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TS転生聖女の生存戦略〜Transsexual Reincarnated Saint's Survival Strategy〜  作者: mitsuzo
第一章「孤児院の少女編」

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080「孤児院長のカミングアウト(2)」



「うむ。では次は君がいなくなった後のジュリアン第二王子についての話をしよう」

「⋯⋯(ごくり)」


 冒頭の孤児院長の話はあくまで俺の話であって、俺にとってはここからが本題。

 俺は気持ちを引き締め孤児院長の言葉に耳を傾けた。


「その前にまず知っておくべき知識がある。それはこの国——ハルシュタイン聖王国の政情だ」

「政情?」

「うむ。現ハルシュタイン聖王国の聖王様には3人の子がいる。嫡男で現『王太子』のアイザック様、その弟で『第二王子』のジュリアン様、そして長女で末娘となる『第一王女』シャルロット様の3人だ」

「へ〜、ジュリアン様に妹がいたんですね」

「ちなみにシャルロット様はジュリアン様やお前の1つ下となる。あと彼女は聖王候補とはならない。理由はこの国では『聖王は必ず男性』という決まりがあるからだ」

「あ〜⋯⋯それって『血のつながり』を重視しているってことですか?」


 日本でいう天皇陛下になれるのは『男系』とかそういう感じかな? 知らんけど。


「っ?! そ、その通りだ⋯⋯。アナスタシア、君は今の説明だけでよく『血のつながり』を連想できたな」

「えっ?! あ、いやぁ、何というか、勘ですよ、勘!」

「はぁ⋯⋯まあいい。それよりもジュリアン第二王子の話だ」


 おほほほ⋯⋯と笑って誤魔化そうとしたがめっちゃ胡散臭い目で見られた。

 とはいえ、今はそこを突くことはない様子。恐らく孤児院長の中で話の優先順位が低いと判断したようだ。ラッキー。


「まず、ジュリアン第二王子は貴族の間では『放蕩息子』と揶揄されている」

「放蕩息子? あ〜⋯⋯確かに第二王子という身分でこうして市井にしょっちゅう顔を出せる王族なんていませんものね」


 でも、『放蕩息子』ってもっと自分勝手で無知でわがままみたいなイメージあるけどジュリ君はそんなことないんだよな〜。むしろ真逆とさえ言える。

 そんなことを考えていたからなのか、俺の表情を見て孤児院長から、


「フッ、その割には苦虫を噛み潰したような顔をしてるな」


 と的確なツッコミが入った。


「まーしかし、君がそのような顔をするのも無理はない。なんせジュリアン様は『放蕩息子』を《《演じている》》のだからな」

「え? 演じてる?」

「ああ。彼は《《ワザと》》周囲に対して『自分勝手で無知でわがままな第二王子』を演じ油断させている」

「ゆ、油断⋯⋯ですか?!」

「ああ。ジュリアン様があえて自分を装い家族である王族や周りの貴族を欺き続けているのはすべて《《ある理由》》からだ」

「ある理由?」

「次の聖王となるアイザック・ハルシュタイン王太子が現聖王と真逆の考えの持ち主だからだ」

「え? 真逆?」

「うむ。現聖王の政策は『貴族第一主義撤廃』なのだが、アイザック王太子は『貴族第一主義徹底』の思想を持っているからだ」

「ええっ!? で、でも、それならアイザック王太子の父親である現聖王様が教育したり、最悪次の聖王にさせなければいいのでは?」

「その事実が《《公》》に出ているのであればな」

「え? どゆこと?」

「今、君に話したアイザック王太子の思想は基本ほとんどの人は気づいていない」

「は?」

「つまり、アイザック王太子もジュリアン様同様その思想を周囲に隠しているのだ」


 ええぇ⋯⋯マジで意味わからないんだけど!


「え? え? じゃあジュリ君も孤児院長もなんでアイザック王太子様が『貴族第一主義思想』だとわかるんですか?!」

「それはジュリアン様がアイザック王太子が《《ある大物貴族》》に物心ついた時から秘密裏に洗脳されていたのを目撃したからだ」

「え? 洗脳?」

「そうだ。そしてジュリアン様は王族の側近の中で信頼がおける私の父であり宰相であるカイゼル・フィアライトにその調査を依頼し、それで父がアイザック王太子がその貴族に洗脳のような教育を幼い頃からされていたという事実を突き止めたのだ」

「っ!?」



********************



 その後、孤児院長からジュリ君が今のような『放蕩息子』となる経緯の話を始めた。


「アイザック王太子に貴族第一主義の思想を植え付けつけた貴族⋯⋯つまりアイザック王太子を傀儡しようと企む貴族がなかなかの大物貴族でな。ちょっとした《《上級貴族程度》》であれば父である宰相の力を持って断罪できるのは容易いが、しかし問題の大物貴族の影響力は今のハルシュタインでは無視できないほどなのだ」

「⋯⋯つまり、ちゃんとした証拠がないと裁けないと?」

「そういうことだ」


 うわぁ、マジか。なんか政治の話(この辺の話)って異世界でも似たようなもんなんだな。


「しかもそいつのアイザック王太子への水面下での洗脳は長年に渡るもので形があるものでもない。そのためその大物貴族を訴えることはかなり難しいのだ」

「⋯⋯!」


 た、たしかに⋯⋯。洗脳なんて形のないものだし、しかも洗脳されたアイザック王太子であれば仮に宰相である孤児院長のお父さんであるカイゼルさんが訴えてもうまく躱されるのは明白だろう。

 むしろ、その訴え方を間違えれば今度は相手から「名誉毀損だ!」と逆に訴えられることは容易に想像がつく。

 そうなると孤児院長のパッパが宰相の座を失う事だってあるだろう。


「歯がゆい⋯⋯ですね」

「ああ、そうだな。そして今アナスタシアや私と同様『歯がゆい』《《と思った人物》》がいた⋯⋯」

「ジュリ君!」

「そうだ。そうしてジュリアン様は簡単に訴えられる相手ではないとわかったことで、ならばその大物貴族を失脚させるための《《ネタ》》を集めようと考えた。それが今のジュリアン様の『放蕩息子』という仮初の姿となった理由だ」


2026年8月1日(土)より新作公開しました!

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