067「ある男の子との出会い(1)」
——フィアライト侯爵家に行ってから約半年が過ぎた。
現在ポテトフライは順調に売り上げを伸ばし、それは庶民向けのポテトフライだけでなく、ケチャップ入りの貴族用ポテトフライも貴族層に売れに売れていた。
おかげで、ポテトフライの原料であるじゃがいもが不足したのだが、そこはフィアライト侯爵家がすぐに動いて各地から手配することとなる。
しかし、それでもじゃがいもの確保は少し難しくあったため今度は孤児院の周囲の土地をフィアライト侯爵家が買い占め、そこに新たにじゃがいもとトマトを植えることで半年後の今それらが収穫できるようになり、その結果ポテトフライは今でも順調に販売を続けることができていた。
アナスタシアの『預言の聖女』の力——『神の御力』を使うのは危険であるためそれには頼らず何とか販売ができる体制が整ったのはアナスタシア的にも嬉しい限りだった。
ポテトフライは半年経った今も庶民の間でも貴族の間でも好評でそのおかげで孤児院ではこれまでお金が無く手がつけられなかった外部や内部の修復、寝具の新調、調理場の拡張など一気に進み、以前とは比べものにもならないほど清潔で住みやすい場所へと変貌した。
「孤児院の外も中も綺麗になってポテトフライ様々やわ〜!」
世界の中心で裕福な今を感謝の言葉で叫ぶのはアナスタシア。
しかし変化はそれだけではなかった。
「「「「「やったー! 《《今日も》》お肉入りのシチューだー!」」」」」
子供達がお肉入りのシチューに歓喜の声を上げる。
これまでの孤児院ではお肉入りシチューなど1回も出ることがなかったが、今では定番メニューとして食卓に並んでいた。
そもそもお肉を食べる機会などそうそうなかったのだが、今では当たり前のように食卓に並んでいる。
その甲斐もあって、これまで痩せ過ぎだった子供達はみるみるふっくらとし、今では誰もが健康的な体を手に入れていた。
そうして少しずつだが確実にアナスタシアが望んだ孤児院の環境が変わっていく中、孤児院に一人の男の子がやってくるのだがそれは同時にアナスタシアにとって大きな変化が訪れるきっかけとなる。
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「あのぅ⋯⋯」
「いらっしゃいませー!」
アナスタシアがいつものように孤児院に訪れたお客さんに声を掛ける。
見ると、その男の子は自分よりも少し年上の男の子を2人連れて来ていたのだが3人とも見るからに上品な服装だった。
それを見たアナスタシアは「どこかのお金持ちの庶民かな? それとも貴族?」と思ったのだが、とりあえずそこは触れずに普通に接客をする。
「ポテトフライ、まだ残っていますか?」
「はい、ありますよ」
「よかったー!」
男の子はポテトフライが残っていることに満面の笑みで喜ぶ。その笑顔を見てほっこりするアナスタシア。
「ふふ、いくつ必要ですか?」
「それじゃあ3つください」
「3つですね、かしこまりました」
そう言って、アナスタシアが厨房に向かって注文を告げる。
そうして、厨房が注文のポテトフライを調理している中、時間的にもちょうどお昼を過ぎて閉店間際ということもありお客さんもその男の子ら以外誰もいなかったため、何ともなしにアナスタシアは男の子に話しかける。
「ポテトフライは最近知ったんですか?」
「あ、いえ、ポテトフライ自体は以前から知っていたのですが直接ここに買いに来るのは初めてで⋯⋯」
「そうだったんですね」
「ポテトフライは作り立てが一番美味しいと聞いたので、いつか自分で買いに行って作り立てを食べようと思っていたんです。今日その夢が叶いました!」
男の子が目をキラキラしながらそんな嬉しいことを言ってきたこともあり、アナスタシアも上機嫌になり話も弾んでいく。
「えーそうだったんですね! ありがとうございますぅ!! あ、ちょうど出来上がったようですね。もしよかったらここで食べて行ってください」
「え? いいんですか?」
「はい、いいですよ。どうせ今日の販売はこれが最後なので」
「わー、ありがとうございますぅー!」
アナスタシアは自分の言葉にここまで感謝の言葉と感情を向けられさらに嬉しくなる。
そうこうしている間にポテトフライが3つテーブルに運ばれてきた。
そのタイミングで他の子供達は孤児院の入口にある『営業中』の看板を『閉店』に置き換え、各々が閉店作業に入った。
「ここは閉店準備でバタバタしているので、よかったらお外にあるテーブルで食べませんか?」
「ありがとうございます。ではお願いします!」
アナスタシアの提案に屈託のない笑顔で返事を返す男の子。
そうしてアナスタシアはその子と一緒にいる男の子らと外にあるテーブルへと移動した。
(うわぁ、めっちゃ良い子や〜! 年も近そうな感じがするし話しやすいし、何より孤児院以外で同い年の男の子と話す機会なんてなかったから嬉しい!)
元々中身は『男』のアナスタシアは内面でその子との出会いにテンションが上がっていた。
これが『大きな変化』へのはじまりとも知らずに⋯⋯。




