希望の種は、すでに蒔かれている(第一部・完)
夕刻の執務室は、窓から差し込む茜色の陽光に満ちていた。
古木から削り出した樫の机に向かい、私――グリンダは一通の報告書に目を通している。今日行われた、新入生向け実戦訓練に関するものだ。その中に、特に看過できない記述があった。
【報告】
芽吹き(ブライニス)クラスの実戦訓練において、
推定Cランクの巨大甲殻型魔物が出現。
偶然居合わせたクロエ・エルヴェールにより討伐。
負傷者はなし。
ふむ……。
萌芽の杜は、本来F〜Eランク相当の下級魔物しか出没しない安全区域だ。
そこにCランクとは――明らかに異常である。
指を組み、椅子に深く凭れかかる。
背中に伝わる硬質な木肌の感触が、妙に心地よい。
「……やはり、兆しが見え始めているか」
独りごち、再びペンを取り、報告書に追記する。
◆今後の対応策
・すべての新入生実戦訓練において、
必ず上級生(最低でも枝垂れ〈カデュエル〉クラス以上)を引率につけること。
万年筆のインクが羊皮紙に吸い込まれていく様子を眺めながら、私は深く息を吐いた。
胸の奥で燻る、微かな焦燥感を押し殺すために。
「また……奴らが目覚めようとしているのか」
机上の水晶球に視線を落とす。
透き通った球体の内側で、幾筋もの光が複雑に絡み合い、渦を巻いていた。
それは世界の均衡を示す秘宝――だが、その光の乱れは、すでに正常値を大きく逸脱して久しい。
「復活の時が……近いのかもしれぬな」
低く唸るように呟く。
この時期に、エンシェントの力を宿すクロエ・エルヴェール嬢が現れたこと。
それが神の導きか、あるいは避けられぬ因果律か――いずれにせよ、偶然とは思えぬ。
立ち上がり、窓際へと歩を進める。
眼下には学生寮へ続く並木道。多くの生徒たちが帰路につく姿が見える。
その中に、まだ幼さを残した横顔の群れ――
一人、黒髪の少女が目に留まった。クロエ嬢だ。
隣を歩く栗色の髪の少女……名は確か、ルーナ・ブラッドリー。
二人は楽しげに談笑している。
その光景を前に、私はわずかに目を細めた。
「やれやれ……この目で、歴史の転換点を見届けることになるとはのぉ」
思わず苦笑が漏れる。
未来は常に不確定だ。だが――
希望の種は、確かに蒔かれている。
書き溜めが尽きましたので、本作は一度ここで第一部完結とします。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
彼女たちの物語は、まだ始まったばかりです。
また続きを書ける日が来たら、その時はよろしくお願いします。
新作がありますのでもしよろしければどうぞ。
正統派王道RPGの世界~戦士はだいたい苦労役~
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