笑顔キャンセル界隈
か、肩身が狭い。日常生活でも肩身が狭い思いをしているのに、今は居心地の悪さが倍増している。
(頭も良いイケメンって、ずるくね?)
ただ今、馬車の中で気配を消して縮こまっています。文に明るい騎士を募集したら、インテリ系イケメンが大集合。
会話もピアノがどうとか、絵画がなんとかで全くついていけません。
「トール様、どんな書類をお探しになるのですか?時間は限られているので、ご指示を頂けると助かります」
騎士の一人が尋ねてきた。城にある書類の枚数は膨大だ。それを一枚一枚調べていたら何週間もかかってしまう。
「クラック帝国に関する外交の書類……その中で違和感があるものを中心に調査します。特にクラック帝国に送られた手紙の写しは宛先関係なくチェックします」
他国へ大切な手紙や書類を送る時、同じ内容の物を二通書いておくのが慣例になっている。
それと相手の返事をセットで保管しておくのだ。
「違和感ですか?誤字脱字や数字がおかしいとかでしょうか?」
……これだけ頭が良くても偽装に考えが及ばないか。彼にとって大事なのは美しさ。
アムールに対して恥じない美しい行動が最優先になっている。
コアの退陣はジェイド領に衝撃を与えると思う。それを少なくする為……コア・ジェイドがイルクージョン王を裏切っていた証拠をみつけたいのだ。
「送り先の相手の地位と、使われている言葉遣いに違和感がないかですよ。コアより地位が下の相手なのに、敬語を使っていないかとかです。皇帝バイゼルに宛てた公文書なら、国にも提出する義務があります。国や王様に見られたくない内容なら、皇帝の側近や使用人宛てで出していると思います。そういう人達に、コアが自筆で手紙を出す事がおかしいですし」
バイぜルのペットや奴隷の可能性もある。当然、そいつ等はコアより地位が低い。
それなのに正式な文章を使っていたら、実際に読む相手は別人だという可能性がでてくる。
城の書庫で公文書を読みまくった成果です。
◇
コアの城は悲壮な空気に包まれていた。
(当たり前だよな。領主が帰ってこないで、代わりに死んでる予定の人間が、王国親衛隊と帰って来たんだから)
襲撃の失敗、それはコアの失脚を意味する。
「王の命にて書庫を改める」
親衛隊の人達が顔色一つ変えずに城に乗り込んいく。彼には、メイドさんのすすり泣く声が聞こえないんでしょうか?
不思議なもので文字を目にした途端、お仕事スイッチが入る。
(これがコアの筆跡か……宛名はバイゼルの執事……でも、言葉遣いが丁寧過ぎる)
「これとこれの内容を確認して下さい。物によっては王様へ渡して頂けますか?」
あくまで渡すのは親衛隊の皆様。俺は違和感を覚えた物を渡しただけ。これ以上厄介事に首を突っ込みたくないのです。
「トール様、一休みしませんか?」
集中して作業をしていたら、ニコラさんが声を掛けてきた。でも、親衛隊の反応を見る限り、決定的な物は出てきてないと思う。
(流石にやばいのは書庫に保管していないか……うん?)
なぜか地図アプリは勝手に起動。そして書庫の片隅でマークが点滅していた。
「ちょっと待って下さいね……ここの筈だけど……うそん」
棚を早探っていたら、一枚の手紙が俺の手に落ちて来た。しかも、やたら装丁が豪華な手紙だ。
(宛先はバイぜルが飼っている猫……マジか)
そこにはバイぜルの筆跡でデモンジュエルのお礼と書かれていた。
内容は完全にアウト。コア死刑でもおかしくないんですが。
◇
痛む胃を抑えながらピエールさんの城へ向かう。
街に近づくに連れて、賑やかな音楽が聞こえてきました。
「物凄いお祭り騒ぎなんですけど……」
どうやらピエールさんが正式に領主になったらしく、領地はお祝いムード一色。
俺も喜ばなきゃいけないんだけど、胸ポケットに入っているコアの手紙が重いんです。
「今日はご馳走でしょうな。トール様、胃薬を用意しておきますね。今日は途中退出できませんよ」
ニコラさんありがとうございます。俺の、胃の痛みがもう限界です。
お粥なんて贅沢は言わない。ポタージュとサラダがあれば満足です。
一休みしようとしたけど、半ば無理やりに応接室に連れて来られました。
「トール・ルベール、ただいま戻りました……」
そこにいたのはイルクージョン……いや、カヤブールの乙女オールスターの面々。
王様、リヒト王子、の王族。ピエールさん、デゼールさん、セリュー君、ルシュル君の新生ジェイド領主一家。爺ちゃん、姉ちゃん、クレオのルベール家一行。フォルテ、リベルのメイン攻略キャラ。
「トール、味方の兵だけではなく、ジェイド騎士団にも傷を負わせぬ策略。何よりリヒトに対する忠誠。頼もしい限りだ」
王様からお褒めの言葉をもらったけど、これはかなり名誉な事だ。でも、テンションが上がりません。
「もったいないお言葉、ありがとうござます…そしてピエール様、おめでとうございます」
ピエールさんが領主になれたのも嬉しいけど、一番嬉しいのは公の場にルシュル君がいる事だ。
「トール君にには、なんとお礼を言って良いのか分からない。これからもセリューとルシュルの事を頼む。私に出来る事があったら、なんでも言ってくれ」
そう言うとピエールさんは俺に頭を下げてくれた……それなら部屋に帰って休んでも良いでしょうか?
「それなら顔洗って来ても良いでしょうか?まだ旅の汚れを落とせていなくて……お爺様、ハンカチを貸して頂けますか?」
爺ちゃんに近づき、ハンカチを借りるふりをしてコアの手紙を渡す。そのままいったん退室。
(体を拭いて着替えてくるか)
許されるならスエットに着替えてベッドにダイブしたい。
「トール、何があったの?」
ベッドにダイブしようとしたら、いつの間にか姉ちゃんとクレオが部屋に来ていた。
「コアがデモンジェエルの研究に手を貸していた。見返りはジュエルエンブレムを顕現出来なかった貴族や騎士へのデモンジュエルの移植」
つまり自分の配下を魔族に変えるって事だ。ザント達に移植が上手くいったのが大きな主因らしい。それを政務としてやっていたのだ。
そして俺はその邪魔をした訳で……またクラック帝国に目をつけられるよね。
流石にクレオも笑顔になっていませぬ。
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