大群
エリア021近海、その上空にて。
5機の戦闘機が青い海の広がる異空間の『海』上空を編隊飛行で飛んで行く。
『なーんも異常ねぇなぁ〜。』
「……気を引き締めろパイク3、まだ任務中だぞ。」
『へいへい……隊長は真面目でごぜーますねー。』
「はぁ……戻ったら覚悟しとけよ。」
彼等は戦団に所属する海上基地駐屯軍の航空隊の一つである『パイク隊』。空軍から派遣された隊員達であり、厳しい訓練を潜り抜けた兵士達であるのだが…訓練を受けても個々の性格は変わらないもので、パイク3のように怠けた態度の人間もちょくちょく居たりする。
日々上官としてパイク3含む部下達に指導している隊長の身としては、パイク3のような態度の奴は鉄拳制裁の常連客なのだが……基地建設以来滅多に襲撃の無い海上基地での警戒任務は、確かに暇を持て余してしまうものだ。パイク3のような奴が出てくるのも無理ない話だろう…。
『あーあ、暇過ぎんのもツラいもんだぜ…。』
「……パイク3、だったらフォートレスに戻って連日の緊急出動地獄に戻るか?」
『……それはそれで勘弁っすね。』
「だったら任務に集中しろ、それが定時退社への近道だ。」
『へーい………隊長、あれなんすか?』
先程まで怠けた態度だったパイク3が声色を変えて真面目なトーンで質問してくる。コイツがこのトーンになった時は確実に何かある時だ……空軍時代から一緒に飛んでいる俺が言うんだから間違いない。
「何が見える。」
『虫……いや、アナライザー?いや、にしちゃ小せぇか…?』
「パイク2、パイク4。長距離望遠装置を使用しろ。」
『『了解。』』
俺達の乗る『PWS-37』には隊の中で2機にのみ、アナライザーでも運用されている長距離望遠装置が航空機用に改造されて搭載されている。有事の際にはこの2機が情報収集に徹し、残る3機で装置使用中の2機を護衛するという手筈になっているのだ。
パイク3の奴が察知した何かが、これで分かると良いんだが……。
『隊長、不明機を捉えました。画像送ります。』
いち早く不明機を捉えたパイク2が俺に画像を送信してくる。送信されたデータを開き、添付された画像を見てみると───
「なんっ、だ…これは…!?」
画像に写っているのは夥しい数のアナライザー。いや違う……アナライザーにしては小さく、そして羽が生えている。
虫のような、それでいて機械のように無機質な灰色の羽。左右に2枚ずつ羽を生やした謎の小型アナライザーは、パイク3の言うように『虫』を彷彿とさせるフォルムをしていた。
そんな謎の機械達が、画像にあるだけでも30機……いや、眼前に広がる光景には100機以上の群れが此方へと迫っている。
『パイク5よりパイク1!不明機が接近しています!』
「っ…!」
正直、勝ち目は無いと感じていた。得体の知れない、機械に羽を生やした様な奇っ怪な虫型のナニカ。そんな奴等が100機以上もいるとなれば、たった5機の戦闘機なんぞあっという間に海の藻屑へと変えられるのがオチだろう。
「お前達は戻れ。戻って、必ずこの事を戦団本部に通達しろ。」
『おい待て、アンタはどうするつもりだ!?』
「俺は此処でこいつ等を足止めする……パイク2、後は頼んだ。」
『っ……了解、です。どうか、ご無事で…!』
『無茶だ!一人でどうにかなる数じゃねぇだろ!』
「いいからさっさと行け!!!お前達に、戦団の命運が掛かっていると思え!!!」
『隊長……っ、パイク2より各機!全機反転、これより我々は基地へと帰投する!急ぐぞっ!』
『畜生っ!隊長、無事でいやがれよっ!!!』
パイク2に続く形で、残る3機が基地の方へと帰って行く。パイク2が話の分かる奴で助かったな…。
にしてもパイク3の奴め……普段面倒だのダルいだの言っておきながら、一番仲間思いじゃないか……泣かせてくれる。
アイツ等の為にも、生きて帰らねばな……だがその前に、コイツ等を食い止めなければ…!
眼前に迫ってくる100を超える大群。農村地帯で災害とも言われるイナゴの群れによく似ている……いや、我々を脅かす以上、コイツ等も災害……害虫と同じだろう。
「いくぞクソ虫共……この"マッカード・ミクセル"が!貴様等の相手となろう!!!」
機体を加速させ、正面にいる不明機をロックオンする。
「パイク1、フォックス3!フォックス3!」
ミサイルの発射スイッチを押し、中距離空対空ミサイルである『AIM-72トラッカー』を放つ。白煙を撒き散らしながら真っ直ぐに飛んで行ったミサイルは不明機に回避行動をさせるよりも先に着弾し、付近の個体諸共纏めて吹き飛ばした。
ミサイルを放ったのがこの戦闘機であると認識したのか、不明機達が一斉に此方に向かって急接近を開始する……どうやら本格的に敵と見做されたらしい。
機首を上げ、機体を空高くへと舞い上がらせる。後ろからは不明機達が大群を成して近付いて来ているが、不思議と恐怖心は芽生えていなかった。
「上等だ……やってやるっ!」
上げていた機首を更に上げ、空中で一回転するような形で機体を操作する。所謂『クルビット』というマニューバであり、機体に強い負荷を掛ける動きなのだが…機体はまだまだ健在だ。頑丈な機体で良かったと心の中で安堵しつつ、目の前に迫っているクソ虫共を直視する。
近くでみると案外簡素な形状をしているようで、手には円錐槍の様な物を一つ持っているようだった。銃器で無い分近付かなければ攻撃は当たらないだろうが、あちらとは違いこちらは小回りの効かない戦闘機だ…油断していれば何れ喰われるのは此方の方だろう。
流石にミサイルを撃つには近すぎる為、機首にある25mmガトリング砲を使用する事にしよう。ガトリング砲の発射スイッチを押し、正面に25mm砲弾をばら撒いていく。普段であればガトリング砲のスイッチを長押しする事なんざ無いんだが……今はそんな事を言っている場合ではないのだ。
ガトリング砲弾に喰い破られた不明機達が破片を撒き散らしながら、眼下に広がる青い海へと落下していく。どうやらコイツ等は想像以上に脆いらしい…。
「脆い分にはっ、好都合だなっ!」
機体を旋回させ、不明機達の大群をギリギリの所で回避する。耐G装置にすら負荷が掛かる無茶な機動に身体が悲鳴を上げるものの、その程度の負荷で止まっていられる程今は暇じゃないのだ。
ザァァァァという不快な音と共に不明機達が後ろから迫り来る。いよいよ虫感が強くなってきたが、虫除けスプレーで死ぬ程度の奴らで無い事は先程の戦闘から見ても明らかだ。
「クソッ、なんなんだコイツ等は……撒いても撒いても付いてきやがる…!」
目一杯の出力で機体を飛ばしているにも関わらず、不明機を振り切れる様子は無い……むしろ此方の動きを察知してより距離を詰めて来ている気さえしている…。
このままじゃジリ貧だな…。
ピピッ!という電子音が鳴り、ディスプレイに警告表情が示される……よりにもよって、燃料が底を尽くらしい……まぁ警戒任務で『海』の上空を飛び回った帰りだしなぁ…。
「ったく、ツイてねぇなこんちくしょう!」
燃料が少ないとはいえ、今此処で速度を落とす訳にはいかない。最高速度を維持しつつ不明機達を海上基地から少しでも離れた場所へと惹き付けて行く。
……このまま行けば基地へと帰る分の燃料は残らないだろう……パイク隊の奴等には悪いが、無事に帰るのは無理そうだな…。
「はぁ…人生の終わりがよりにもよってこんな海の真上とは……ままならないもんだな。」
最後の燃料を振り絞り、機体を加速させた後に機首をグンッと上げ、不明機達と向き直る。
「地獄に付き合って貰うぜ、クソ虫共。」
ミサイルの発射スイッチを押し、至近距離で空対空ミサイルを目の前の不明機に向かってぶっ放す。勢い良く放たれた2発のミサイルは目の前の不明機へと喰らいつき、ミサイルを放った自機諸共爆炎で包み込んだ。
着弾の直前に緊急離脱した俺はシートの背で爆風を受けて機体の遥か遠くへと吹き飛ばされる。クソ虫共から逃げられたのは幸いだが、肝心のパラシュートは……駄目だ、爆風で吹き飛ばされちまってる。
下は青く澄み渡った海……こんな高所から叩きつけられれば命は無いだろう…。
………ここまでか。
「ははっ…。」
……でも、まぁ───
「誰かを守って死ぬってんなら……悪くねぇか。」
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