイロイタイ)が欲しいのであろう?

なれば力づくで奪うがいい!来りて、取れ(モーロン・ラベ!)」

 

 鎧も、盾もないがその姿は、歴戦の戦士であり、そこにいる誰もが、その男から漏れ出す殺気に寒気を感じた。まるで、森の中で猛獣に出くわしたような恐怖に、先ほどまで、余裕の表情を浮かべていたカイルの顔が引きつる。


「…オッサン、只者ではなさそうだな。だが我々に刃向かうとは愚の骨頂!野郎ども!奴を殺せ!」

 

 剣を持った手下5人が、アレクシオスに襲いかかる。思った通りだ、素人の寄せ集めだ。先陣を切った手下の土手っ腹に、蹴りを入れ、肋を砕く。痛みで動きが鈍ったところで腕を掴み、腕を折る。そして、力の抜けた手から剣を奪うと、なれた手つきで首を刎ねる。そして一人二人と切りつけ、突いて、ものの1分ほどで、5体の屍が転がった。


 カイルは驚愕した。けしかけた手下たちはかなりの手練れだったはず。それが、たった一人に傷を付けることなく、壊滅したのだ。手下だったものたちの返り血を浴びたその野蛮人(バーバリアン)は、こっちに歩み寄ってくる。カイルは震える手をなんとか抑えて引き金を引く。弾はアレクシオスの肩を掠めた。しかしアレクシオスは歩みを止めない。カイルの一瞬の隙をつき、アリッサが逃げ出すが、カイルは腰が抜けてしまい、追いかけることができない。アレクシオスはカイルのそばまで近づくと、ようやく足を止める。

 

「ど、どうだ野蛮人(バーバリアン)?、お、俺の仲間にならねぇか…?稼ぎも山分け、綺麗なネエチャンも抱き放題だ!わ、悪い話ではないだろ!だから見逃してくれ!助けてくれぇ!」


 アレクシオスは何も答えない。そしてカイルの首を刎ねた。そして刎ねた首を掴むと、エルフたちの方へ向き直った。エルフたちはゾッとした。次は我々が、あの野蛮人(バーバリアン)に虐殺される番だと誰もが思った。しかし、違った。


「我々は、もう奴隷に落とされることはない!村を襲った盗賊たちは、ここで屍となった!我々は勝利したのだ!娘を!妻を!子供たちを守ったのだ!エルフ達よ!勝鬨の声を上げろ!」


 エルフの女達は、その声を聞き、一目散に男達の元へ戻っていった。先ほどまで血が流れた広場は、喜びの声にあふれていた。また、盗賊たちの馬車には、他の村からさらわれた若いエルフの女達が大勢いた。住民達は、彼女達の枷を外し、食事を与えた。


 厄災は去った。たった一人の男が盗賊団を壊滅させたのだった。


「アレクさーん!アレクさーん!おーい!」


 彼を呼ぶ声がして、振り返るとアリッサがエリオとともに駆けてきた。二人とも無事であったのかと、胸を撫で下ろす。アリッサは、駆けてきた勢いそのままに、アレクシオスに抱きついた。


「私たちを救ってくださって、ありがとうございます。やはり精霊達の言っていた『楯』とはアレクさんのことだったんでs…。」

 

 言葉を最後まで言わぬまま、アリッサは気を失った。無理もない。あんなに勇気を振り絞ったのだ。アリッサをひょいと抱きかかえる。エリオが何やら恨めしそうな目でこちらを見ているが、なぜだろうか。


そして勇者は、朝日が昇り始めた丘をのぼり、家路に着いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ