バス停
妙なコンセプトの会議で私はまた一つ間違えていたようだ。
あれから数日しか経っていないのだが、この状況は一体何なのだろうか。
私は今、真田君と二人でバス停に立っている。
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遡ること30分ほど前、私はクラスメイトの女子テニス部に所属している友人に声をかけられた。
先日の奇妙な会議にも出席していた女子なのだが、教室の掃除が終わる頃に
「今日ちょっと付き合って欲しいところがあるんだけど」
と言ってきたのだ。
今日は先生方の仕事の都合で全部活動が休みの日だった。
買い物か何かだろうかとふたつ返事で了解した。
お店が多くある市街地へ行くには電車かバスに乗る必要があるので、私達はおしゃべりしながら学校を出ると少し離れた方のバス停へ向かった。
バス停は周囲にいくつかあるのだが、彼女はこの近辺の中学出身でとても詳しかった。
「今日はこっちね」
と言われるまま、残念な思考力も使わず久々の街への楽しみを想像しながらホイホイ着いていった。
バス停に着くと真田君が一人先客でいた。
ギクリとした。
何しろ恋愛感情をいまいち理解していない私は
「最近真田君を意識しすぎてしまうから苦手だな」
などと、またおかしな考えをしはじめた矢先の事だったので相当動揺したのだ。
今時小学生でもそんな理不尽な発想をする子は少ないのではないだろうか。
「今日の用事はここね。んじゃ真田、後はよろしくー。」
彼女は笑顔で手を振りそう言うと私を置いていなくなってしまった。
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そして今である。
あの会議で口止めする事を忘れた私の間違いだ。
いやしかしあのテンションでの会話は口止めの効果は無かったかもしれない。
流石の私でも、この状況が何を意味していて、彼女達が何を求め企んでいるのか分かる。
でも、私自身真田君をどう「気になる」のかも分からないのに告白なんてできない。
ましてや最近苦手意識を持っていたのだ。
真田君は視線を私から道路の方へ移し黙って前を向いている。
さてどうしたものか。
ここはバスの本数が少なく、車通りも人通りも少ない。
しかしこのバス停は小さな小屋になっていて雨風を凌ぐ事ができる優秀なバス停だ。
それとは反する出来損ないの私の思考力はパンク寸前なのだが。
雪が降り始めた。
雪が降ると周囲の音が聞こえなくなる。
雪に音が吸収されるのだ。
私は静寂の中色々考えた。
真田君は何と言って呼び出されたのだろうか。
育が話あるらしいよとか言われたのだろうか。
せめて何か話題をふるべきなのか。
しかしちゃんと会話をした事が無いし、何を話したら良いのだろう。
これが体育会系のアシストなのだろうか。
ちょっとばかり厳しすぎやしないか。
そもそも私が良く分からないのにアシストしてどうするんだ。
私はそんな事をぐるぐる考えながら、寒そうに首を縮めて前を見る真田君の横顔を見ていた。
突然
「あのさ。」
真田君がこちらを見て言った。
「寒いのに悪いね。」
私は首をふった。
そして沈黙から解放された安堵とともにまた疑問がわき、頭がさらにぐるぐるになっていく。
なんで真田君が謝るんだろう。
この場合私の友人が呼び出したのだから私が謝るべきなのではないのか。
しかし何て謝れば良いんだろう。
そもそも何て呼び出されたのだろう。
そして彼はまた前を向いて
「ちょっと話してみたいなと思ったんだ。」
と言った。
私は今度は頭が真っ白になった。
真田君が苦手とか、気になりすぎるなども全部真っ白になった。
私と真田君はバス停の中にあるベンチに座った。
最初はとてもうろたえていたが、少しずつ私はおしゃべりになった。
彼を知りたい、自分を知って欲しいという思いが湧いてきたのだ。
気付いたら一生懸命話していた。
幸と頑張っている部活動の事。
サッカー部のマネジャーの冴子ちゃんやクラスメイトとの事。
サッカーの試合を見て感動した事。
真田君はあまり口数が多くない人で、しかし私の話を興味深く聞いてくれた。
そんな中でも真田君の話も少し聞けた。
ここに連れてきた私の友人は、真田君の中学の同級生だった事。
サッカー部の練習の事。
クラスメイトが幸を好きだから応援してやってよと言われた時は、凄く驚いて凄く喜んだ。
屋根があるとはいえ雪が降る寒い中だったはずが、気付くと寒さを感じていなかった。
真田君はやっぱりクラスメイトと笑いあう時の笑顔を見せてくれない。
でも目が凄く優しかった。
男らしい意思を感じさせる力強くバランスの良い二重の目なのだが、私はこんなに優しそうな目の男子を初めて見た。
それだけで十分だった。
多分私はこの時点で完全に落ちていた。
私は彼の目に吸い込まれるように見つめながら、最初から一番聞きたかった事を無意識にぼんやりと発した。
「なぜ私と話をしたいと思ったの?」
彼は少し驚いたような表情をしてから前を向き、頭をかきながら
「言わせる気か。」
とぼやいた。
熱にうかされるという表現に近い状態だった私はふと我にかえり、また間違ったかもしれないと急に気持ちが焦りだした。
暫くして彼は言った。
「可愛いなと思って気になってた。」
そして少し長い沈黙の後、こちらに顔をむけ目をしっかり見ながらまた彼は口を開いた。
「好きだ。付き合おう。」
私はその言葉を聞いた瞬間、自分の中に湧いて燻っていた説明のつかない塊は全て恋の仕業だったのだと確信した。
その次に塊が弾け、幸せと切なさと暖かさと苦しさが一辺に心に広がったような感覚に襲われた。
「はい。」
こうして私は恋心を知った瞬間に大好きな彼氏ができた。
「可愛い」なんて言葉は信用した事が無かったけど、彼が言うと力になる。
私は初めて
「可愛いくなりたい。」
と心底思った。
次の日クラスメイト達からジュースをたかられ、優しさを含みつつ初めて女子の洗礼を受けたのだった。




