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「でも、高校三年生になって進路を決める時に父の跡も継ぎたくなかったし、


 かと言って特にやりたい事も見つからなくて迷ってた時に、


 たまたま通いの家政婦さんが急に来られなくなった日があって、


 それでまだ五歳だった妹の相手を仕方なくしてやった時があったんです。


 そしたら妹が“お兄ちゃん、幼稚園の先生みたい”って言って、


 元々、子供が好きだったからその言葉が切欠で保育士を目指すことにしたんです。


 だけど、僕はほぼ強制的に父の会社を継ぐ事になってたし、


 その事で親族会議にまでなって……特に亡くなった母方の親族からは猛反対されましたよ」




「麗子さんのお母さん……ですか?」




「えぇ。僕が保育士になったら跡を継ぐのは自ずと腹違いの弟になる。


 もちろん、弟も僕と同じ様に社長になる為の教育を受けていましたから


 父方の親族にとっては大きな問題じゃなかった。


 けど、それだと会社にいる母方の親族の立場が弱くなりますからね……でも、


 その時に今の母が親族の前で土下座をしたんです。


 “蒼空の好きにさせてやってください”って。


 何度も何度も泣きながら頭を下げてくれたんです」




「どうして……そこまで?」




「母曰く、僕がグレたのは自分が結婚した時に家に入る事を拒んで


 ずっと寂しい思いをさせていたからだ……って。だから、その償いって訳じゃないけど


 僕に好きな様にさせてやりたいって」




そして、本多先生は少し躊躇いながら言った。


「それと……僕、本気で結婚を考えていた女性がいたんですよ」




「みゆきさん?」




「いえ……みゆきと別れた後に付き合っていた人なんです」




(そんな人がいたんだ……)


私はちょっと胸が痛かった。




「……その人とはどうして別れたんですか?」




「“別れた”って言うより、“振られた”んです。僕が社長になる気がなかったから」




「?」




「行く行くは社長になると思っていたのに保育士を辞める気がないって言ったら


 “あなたとは結婚できない”って。要するに玉の輿を狙ってたみたいです」




「そんな……っ」




「叔母はどこかでその話を聞いたか調べたかで知っていて、


 朱里さんもその……同じ事言ってるって……」




「そんな訳ないじゃないですかっ」


私は本多先生の事が好きなのに。




「だから……もう連絡しない方がいいんだと思ってて……」




「社長だからとか幼稚園の先生だからとかそんなの関係ないっ。


 私は本多先生が……蒼空さんの事が好きなんですっ」


私の言葉に本多先生はハッとして顔をあげた。




私と先生の視線が絡まり、そのまましばらく見つめ合っていると


「本当に……?」と、本多先生が不安そうな声で言った。




「本当です」


私が即答すると本多先生は少しだけ嬉しそうに口元を緩めた――。






     ◆  ◆  ◆






――一ヵ月後。


本多先生の怪我もすっかり完治した。




そして、とてもよく晴れた気持ちのいい日曜日の午後。


私と本多先生はドライブデートで海に来ていた。




青い海……蒼い空と白い雲……




砂浜に二人で並んで潮の香りに包まれながら空を見上げて、ふと思った。




(本多先生って、本当に蒼い空みたいな人だなぁ……)




「?」


私がじっと先生の横顔を見つめていると先生がどうしたの? と言う顔を向けた。




先生はまるで蒼い空が広がっていくように笑う。




私はその笑顔を見るたび、まるで蒼い空に包まれていくみたいに、


とても温かい気持ちになれるんだ――。

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