057鬼団子
鬼団子…当作品オリジナル妖怪
人の頭程の大きさに、緋色の毛並みを備えた毛糸のような生き物。
小さな目が2つ、口に当たる小さな裂け目が1つ。
これが鬼団子?
「鬼団子…聞いたことがない。妖獣なのか?」
鬼団子という言葉は聞いたことがない。
いや、あるな。
ずっと前にテレビで。
確か、愛知県を中心とした東海地方の郷土料理だったか。
角切りにしたサツマイモを小麦粉、砂糖、塩を混ぜた生地に加えて蒸し上がる。
そうすることで、もっちりとした食感の団子状のお菓子が出来上がる。
団子の前に、鬼とあるのは、表面の凹凸が鬼の角や金棒に似ているからである。
だけど、とうの妖獣は、そのお菓子である鬼団子とは似ても似つかない見た目である。
見た目は、緋色の毛糸。
団子と言われたら、納得出来なくはないが。
「って、妖獣?!妖獣って、危険なものじゃ?」
ここで、ようやく斗真は、この緋色の生き物が先程倒した濡れ女と同じ妖獣であるという事実に驚愕する。
ずっと斗真は妖獣は現代世界版の魔物だと思っていた。
魔物は通常の生き物よりも魔力を持つ反面、強力な個体が多い。
さらには、人に対して、かなりの敵対心を持っている。
だからこそ、魔物は異世界において、ほぼ討伐の対象なのだ。
妖獣も、そうである。
今まで戦ってきた妖獣は緑鬼、泥田坊、土蜘蛛、大入道、鵺など、斗真や妖怪である楓を見たら、一目散に襲ってくる。
楓は緋色の生き物…鬼団子を撫でながら説明する。
「確かに、妖獣の多くは危険だよ。さっきの濡れ女みたいに、斗真みたいな妖人や私みたいな妖怪を襲ったり、時には食べようとする妖獣だっている。でも、全部の妖獣が同じって訳じゃ無いの」
「全てが同じなわけでは無い?つまり、温厚な妖獣もいるのか?」
「うん、この子みたいに」
鬼団子は楓に撫でられて嬉しかったのか、楓の腕に擦り寄り、猫が飼い主に頬をスリスリさせるように、緋色の毛並みを擦ってくる。
そんな鬼団子が可愛かったのか、楓は微笑みつつ、持ち上げて、腕に抱く。
「キュキュ!」
「ふふ…」
楓に懐く姿は、猫みたいだ。
楓も満更でもない顔をしている。
「こういう無害な妖獣っていうのは、ここからさらに山奥にいることが多い」
斗真たちが住んでいる隗隗街は確かに田舎町だが、それでも、まだ人工物がある。
楓が言っている山奥というのは、人工物も何も無い木や草しかない山の奥地ということだろう。
人は住んでいなく、本当に妖怪が住んでいそうな秘境に。
「偶に、この子みたいに、山奥から街へ降りてくることがあるの。でも、妖怪を襲わない妖獣は言ってみれば、力の無い妖獣。私達が相手にしているような妖獣にとって、格好の餌。だから、さっき…この子は、濡れ女に追われてたのよ」
「なるほど」
この鬼団子という妖獣は、力が弱いゆえに、他の妖獣から狙われるのだろう。
助けられてよかった。
「それにしても、鬼団子なんて。凄い名前。鬼族と関係あるとか?」
斗真は冗談のつもりで言ってみた。
だけど、楓は真顔で肯定する。
「そうだよ」
「え?そうなの?!」
斗真は楓の頭を見る。
今は「姿化かし」のイヤリングを外しているので、鬼族の姿であり、角が見えている。
鬼族と、この生き物には全く接点が無いように見える。
強いて言えば、楓の髪色と、この生き物の毛並みの色が同じぐらい。
「実は、この鬼団子っていう幼獣は、ずっと昔、鬼族に従順な妖獣だったの」
「従順な妖獣?」
「なんと言うか、ペットというか…お供?兎に角、昔…鬼族が日本にたくさんいた時は、鬼族のペアとして、この鬼団子っていう妖獣がたくさんいた」
「これが…鬼族のペア」
斗真は楓に抱えられている鬼団子を凝視する。
可愛いが、それだけだ。
脅威何て微塵も感じない。
さっき、楓が鬼団子には無害で、力が無いと言ったので当然だが。
この生き物に失礼だけど、魔族に近い戦闘能力を持つ鬼族と比べて、この生き物は似合わないと言うか。
鬼族のペアなんて務まるのか。
「何か凄い特殊能力があるとか?」
「さあ」
楓は分からないと言う。
「私も、そこまで詳しいことは知らない。かつては鬼族に従属する妖獣で、今は大きく数を減らしていることぐらいしか」
詳しくは分からないか。
斗真は、そっと楓の腕に抱えられた鬼団子に触れようとする。
「キュ?!」
でも、触れようとすると、めっちゃ警戒される。
楓は平気なのに。
斗真は若干落ち込む。
「この子は、これからどうするの?」
「どうするって?普通に、元の場所に返すけど?」
「山奥へ離すのか?」
「うん、もっと山がある方に行って、離し上げたら、自分で元居た場所に帰ってくれると思う」
それから、斗真と楓は鬼団子を返すために、さらに山奥の方へ向かう。
隗隗街の、さらに山奥。
視界一杯に山が広がる場所にいた。
「さあ、もう山から下りちゃ駄目だよ」
楓が腕に抱えた鬼団子を地面に降ろす。
「キュキュ?」
けれど、地面に降ろされた鬼団子は首を傾げた様子で、楓を見上げる。
一向に、山奥に行こうとしない。
「どうしたの?帰らないの?」
楓が山の方を指差すが、鬼団子は離れない。
それどころか、
「キュ!」
「わわ?!」
楓の懐に飛び込む。
絶対に離れたくないと言わんばかりに、楓にくっ付く。
「ど、どうしよう」
楓は困り果てる。
何とか、引きはがそうと、斗真は鬼団子を掴む。
「キュル!」
「いて?!」
「斗真?!」
しかし、全力で噛み付かれてしまった。
楓に、しがみ付く鬼団子。
「コラ!斗真に謝りなさい!」
楓は怒った顔で斗真に謝るように言う。
「キュ、キュルル!」
鬼団子は楓に素直に従い、顔に当たる部分を斗真に向けて、下げる。
取り敢えず、謝ってはいるのか?
まるで、母親に叱られる子供みたいだ。
何で、楓の言うことには素直なんだ?
もしかして、楓が鬼族だから?
かつては鬼族に従属していた妖獣だから、懐いているのか?
けれど、困った。
肝心の鬼団子が楓から離れようとしない。
「どうする、楓?」
「………」
楓は鬼団子を抱え込んで、考え込む。
少しして、結論を出す。
「うん、今は…もう暗いし。今日は私が家で、この子を世話するよ」
と言う訳で、鬼団子は一旦、楓の家に預けられることになった。




