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しかし、彼女との再会は意外にも早く訪れた。
週末の土曜日――。
親友の大橋一平と久しぶりに会い、飲みに行った居酒屋に彼女がいた。
だが、俺は彼女と一緒にいる相手を見て声を掛けるのを止めた。
朱里さんと同い年くらいの、びしぃーっとスーツも着こなしていて、
いかにも仕事できますって感じの男と一緒だったのだ。
(もしかして……デートか? てか、デートだよなー?)
こっちは野郎二人。
一方、あっちはデート中
(本当は声でも掛けたいところだけど、気付かない振りをしとく方がいいよなぁ……?)
朱里さんが座っている席からは相手の男性と数人の客、それに一平の肩越しに
俺の姿が視界に入るか入らないかというところ。
デート中なら俺なんて視界には入らないだろう。
◆ ◆ ◆
しかし、一時間程が過ぎた頃――。
「本多先生?」
……と声がして、顔を上げると翼くんママが少し驚いた顔で立っていた。
「あ……どうも」
見つかってしまった。
「こんばんは」
翼くんママはにっこりと笑った。
(相変わらず可愛いなぁー)
「こ、こんばんは、偶然ですね。佐山さんもこのお店にいらしてたんですね」
「はい、今日は同僚と一緒に来てるんです」
一緒に飲んでいる男性に視線を移す翼くんママ。
「そうなんですか」
(“同僚”ね……)
「先生は?」
「僕も友達と飲みに来てるんです」
「そうだったんですか」
結局、翼くんママとの会話はそれだけで終わってしまった。
彼女と一緒に来ていた男性が怪訝な顔をしていたみたいで、すぐに戻ってしまったのだ。
それでも俺は予想外の再会が嬉しかった。
「今の誰?」
翼くんママが同僚の男性のところに戻った後、一平が興味深そうに訊いてきた。
「俺が受け持ってる園児のお母さん」
「へぇー、あれで人妻かー、見えないな?」
それはそうだろう。
だって、翼くんママは子持ちだけど“人妻”ではないのだから。
……と、言うより、もっと言えば“子持ち”にすら見えない。
「俺もあんな可愛らしい奥さんが欲しいなぁー」
そう言うと一平は何やら妄想モードに入った。
しばらく放っておこう……。
俺はちらりと翼くんママを横目で見た。
楽しそうに同僚の男性と喋っている。
(やっぱり、彼氏なのかな……?)
何も根拠はないけれど、なんとなくそう思った――。