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「由利恵、ちょっと良い?」
生徒会室で書類をめくっている由利恵を廊下に呼び出した。
彼女は全寮制のこの学校に入ってから忙しい生徒会で活動してきた。なかなか家に戻らないその意味を、自分は考えたことがなかった。
「由利恵、夏休みになるまえに家に帰ろう。彼氏ができたんなら母さんたちにも紹介したほうが良いし」
「それって大地くんも連れて行って良いってこと?」
「あいつ以外いるの」
そのときの由利恵の顔はとても美しかった。なにをしても、なにを言っても控えめに笑うだけだったのに。
「なあ、由利恵。正直に言って欲しいことがあるんだけど」
「なに?」
「俺のこと、気持ち悪いって思ったこと、ある?」
気持ちを押しつけるだけだった自分を今なら省みることができる。
由利恵は首をかしげて、すぐに首を左右に振った。
「裕紀はいつだって可愛い弟だったよ。もちろん、困らせられたことはいっぱいあったけど」
「うん、ごめん」
抱き寄せたいのをこらえる。まだ気持ちが残っている今はそれをしてはいけない。
由利恵と別れて階段へ向かうと、逃げずに頼子が立っていた。
「ちゃんと聞こえた?」
「聞こえた。気持ち悪いって言ってごめん」
「べつに良いよ」
裕紀が手を取ってきた。そのまま自然に握られる。
「これは平気?」
「っ、まあ平気かな」
「良かった。これで吐かれたらどうしようかと思った」
「さすがに大丈夫だよ」
むしろ心地良い。恥ずかしいので絶対に言わないが。
「じゃあ抱きしめるのは?」
「…………分からない」
「試しても?」
「近藤さんが一番なくせに」
我ながら拗ねた口調だった。
「そうだけど、変わってるかもしれないから。頼子だって前とは違うだろ」
黙ったままだったので裕紀は抱きしめた。由利恵とはちがう身体だが、たしかに大事にしたいと思う。
頼子もまた、こみ上げるものがあった。だがそれは吐き気ではなく、もっと温かで優しいものなのだった。




