11 父さん、来るらしいよ? 4
再び俺のスマホのバイブ音が鳴る。あの女からのメッセージ。
『お楽しみ、いただけたかな?』
おい秋月ぃあああああああ!!
こいつらは恐らく、先程玄関先でエンカウントしたのと同じフィギュアだ。ポンポコポンポコ疑問は湧いてくるのだが、先ず何より秋月さんは何が悲しくてこれを買ったのだろう。
まあ当然の如く父さんもキレるキレる。
「おい星矢ぁ! 何だこれは!!」
勿論知るわけないのだが、そんなことを言うと、第三者の関与、つまり秋月さんがこの家に出入りしていることを疑われるの。何としてでも言い訳しなければならない。
何か無いのか! 無難で、社会的正義もあって、父さんが納得しそうな理由! そうだ!
「父さん、これらは保護犬です」
「保護犬!? いや嘘付け! そもそも動物じゃないだろこいつら!」
もうここまで来たら俺も半分開き直っていた。どんな弁護士がやってきてもここから逆転する未来が見えないので、俺の所作だけは落ち着いていた。
俺は一頭の牛(頭人間)に近づき
「いや、ちゃんとワンワンって鳴きますよ? ほら、鳴いてみ?」
すると、牛は首をギュルギュル三回転させてから、こう言った。
「お前が俺の乳を絞るのか、俺がお前の乳を絞るのか、どっちでも良いぜ☆」
「ほらね?」
「何がだ!!」
「ちょ、ちょっと調子が悪いみたいですね。ほら、もう一回、ワンワン?」
するとフィギュアのくりくりした目が、急に白目を剥いた。
「コロ……シテ……コロシ……テ」
「おいそいつ『殺して』って言ってたぞ?! 無理やりその姿に変えられてもう戻るすべのない人間みたいなこと!! 遺言みたいに!!」
「この牛はちょっと調子が悪いみたいです」
「もう自分で牛って言ってんじゃねえか!!」
「この子なら、ほら」
俺は隣の羊の頭をポンポン叩いた。
すると桃太郎が出てくるかのように、突然羊の頭がパカッと頭が割れた。
いやグロいわ!
そして中からパックに入ったラム肉がウィーン、と上がってきて、本体の目がギョロリとラム肉の方を向き、殆ど白目になる。
「僕をお食べ?☆」
グロイわ!
父さんが羊さんとお話している間に俺は自分の机に立っている牛を退かせ、そこに置いてあった本を父に向かって広げてみせた。
「そんな些細なことより父さん、参考書見て下さい、ほら、僕勉強してますよ」
「いや些細じゃないだろこれは! お前普段この部屋で何してるんだ!」
「普通に勉強です」
「この頭狂った部屋で?! ここで平常心保ってるんならお前の方が異常だぞ! ……おい待て、星矢。それは何だ?」
「え?」
そこまで来て、俺はようやく自分の持っている物が参考書ではないことに気付いた。表紙には「BL大全」と書かれており、中身をめくってみると、解像度の高いBL絵がぎっしり詰め込んである上、びっしり線が引かれている。
それを見て、俺は久しぶりに正気を取り戻した気分だった。
「おい星矢ぁ! 何だそれは!」
「ご、誤解です父さん!」
「何が誤解なのか言ってみろぉ!」
父さんが俺に殴りかかろうとした時、急に「ガタン」という音がして、壁の一部がめくれ、回転し始めた。
俺も父さんも驚いて離れる。
その壁は、ゆっくりと回転し、裏返った壁には秋月さんが張り付いていて、ゆっくりこちらにやって来た。忍者かお前は。
「あ、秋月さん!? 何やってんの!?」
秋月さんは俺の顔を確認すると、一度眼鏡を直し、自信に満ちた目で言った。
「武岡くんが言った通り、少し遅れてから来たよ」
いやそこから出てきたら俺たちが隣同士に住んで同棲してるのバレるだろ!! バカか!!!!!
「というか何その回転扉!?」
「もしものときのために改造したの」
「お前は賃貸を何だと思ってるんだ!!」
「そんなことよりピンチみたいだから早く来たほうが良かったかなって」
「お前のせいで余計にピンチだよ!!」
「おい星矢、覚悟は出来てるんだろうな……?」
後ろで、殺意に満ちた父の声がした。
うーん、終わった。




