076「本題(3)」
「『預言の聖女』様であるアナスタシアの力が借りたい」
「「⋯⋯!」」
ジュリアンの言葉に言葉を失うクロフォードとマイルス。
しかし、すぐにクロフォードが厳しい一言を入れる。
「それは『王族としての命令』⋯⋯⋯⋯ということですか?」
「いや、それは⋯⋯」
クロフォードの言葉に苦い顔を浮かべながらボソボソと呟くジュリアン。
「もし、そうなら私から命令に従わせます。⋯⋯ですが、それは本心ではないのでしょう? もしそうならこんな1ヶ月も孤児院に通ってアナスタシアと親交を深めることはむしろ悪手。それをわからないあなたでもないでしょう?」
「うっ! いやその⋯⋯⋯⋯ああ、そうだ。だが⋯⋯!」
「わかってます。先ほどの聖王の話を聞けばジュリアン様が焦る気持ちも。ですが、ここで無理やりアナスタシアに命令で従わせるのはいけません。ジュリアン様も話をして察していると思いますが、彼女は我々が思っている以上に聡明です」
「! たしかに⋯⋯そうだな。同い年で王子の私が言うのも何だが彼女と話しているととても9歳の女の子とは思えないほど知的で博識だ。だからこそ彼女と話すのは楽しいし、できれば友人として関係を深めたいと思っている!」
「「「「⋯⋯っ!!!!」」」」
ジュリアンが手放しにアナスタシアを認めるのを見て、クロフォードもマイルスも思わず目を見開く。
そして、それは二人以外にもジュリアンの後ろに控えている護衛騎士、ライアンとヘッセンも同じように目を見開き、さらには、
「ジュ、ジュリアン様、いけません! 王子であるあなたがそのようなお言葉を一孤児に向けるなど、それはあらぬ誤解を生み出しかねません!」
ヘッセンが顔を紅潮させて思わず叫ぶ。しかし、
「ヘッセン、控えろ! ジュリアン様の言葉はジュリアン様だけのものだ!(笑)」
と、すぐにヘッセンに控えるよう指摘するライアン⋯⋯⋯⋯笑いを堪えながら。
「いやお前、楽しんでるだけだろが!」
「そんなことはない。ないったらない!」
「こ、こいつ⋯⋯!」
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「ところでジュリアン様、アナスタシアを⋯⋯預言の聖女の力を借りたいというのは《《どういう意味》》ですか?」
「それはもちろん、聖王⋯⋯父の体調を回復して欲しいからだ」
「なるほど。つまり『治癒』と?」
「そうだ」
すると、クロフォードが何やら困った顔を見せる。
「まず、そもそもですがジュリアン様は預言の聖女のことをどういう認識ですか?」
「え? それは預言の聖女といえば病や傷を癒す力を持っているのだろう?」
「いえそれは違います」
「何っ?!」
ジュリアンの言葉をクロフォードがはっきりと否定する。
「厳密にはわかりません⋯⋯が正しいですが、ですが少なくとも現状アナスタシアが持っている力は『植物を異常なスピードで成長させる力』だけです」
「え? そ、そうなの?」
「はい。ジュリアン様は私の父⋯⋯カイゼルから聞いてないのですか?」
「あ、いや、まぁ⋯⋯そうだ。私の知識は『預言の聖女』にまつわる噂くらいしか」
「⋯⋯なるほど」
クロフォードは内心「この辺は9歳の子供ということか」と思いつつも、しかし、ここで今後誤解しないようしっかりと伝えねば、という思いで言葉を出す。
「一応、あくまで《《現時点では》》です。まだアナスタシアの持つ預言の聖女の力がどれほどのものなのか、何ができるのか、それらすべていまだ謎のままです」
「そう⋯⋯だったのか」
ジュリアンが預言の聖女でも父を助けられないと感じたのか、目に見えるほどショックを受けた表情でガクリと肩を落とす。
すると、ここでクロフォードが肩を落としたジュリアンの肩に手をかけると、
「よく聞いてください。私は《《現時点では》》と言ったのです」
「え?」
「つまり、まだアナスタシアの力は未知数ということ。それに預言の聖女の噂もただの噂かもしれませんが、しかしそれを単なる噂で真実ではないと断定するのは早計です」
「そ、それじゃあ⋯⋯」
「お約束はできませんが、しかしジュリアン様が望む聖王様の命を助けるという、そういうことであれば私からアナスタシアに話をし、彼女にも協力を願いましょう」
「っ?! ク、クロフォード卿!」
先ほどまで絶望な表情を浮かべていたジュリアンの顔色に少しずつ熱が帯びてくる。
「聖王様の体調悪化がジュリアン様が言うように毒によるものであれば、聖王様自体は健康であるはず。アナスタシアに毒を取り除くような力もあるかなど含めてこちらで調べます。ジュリアン様が望む結果が得られるかは分かりませんがやるだけやってみますので、どうぞご安心ください」
「あ、ありがとう⋯⋯ありがとうございます、クロフォード卿!」
ジュリアンが何とか堪えていた涙がついに決壊。
しかし、そんなことなど気にせずジュリアンはクロフォードの手を両手でしっかりと握ると、その手に顔を埋めて祈るように感謝の言葉を告げた。
しばらく、泣き続けたジュリアンだったが落ち着くと「また遊びにきます!」と元気な声で挨拶をして帰って行った。




