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「残高3ゴールドです」

「は?」

「3ゴールドです」

「……」

「……」

「いやいやいや!おかしいって!!」

俺は銀行について職員に口座を確認してもらっていた。

そしたら、わけわからんことを言われた。

いや、3ゴールドなわけないだろ!!きっと何かの間違いだ!

「あのぉ、もう一回確認してもらっていいっすかね……?自分、ルードっていいます」

「はい、ルードさんですね。確かに昨日の夜、数千ゴールド振り込まれています」

「ほら見ろ!」

「その後、規約に基づき九九・九九九パーセントが寄付に回されています」

「ほら見――は?」

……寄付?

俺は全く理解できなくて、職員の四角い眼鏡を見つめる。

職員は分厚いファイルを取り出しバサバサとめくり始めた

「ええ、ルードさんは5年前に口座を作られていますね?」

「……はい」

「その時の書類がこちらです。寄付の欄をご確認ください」

そこには確かに俺の字で数字が書いてある。

俺が寄付?

そんなわけ――

……あ。

なんか思い出してきた……

――寄付?なになに?一定額以上振り込まれたら自動で寄付される設定?

――ふっ、大金稼ぐんだし仕方ねえな。

――ぜろ、てん、ぜろ、いち、っと。0.001パーも寄付するなんて俺様やさしいー!

はっ!そうだ、確かに書いた!

でも、0.001%だけのはず!なんで!

俺は書類を凝視した。

そして気づいた。

『残高維持率 0.001%

寄付率   __%』


……。

……。

「あの……」

「はい」

「残高維持率って……」

「口座に残る割合ですね」

「寄付率って……」

「寄付される割合ですね」

「……」

「……」

「俺だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

俺のせいだった。

終わった。 

せっかく頑張ったのに。

酷すぎるよ。

こんなのあんまりだ。

もう立つ力も無えよ。

「高額寄付ということで後日賞状が贈られます。おめでとうございます」

膝をついてうなだれる俺に、淡々と報告する職員。

こいつらって、血も涙もねえの……?

そっからなんとか取り返そうと粘ってみたが駄目だった。

あの職員たぶん人の心どっかに捨ててやがる。

俺はただ、ふらふらと街を歩いていた。

そして、質屋を見かけた。

天啓が降りた。

そうだ!まだ俺には装備がある!

あれを売って少しでも金を取り戻すんだ!

まだだ、まだ終わってねえ!

俺はなんとか力を振り絞って走り出した。

疲労と精神的ダメージで息を切らしながら、林にたどり着く。

もうすぐ空き家だ、今すぐ回収して売っちまおう

家に近づくと話し声が聞こえた。

俺はとっさに隠れて様子を伺う。

空き家から二人の男が出てきた。一人は気の弱そうなおっさん。もう一人はスーツを着た眼鏡。

俺は、眩暈がしそうなのを必死に抑えじっと見つめる。

嫌な予感がする。

……やめろ、やめてくれ。

しかし、俺の願いは届かなかった。部屋からは兵士たちが装備を持って続々と出てきた。

「それ、俺のぉぉぉ!!!!」

我慢できず飛び出しってしまった俺を見た気弱そうなおっさんが顔を明るくした。

「この人です!この人が置いていくのを見ました!」

「い、いや、それは……」

まずい、このままじゃ。あの兵士どもに捕まる!

「ありがとうございます!この高価な品々があれば子供たちも無事冬を越せます!」

「へ?」

逮捕されるどころか、なぜか感謝された?

どういうことだ?

子供たち?

ふと脳裏に電流が走った。

ま、まさか……

「こんな大量に寄付してくださってありがとうございます!」

「ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!!!!」

おっさんの胸倉をつかもうとしたとき、眼鏡が口を開いた。

「おや、寄付ではないのですか?」

「そ、それは、なんていうか……」

「では、どうしてここに置いていったのですか?」

眼鏡の奥で目を細める

「……」

「……」

「寄付です……」

俺は屈した。魔王討伐はできたかもしれない。でも司法に勝つことはできなかった。

「それならよかったです!では、私は役所に戻って手続きを行います。あ、後日賞状を送るのでここに署名をお願いします」

「……はい」

俺は抵抗できず震える手で言われるがままに、寄付のための必要事項を記入した。

「ん?ルードさん……。あなた、昨日数千ゴールドの寄付もしてらっしゃいますね。素晴らしいです」

「おお!あの大金はあなたでしたか!!私は各地で孤児院を運営しておりまして、これで多くの子供が救われます!ぜひお礼を!さ、こちらへ!」

「え!?ちょっ、ひっぱるな!」

俺はもう十分お礼を受け取った!

賞状とかいう形で!二枚も!!

「みんな聞くんだ!このお兄さんのおかげでご飯がいっぱい食べられるぞ!もうつらい思いをしなくて済むんだ!」

おっさんは俺を引きずって孤児院まで行き、扉を開けるなりそんなこと言い始めた。

途端に寄ってくるガキども。

「わあ!ありがとう、おにいちゃん!」

「おにいちゃん、ありがと!」

「僕もおにいちゃんみたいになりたい!」

「おにいちゃん大好き!」

きらきらした目で俺を見つめるガキども。

「やめろ……」

「そんな目で……」

「そんな澄んだ目で、俺様をみるんじゃねええええええ!」

俺は耐えきれなくなって逃げた。振り返らずにどこまでも走った。ガキの視線で背中が痛かった。

一週間後、なんとか歩く気力が戻った俺は賞状を貰いに区役所に行った。

どれだけ、つらくとも役所の呼び出しに逆らうことはできない。

「おはようございます、ルードさん。神父様に聞きましたよ。子供たちがお礼を言うと驕るどころか恥ずかしがって逃げてしまった。あなたこそ本物の聖者だって。ご立派です。これからも頑張ってください」

もう、声も出ない。早く帰りたくて、賞状を二枚受け取った。

「あと、国から勇者パーティの退職金が出てますよ。ルードさん、勇者パーティの手続きをまめに行ってくれていたので、しっかり5年分が振り込まれてます。勇者さんってどの方も大雑把なので他の職員さんも助かったそうですよ」

「……あ、まじすか。ありがとうございます」

5年分の退職金はそれなりの額だった。

一生どころか10年も遊べないけど、少しだけ心が温かくなった。

少し元気が出て、帰りに寄付金余ってたら返してもらおうと孤児院に寄った。

甘かった。

ガキに捕まった。

死ぬかと思った。


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