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12 プール掃除しよ? 5

 

 秋月さんから預かったベーコンを俺は頭に乗せ、住吉の元へ向かった。住吉に頭のベーコンを食べてもらうためである。……文章に起こしてみると思ったよりイカれてる。

 まあどう考えても秋月さんの予想通りになるわけがない。住吉のことだ。この姿を見たら「お、目玉焼きが歩いてきたぞ」とか言って茶化してくるだけだろう。

 それに俺は秋月さんに逆らえないので半分開き直っていた。

 住吉の背中が近づく。住吉はこんなに真面目にやってるのに、頭にベーコン乗せてふざけてる俺がちょっと恥ずかしくなってきた。


「おーい、住吉」

 住吉が振り返る。その視線が俺の頭に釘付けだ。そりゃ気付くよな。

「た、武岡、お前頭に!」

 住吉はその瞬間、血相を変えて俺の方に向かってきた。えっ、そんなにベーコン欲しかったの!? せめてはんぶんこさせろ!

 あまりの迫力に、俺は怯んで後ずさってしまった。思い出して欲しい。住吉の身長が190cmを超えていることを。そんな人間が猛ダッシュしてきたら壁が迫ってきたような圧迫感がある。

「屈め武岡!」

 その時ようやく、住吉の目が俺のベーコン、ではなくもっと後ろから迫ってくる飛翔物に向けられていることに気付いた。


 だが時すでに遅しというやつである。俺がその正体を見るより先、頭に強烈な痛みと共に俺の身体がふわり宙に浮き上がった。

 ナニコレ! 急に無重力になったの!? 俺この瞬間にUFOキャッチャーの景品になったのか!? だとしたらもっと他に欲しい物無かったのかよ!

 俺はわけも分からず足をバタバタさせていると

「タカダ!」

 と住吉が叫びながら俺にしがみついてきた。

「いや俺は武岡だぞ」

「バカ! お前が鷹に連れ去れれそうになってるんだよ!」

 俺はこの時初めて住吉に怒られてちょっぴりぴえんなのであった。だがそんなガーリーな思考は1秒後に吹っ飛ぶ。

 バッサバッサと羽ばたく音と共に、俺の頭に込められる力が一層強くなる。まるで巨大な万力に締め上げられているような痛み。そして視界の端に映る馬鹿みたいにでかい鉤爪。

 眼球だけを上に動かして確認してみる。太陽が見えなくなるほどの、巨大な翼の持ち主が俺をバチコリ掴んでいる。

 なーんだ、高田じゃなくて鷹だったのか☆ 鷹が俺の頭のベーコンを狙ってきてたわけね☆


「え! 鷹!? デカくない!?」

 俺はようやく状況を理解した。ちょっとした小型飛行機くらいのクソデカ猛禽類が俺の頭のベーコンを狙って来ていて、住吉がどうにかそれを助けようとしてくれているということを。

「くそっ! 外れねえ!」

 住吉は片手で俺にしがみつき、もう片方の手でどうにか鉤爪を外そうと奮闘している。こんな時にも怯まず仲間を助けようとするなんて、何て良い奴なんだこいつ! 

 秋月さんの指示とは言え、さっきまで住吉に俺の頭のベーコンを食わそうとしていた自分が恥ずかしくなってきた。

「武岡くん!」


 秋月さんが走ってきたのはそんな時だ。幾ら彼女が頭おかしくても緊急事態だと悟ったらしい。秋月さんはすぐさま俺にしがみつき、下に向かって思いっきり体重を掛けた。なお、彼女が持っていたのは俺の水着だったため、必然的に俺の下半身がポロロッチョと顕現する。

「何やってんだ秋月ぃ!!!!」

「よし」

「よしじゃねえよ!」

「ごめんなさい、私焦って……でもちょうど良かった」

「何が!?」


 秋月さんは俺のTWINTWINを指差し、まるで「This is a pen」とでも言うかのように

「住吉くん、見て! 武岡くんのおちんちん、今すぐ見て! そして感想を言って!」

「お前は何をやってるんだこんな時に! どんな時にも欲望に忠実すぎるだろ!」

「鷹さんもコッチ見て、こっちのウインナーのほうが美味しそうでしょ?」

「おいやめろ! 誰のTWINTWINがポークビッツだ!!」

「ポークビッツとは言ってないけれど」

「そうだよ秋月さん! このままだと武岡が持ってかれるぞ!」

 流石の住吉もこんな時まで秋月さんに付き合っている余裕は無いらしい。


 秋月さんは少しの間、手に掴んだ俺の海パンを凝視した後、意を決したように俺の方を見た。

「出ておいで、クロちゃん!」

 秋月さんが指笛を鳴らすと、プール場のフェンスをガシャンガシャン、と鳴らしながら見覚えのある動物が登ってきた。そう、彼女が飼っているオオアリクイである。何で待機してるんだよ。

「クロちゃん、ひっかくこうげき!」

 ポ○モンバトルか。

 でも待て、でも確かオオアリクイの爪ってかなり鋭くて、人間の大人でも油断してると命を落とすくらいのパワーがあるって聞いたことがあるぞ。そうか、この状況を打破出来るのはこのオオアリクイしか居ないってことか!

 オオアリクイはフェンスを飛び越え、猛然と突進してきた。凄まじい気迫。とてつもない闘志。野生の激しさ。

 行ける、これなら行けるぞ!

 オオアリクイは、すかさず背後に回り込むと、二本の足で立ち、鋭く獲物を睨み付け、そして俺の尻をペロペロ舐め始めた。

「んああああああああ!! 何なんだこの状況は!!」

 上から鷹に頭持ってかれそうになってるかと思ったら、秋月さんに下半身露出させられて、すかさずやって来たオオアリクイにケツを舐められている! 地獄でこういう拷問ありそうだなあ!

「武岡くん、幸せになってね」

「どういう感情でその言葉を発してるんだお前は!!」

「武岡、お前って動物に好かれるんだな」

「そうじゃねえ!」



「おいお前ら、何やってるんだ」

 向こうから幸田先生の声が近づいてくる。助かった! 幸田先生も手伝ってくれたら、どうにか助かるかもしれない!

「先生、たすけ……」

 希望を持って幸田先生の方を向いた俺は一気に仏頂面に早変わりした。先生の鼻の穴にデッキブラシ(のブラシの方)がぶっ刺さっていたからである。

「お前らが遊んでるから先生の鼻にデッキブラシが刺さったじゃないか」

「いやその理屈はよく分からん!」

 鼻の中どうなってるんだ先生!

「抜いてくれ」

「嫌ですよ!」


 その時である。急に頭に感じていた痛み、圧力から開放された。ほぼ同時に、空を覆っていた影が先生の方に揺らいだ、かと思うと、残像も見えないほどの速さで鷹の爪が先生を捕らえ、あっという間に飛び去ってしまった。

「ああ! せ、先生!?」

「落ち着いて武岡くん、先生なら鼻にデッキブラシが刺さってたから大丈夫」

「あ、それもそうだね」

「先生なら大丈夫だろ! さて鷹もいなくなったし、さっさと終わらせちまおうぜ!」

「おー!」


 こうして俺たち三人は、どうにか日暮れまでにプール掃除を完了させたのだった。

 ちなみに幸田先生は一週間後、御巣鷹山の麓で、鷹の巣でヒナとして育てられているところを登山客に発見された。


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