016雪のような子
ろくろ首…言わずもがな、代表的な日本の妖怪。
外見は人と大差ないが、首が以上に伸びる妖怪であり、それとは別に首だけが抜けて、浮遊するタイプもいるみたいだが、本当かどうか定かではない。
基本的に、女性のろくろ首が殆どである。
「ろくろ首……本当に首が伸びるんだ」
妖怪と聞いて、多くの者が思い浮かべる…ろくろ首。
長子の長い首を前に、怖さよりも好奇心があった。
「そうよ…こんなことも出来るんだから」
興味深そうに見る斗真に気を良くしたのか、長子は長い首を回転させたり、波のように上下に動かしたりする。
「ナガさん、あの…そろそろ」
楓が嗜める。
「ああ、ごめんなさい。妖具だったわね。ちょっと待って」
首を元の長さに戻した長子は軽い足取りで、店の扉の方に行く。
そして、扉の前にある「開」と書かれた札を取り、「閉」と書かれた札を付ける。
「こっちよ。いらっしゃい」
長子は斗真と楓を、店の奥へ案内する。
奥に行くと、水道に冷蔵庫、まな板の置かれた台があり、普通の台所であった。
「こっち、こっち」
長子は台所のそばにある床に手を掛ける。
そこには、床下収容庫を開けるための取っ手があった。
普通、そこには飲み物や野菜と言った低温保存するものが入っているのだが、長子が開けると、
「ここが入り口」
なんと、床下収容庫の中は階段があり、地下に繋がる入り口になっていた。
長子と斗真と楓は地下へ通ずる階段を下りる。
「おお…」
階段を下りた斗真は感嘆の声を出す。
階段の下は広めの倉庫のような大きな空間になっており、天所が高く、壁には多くの棚が置かれていた。
棚は大きく、斗真の身長よりもずっと高い。
その棚には、刀や槍、手裏剣といった武具や鎧や着物の類、扇子や縄などの小道具が置かれたあった。
その全てから魔力を感じられる。
つまり、これらは全部…妖具という事だ。
まさに、妖具店と言った感じ。
「斗真くんには、どれが良いかしら」
長子は周囲の妖具を見渡す。
「そう言えば、聞いてなかった。斗真は何の武器を使うの?」
楓がどういった武器を使うのか聞いてくる。
「そうだな……俺は」
そこで斗真は異世界で主に使っていた武器を話す。
勿論、異世界の事は抜きにして。
斗真自身の戦闘スタイルに合った武器を聞いて、楓は意外そうな顔をする。
「へぇ…”それ”を使うんだ」
一緒に話を聞いていた長子は顎に手を当て、考え込む。
「”それ”だったら。確か……あったと思うわ」
そう言って、長子はろくろ首特有の長い首を伸ばして、大きな棚の上を見る。
その後、梯子を掛けて、棚の上に置かれている複数の木箱を降ろす。
木箱の中には、いろんな武器が入っていた。
「ずっと前から使わなくなった妖具は、この木箱に仕舞っているけど。”あれ”なら、ここにあったと思うわ」
「手伝います」
楓が木箱の中を探す長子に手を貸す。
木箱に入っている妖具を手に取って見比べていたりと、斗真に合う妖具を探している様だ。
探している二人を見ながら、斗真はふと…近くで飾られている妖具の一つ一つを見ていく。
どれも一目で一級品であると分かる。
右手の棚に、様々なクナイが飾られてあるのを目にする。
異世界で、斗真はサブウェポンとしてクナイのような投げナイフを使用していた。
斗真は試しに、クナイを手に取る。
軽さも持ちやすさも充分。
斗真は本当に投げはしないが、投げる動作をしてみる。
「あ!それは!」
「斗真!それ!」
長子と楓が斗真を見て、待ったを掛ける。
如何したのかと、斗真が長子と楓を見た瞬間だった。
クナイを握ったまま振ったら、握っているクナイとは、別のクナイが空中に生成される。
そのクナイは真っすぐ壁へ飛んでいく。
シュン…………ガキ!
生成されたクナイは飛んでいき、壁に根元まで刺さる。
凄い切れ味である。
「ちょっと、斗真!それは『一石二殺のクナイ』だよ!投げる動作をすると、クナイが二つに増える妖具。危ないから、斗真は触っちゃダメ!」
「ご、ごめん!」
カンカンに怒る楓に、斗真は平謝り。
斗真はクナイを元の棚に戻す。
ここにある妖具がどういった機能を持っているのか分からない以上、楓の言う通り、下手に手を出すべきではない。
斗真は二人の邪魔をしないように、部屋の奥まで行く。
学校の教室以上の広さがある、この部屋は奥まで中々距離がある。
斗真が壁際まで行って、静かに立っていると、
シュ…シュ…シュ…、
「ん?」
斗真の耳に、何かを削る小さな音が聞こえる。
斗真は音の出所に顔を向ける。
「あっ」
そこには、ちょこんと座る、小学生ぐらいの女の子がいた。
妖具が大量にある広めの倉庫…それも壁の隅にいた。
小さい体を丸めていたので、さっきまで全く気付かなかった。
色白を通り越した真っ白な肌と、雪を彷彿とさせる純白の髪。
氷のようなアイスブルーの瞳。
一言で言えば、雪のような子だ。
一瞬、外国人かと思ったが、顔の輪郭は日本人である。
周りが妖具という武具だらけの場所には、似つかわしく無い綺麗な女の子であった。
その女の子は、黙々と小刀を砥石で磨いていた。
さっき聞こえた音はそれか。
こんな小さな女の子が小刀を研ぐなんて、何だかギャップを感じる。
「こんにちわ」
試しに、挨拶をしてみる。
「…………」
チラッと斗真を横目で見たものの、気にせず作業に没頭していた。
不思議な子だ。
………魔力を感じるという事は、この子も妖怪なのかな。
けれど、何と言うか、こっちを見た時の女の子の目には若干の恐怖があったように見受けられた。
「あった!!」
その時、楓の叫び声がする。
彼女の方を見ると、目的の物を手に持っていた。
あったのか。
これで異世界でやってきたような戦い方が出来る。
それを持って、楓はこっちへやって来る。
「これだよね?」
楓は斗真に、それを渡す。
斗真は楓から受け取り、しっかりと使えるのかどうか、感触やしなり具合を確かめる。
「あれ…子冬。ここに、いたの?」
斗真が武器を確認している最中に、楓は壁の隅で作業をしている女の子に気づく。
二人は知り合いなのだろうか。
コク……。
すると、女の子は楓をチラリと見て、小さく会釈をする。
そして、研ぎの作業に戻る。
楓は苦笑いする。
「この子は子冬。訳あって、「ながつか」で働いているの。その…………過去に、いろいろあって、上手く人と会話が出来ないの。そっとして置いて欲しい」
「分かった」
異世界でも、こう言った子はたくさんいた。
斗真は勇者であるので、国中を周り、魔物や魔族たちに襲撃された街や村の惨状を多く目にしてきた。
その過程で、魔物や魔族たちの襲撃で家族を失い、トラウマを抱えて怯える子たちを数え切れないほど見てきた。
みんな怯えた目をしていた。
それを思いだすと、この子冬と言う子からも、似たような雰囲気を感じる。
まぁ…どの道、斗真がこの子に出来ることは限られてくる。
結局、トラウマを抱えた子と言うのは、自分の力でトラウマを乗り越えないと行けないのだ。
斗真は女の子のことは一旦おいて、意識を武器に戻す。
「どうかな?使える?」
「うん、かなり埃を被っているけど、弦はしっかりと張ってあるし、しなりもある。使えるよ」
「良かった」
斗真は試しに、「握」を左手で持ち、「弦」を右手で引っ張る。
「射る」構えを取る。
やはり、異世界で専用の武器として使っていたため、凄く手に馴染む。
「うん。最初聞いた時は意外に思ったけど、今の斗真…凄く"弓"が似合ってる」
楓が感心する。
そう…斗真の最も得意とする武器は『弓』。
索敵スキルである〈万能眼〉と一番相性の良かった武器だ。




