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コチラの作品は元々ケータイ小説文庫『野いちご』様にて公開していた作品で
ケータイ小説として書いた原稿を再編しておりますので一話が他より短めになっております。
「おはようございまぁ~すっ!」
小さな手が優しい手から離れ、元気な笑顔が俺の方に駆け寄ってきた。
「おはよう、翼くん」
俺は体当たりする程の勢いで抱きついて来たその子を両腕で抱き止めた。
「おはようございます」
すると、さっきまで翼くんの小さな手を握っていた人物が
柔らかい笑みを浮かべながら俺の目の前に来た。
「おはようございます……て、あれ? 今日はおばあちゃんじゃないんですね?」
翼くんの家庭は少し複雑だ。
翼くんが生まれてからすぐに両親が離婚。
そして母親は翼くんを連れて実家に戻り、朝から晩まで働いているらしい。
実家にいるのに何故そんなに働き詰めなのか少々腑に落ちないが、
その辺の詳しい事情までは知らない。
そんな訳で翼くんの幼稚園への送り迎えはいつもおばあちゃんがしている。
「ちょっと母が体調を崩して入院しちゃったんで、
しばらく私が代わりに送り迎えをする事になったんです」
「そうですか。それは大変ですね。早く良くなるといいですね」
「はい、ありがとうございます」
で、そのおばあちゃんが体調を崩して代わりに翼くんを連れてきたこの女性……
肩を過ぎたあたりまである手触りのよさそうな黒髪。
目が大きくて少し幼いと思えるほどの可愛らしい顔立ちをしているけれど、
見たところ二十五,六歳ってとこかな?
(……てことは、年齢的に考えてもこの人が翼くんのお母さん……かな?)
「それでは、先生、よろしくお願いします。 翼、みんなと仲良くね」
翼くんママは俺にペコリと一礼すると翼くんにバイバイと手を振った。
(可愛らしい人だなぁー)
あんな人と離婚しちゃうなんて……、世の中もったいない事する男がいるもんだ。
「せんせー、どうしたのー?」
ぶんぶんとママに手を振っていた翼くんがいつの間にか俺を不思議そうな顔で見上げていた。
「あ? あー、なんでもない」
どうやら自分でも気がつかないうちにぼーっとしていたみたいだ。
(まったく、何やってんだ俺は。いくらシングルマザーでも園児の母親だぞ?)