表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

第2話 エルフの村 その1

 アレクシオスがこの村で、介抱されてから3日が経った。驚くべきことに、傷はすっかり良くなっている。骨は砕け、体に穴がいくつも空いたというのに。


「なあ、アリッサ殿、ちょっといいか?」


花瓶の花を取り替えていたアリッサが振り向く。


「もう、アリッサでいいって言ってるじゃないですか、アレクさん。」


 アレクさん。そう呼ばれると少しむず痒い。なにせスパルタの生活では、このくらいの年から女との交流はなく、ひたすらに訓練に励んでいたからだ。30で妻のエトナをあてがわれ、初めて夫婦と意識したときのようだ。少し息を整えて、続ける。


「私の傷は、三日三晩では、なおらないほどひどかったのであろう?だが、今はどうだ、痛みもほとんどない。お前らの国の医者はよほど腕がいいのだな。」


「いいえ、医者ではなく、私の回復魔法です。もしかして、アレクさん、魔法をご存じないの?」

「魔法?魔術(マゲイア)のことか?」


「はい。ここに連れてくる時、私が応急処置として回復魔法(ヒーリング)を施しておきましたから。それでも3日で元気になるなんて、私も驚きです。」


「つまり、アリッサは魔法が使えるのか?」


「私だけでなく、エルフ族は魔法が使える種族なのです!」


 えっへんと言わんばかりに、アリッサが胸を張る。


 「エルフは、森の精霊達の(マナ)を使って、魔法を繰り出します。例えばほら。」


 アリッサが右手をかざすと、アリッサの掌が光り、そこから蔦が現れた。蔦は花瓶に絡みつき、持ち上げる。アレクシオスは驚きを隠せなかった。まるで神の力ではないかと。なるほど、エルフ族とは魔術(マゲイア)の民であるのか。花瓶をテーブルの上に置き、蔦を収めると、アリッサは無垢な笑顔でこちらに向き直す。


「驚きました?このくらいで驚くなんて、アレクさんよほど、辺境なところからこられたんですね?」


「そうなのかもな。さてアリッサ、外へ行きたい。そろそろ躰を動かさねば、衰えてしまう。」


「そうですね。では村を案内しましょう。それに、服も…。」


衣類(キトン)ではだめなのか?」


「その布きれ一枚を、あなたの国では服と言うの?野蛮人(バーバリアン)なの?」


野蛮人と言う言葉に、少しムッとするが、助けてもらった以上、この地の風習に従うとしよう。


「よし、出かけよう。」


「はい!」

 

 二人は外に出る。あたりには石造りの家々と、壮大な森に囲まれた、見事な風景が広がっていた。美しい。まるでアテナイのような風景だ。しばらく歩くと、住民たちの姿が見えた。しかし、住民たちの視線は歓迎しているようには見えない。ヒソヒソと話す声が聞こえる。


「…人間族(ヒューマン)だ、なぜ人間族(ヒューマン)がここに…」


「おい、あの人間族(ヒューマン)に石をぶつけてやろうぜ。」


「バカ!見てみろ、ムキムキで、ヒゲもじゃでおっかないぜ。どこの野蛮人(バーバリアン)だアイツ。きっと、首の骨を折られて殺されるぞ、俺たち。」


 大層な嫌われかたのようだ。ちらりとアリッサの方を見ると、申し訳なさそうな表情をしているのがわかる。


「あ、あの気を悪くしないでください。エルフ達は、人間をあまりよく思ってないだけですから!普段はすごくいい人達なんですよ!」


「ただ嫌っているわけではなく、恐れている。何やら確執があるようだな。人間達とは何かあったのか?」


アリッサは立ち止まり、アレクシオスの方を向く。そして真面目な表情で、口を開いた。


「ええ、実は近頃、人間族の奴隷商人がエルフの村を襲撃し、若い娘をさらっていくのです。エルフの奴隷は人間達の間では、高く取引されて人気の商品なんだそうで。しかし現状は、奴隷とは名ばかりの慰み者の扱いだと聞いています。」


「我がラケダイモーンでは、奴隷(ヘイロイタイ)は財産だ。文字が書けるもの、話術に長けるものは、富豪や政治家の有能な補佐に、その他のものは畑を耕し、我々に食料を供給する、労働力なのだ。それをただ己の欲望のために略奪し、犯し、売り飛ばし、貨幣を得る。それでは恨まれても、仕方がないな。」


「わたしも、人間族(ヒューマン)が怖い、そして憎い。」


 アリッサは、今までに見せたことのない、悔しそうで、恨みのこもった表情であった。


「そうであったか。では、なぜ私を助けたのだ。瀕死の私の喉を突けば、いつでも殺せたはずだ。」


「精霊たちが教えてくれたんです。この人は悪い人じゃないよ、って。」


「アリッサは精霊たちと話ができるのか?もしかして巫女(ピュティア)なのか?」


「はい、巫女です。アレクさんが倒れていたあの日、私は精霊たちの声を聞いたのです。『遠地より傷つきし楯が来たり。その楯は村を護るものなり』とね。」


「その神託を信じ、私を助けたというのか?どこぞの馬の骨とも知らぬ、野蛮人の私を。」


「はい!アレクさんこそ、精霊たちのいう『楯』だと確信しました!」


 どうだ、と言わんばかりにアリッサは胸を張る。その自信はどこからやってくるのかは謎であるが、まあいい。とにかく仕立て屋に急ぐとしよう。


「アレクさん、こっちです!ついてきてください。」

 

急に走り出し、元気よく手を振るアリッサを追いかけて、二人は仕立て屋へ向かう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ