進捗会議・前半
「連中が遂に、動きを見せたみたいだよ。」
ヴァネッサのその一言で、午後からの会議が始まった。リビング兼ブリーフィングルームのテーブルに埋め込まれたレンズが立体映像を映し出し始める。
映し出されたのはエリア022のドイツ本国へ繋がるゲート周辺。よく見ると既に細かな光点が一か所に向かっている様子が表示されていた。
「先日発覚した新型戦車の生産工場から、ドイツ国内のゲートを経由してエリア022に輸送部隊が送られている事が判明した。残念ながらゲートの通過は不可能だったらしいが……潜入員が戦車に貼り付けた発信機によって、エリア022のドイツ革命派拠点がある程度断定出来たのさ。」
ヴァネッサが端末を操作すると立体映像がより広い範囲を映す立体地形へと変化する。エリア021との国境線とは正反対の端の方に、革命派の拠点は存在した。
「ふむ……立体地形を見る限り、かなりの広さのようだな…。此処よりもだいぶデカいぞ?」
立体映像を見ていたヘンリクがそう呟く。
「恐らく、ドイツ本国の使用していた拠点をそのまま利用しているんじゃないか?連中の懐事情で、この規模の拠点を建築できるとは思えん。」
資料とにらめっこしていたヴィンセントが補足する。そりゃ旧式兵器を運用してるレベルの財源じゃあ、厳しい筈だろう。とはいえ新型戦車を製造できる程度には、何処からかの支援を受けているのは間違いない……フランスだけじゃない、他の国も関わっている筈だ。
「これだけの規模だ、何処かの国からの支援は受けてるだろうねぇ。可能性としてはフランスだが……あの国そんなに余裕あったっけかい?」
現状、フランスは諸外国と比べて国力が高い訳ではない。相変わらず兵器製造が微妙なレベルで、アナライザー以外の兵器ははっきり言って他国と比べて劣っていると言わざるを得ない。そんなフランスが唐突に自国以外の、それも革命真っ只中の連中に新型戦車の設計を供与するとは考えにくい。
「………実は1つ、仕入れている情報がある。」
そう言って手を挙げたのは俺の隣に座るモーリスであった。ヴァネッサに促され、端末を操作しつつ情報を話し始める。
「昨日、アメリカの技術者連盟で会議があってな……そこで、ドイツへ現地調査に行ったっつー技術者が居たんだよ。」
「このご時世にか?」
宣戦布告をしたのは革命派とは言え、その革命派が大暴れしている事には変わらないのだ。そんな中でただの技術者が入国するとは…命知らずにも程がある。
「あぁ、とんだイカレ野郎だったよ。だがやってる事がイカレてる分、持ち帰った情報もかなりクレイジーでなぁ……」
そう言ってモーリスが立体映像に映し出した1枚の画像には、何やら大掛かりな製造工場が映し出されていた。
「んでまぁ、ココを見てくれや。」
画像がズームされ、工場内で製造されていた車両の一部が拡大される。
「…!これは…!?」
目を疑った。
車両の側面と思しき部分に小さく、はっきりと描かれた国旗。
赤の国旗に黄色の星が5つ。
───中華人民共和国の国旗、そのものであった。
中華人民共和国。中国とも呼ばれ、各国と争いを続けながらも国内の紛争が止まず、かなり前に最高指導者が変わって以来国が内部分裂を起こし2つの国に別れたとのニュースが世界中で話題となっていたらしい。
残念ながら記憶喪失の俺にはその記憶はないが、現状の中国の状況だけはある程度理解している。
現在の中国は東側の中華民主主義国と西側の西華連邦に分裂するという、昔のドイツみたいな事になってしまっている。中華民主主義国…長いので東中国は新政権となり民主主義国家へと生まれ変わった国であり、ブラウン大統領の援助もあってか、分裂前と比べてかなりの友好関係を築けている。東中国に住む国民達も過去の排他的な行動は鳴りを潜め、少しづつではあるものの国際的な信頼を取り戻し始めているそうだ。
その調子で、友好関係が続く事が望ましいものだ。
そしてもう一つの中国、西華連邦…西中国は、これまたコッテコテの共産主義国家であり、連邦を名乗っているのもあってかソビエト連邦を彷彿とさせる国へと変化してしまっている。
結果はまぁ、言わずもがな…。言論統制は勿論、諸外国への圧力は半端なく、軍拡のペースも凄まじいものであると、国際メディアが報じているのをニュースで見た。
今回関わっているとすれば恐らく、西中国である西華連邦の方だろう。元の中国国旗を使用しているのは西中国の方だし、共産主義の輪を広げる革命派なんて、思想を同じとする仲間でしかないのだから。
ちなみに東中国はというと黄色の下地に左上から右下に掛けて引かれた白線、そして右上と左下に各1つの白星が描かれた新国旗を使用している。
「東中国の連中が関わっている以上、先日見た新型戦車の大量生産にも合点がいく……奴ら以上に、量産が得意な奴はいないからな。」
今も昔も、大量生産という点においては他国の追従を許さなかった中国。分裂以前の中国ではほんのちょっぴりの人権保護によってそのペースがセーブされていたものの、分裂し西中国という共産主義Loveな国へと進化してしまった事により、機械と人間の両方を酷使する最悪の量産態勢が生まれてしまっていた。
「アイツ等量産もそうだが近未来的なモン作るのもやたら上手いんだよなぁ……信頼性と安全性は度外視だがナ。」
ジャックが珈琲を啜りながらボヤく。どうせ作るならちゃんとしたのを作れば良いのにと思うものであるが、そもそもが大量に作って大量に売るというスタンスの国なだけに彼らが安全性等を考慮する事は終ぞないだろう…あっても信用はされないだろうが。
「つーわけで俺の仕入れた情報ってのは、革命派に西中国が与しやがったっつー情報だ。普段参加しねぇ会合に参加したかいがあったぜ…。」
「情報としちゃあ結構重要だったからねぇ……これまで会合をサボってたのは、今回でチャラにしてやるよ。」
「お!まじでか!?」
モーリスが目を輝かせる。普段サボってんのかアンタ…。
「……次は無いけどね。」
物凄く冷めた口調で釘を刺すヴァネッサ。怖ぇよ……隣に座ってるモーリスが一転して涙目になってんぞ。
「ともかくだ、西中国の奴らが関わっている以上、敵さんの規模の相当なものになる筈だ。各自の進捗、教えて貰えるかい?」
今回の会議は情報共有の他に、進捗状況の共有が項目に含まれていた。だから皆資料を持ってるし、俺もちゃんと用意してある。なんなら最新の『ヤタガラスⅡ』のデータもバッチリ入れてある。
「……では私達から話そう。」
最初に立ち上がったのはヘンリク、そして同じ班のトリシャだった。
「先日、新設した各軍部との顔合わせを行ってきた。とは言っても旧知の仲だ、顔合わせといっても同窓会に近いものになってしまったがね…。」
海軍のアンデルセン大将があの感じなのだ、さぞ騒がしい同窓会──もとい顔合わせになった筈だ。
「顔合わせに参加したのは私を含めて5名。特殊部隊の私、陸軍の"ハインケル・コルネット"大将、海軍の"アンデルセン・オーフニール"大将、空軍の"ロバート・キャンベル"大将、諜報軍の"ウェルキンス・ロバーツ"大将の5人となる。」
全員大将クラスのトンデモメンバーだな…。よく戦団に移籍させる事を許可したなアメリカ軍。
「全員、私の同期でね…優秀ではあるんだが、何かと癖の強いメンバーなのだよ。やれ銃の訓練で教官に模擬弾ぶっ放すわ、練習艦の砲撃の爆風で教官を海に落とすわ、練習機で連続クルビットかまして教官を気絶させるわ、教官のプライベート写真を掲示板に貼って暴露するわで……優秀な問題児とはこの事だ。」
当時の教官が可哀想になってくるな……つーかヘンリク、アンタも絶対何かやってるだろ。
ジト目でヘンリクを見つめていると、ヘンリクはきまずそうに目を逸した。
「い、いや、私はな?まぁ、そんなにでもというか……なんというか……」
「何言ってんだい。」
すかさず切り込むヴァネッサ。
「アンタ白兵戦訓練で教官病院送りにした挙句に同期までボッコボコにして罰則受けてたじゃないか。」
……やってんな。
「いや、あれは、その……偶然というか……」
「ほう、偶然か…。」
遂にヴィンセントまでがヴァネッサ側に入った。
「訓練中に偶然、訓練相手だった私の腕を圧し折った挙句、鳩尾に蹴りかました後に掌底で顎をかち上げて意識を刈り取ったという事か。そうかそうか偶然か。」
何やら積年の鬱憤が溜まってそうなヴィンセントを見てタジタジのヘンリク。いつもの澄ました態度は何処いった?
……いや、案外ヘンリクが気圧されてんのってよく見るよな……それで良いのか隊長。
ジト目して切っ掛け作ったのは自分なので、自業自得とは言え流石に助け舟を出すとするか…。
「まぁまぁ、二人とも落ちつけって。今は進捗報告が優先だろ?」
「……まぁそうさね。アタシは別に良いけど、ヴィンセント次第かねぇ。」
「………ヘンリク、後で訓練場に来い。久々に組手と行こうじゃないか…。」
ドンマイ、ヘンリク…。
「んんっ、では……顔合わせの続きだが、陸・空・海の三軍はそれぞれの軍を最高司令部となる我々の指示で何時でも出撃できるよう手配するとの事だ。そして諜報軍はというと、既に敵国であるドイツ、フランス、西中国の3ヶ国に諜報員を派遣しているとの事だ。情報が入り次第連絡を寄越すとの事だ、今は待つしかなかろうよ。」
軍として発足してからあまり日が経っていないというのに、随分と仕事が早いものだ。特に諜報軍に関しては情報統制が敷かれてて俺達でも簡単にはアクセス出来ないようになっているらしい。
「諜報軍の情報が入り次第、動く事になると言う事は留意しておいてくれ給え。」
「よし、ヘンリクの班はコレで終わりだね。よし、じゃあ次はアタシ達の班だ。」
どうやら次はヴァネッサ、アンジェ、ジャックの班のようだ……確か物資確保担当だった筈。
「それじゃ、確保した物資を説明してくよ。」
そう言ってヴァネッサは説明を始めるのだった。
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