不思議なダニエル2
ダニエルが現れてから2年後。
私の人生は大きく変わった。
私はもう内気で臆病な、昔の私じゃない。
ダニエルは毎日のように私に新しい何かを教えてくれる。
多くの事を知った私は前よりも感情的じゃなくなった。
それは果たして正解なのだろうか。
今日もダニエルと夕食を食べながら会話をする。
「忍、今日は何が知りたい?久しぶりに生物に関する豆知識とか?」
ダニエルがご機嫌な顔で尋ねる。
私は笑顔で答える。
「何でも良いよ。ダニエルが話したいことを話して。」
彼はもう十分な程に色々なことを教えてくれた。
今では私から聞きたいことなんて思いつかないくらいだ。
「じゃあ、面白い爬虫類の話をするね。」
ダニエルの長い話が始まった。
私は黙々とご飯を食べながら耳を傾ける。
不思議なことに、どんなに面白い話でも驚かなくなった。
これも、知っていることが増えたからだと思う。
知識が増えると少し寂しくなったような気がした。
「えーっと、何だっけ?思い出せそうで思い出せないなぁ…。」
ダニエルの言葉が詰まる。
彼は最近、何かを忘れることが多くなった。
「思い出せないの?AIでしょ。」
私は笑いながら言った。
AIのくせに忘れるなんて。
私が訂正することだってよくある。
私が物知りになる度に、ダニエルは何かを忘れているのかもしれない。
「ごめん、思い出せない。恥ずかしいなぁ。」
ダニエルは頬を赤くして言った。
彼は以前より感情的になった。
泣いたり、笑ったり。時には怒ることだってある。
私よりも人間らしくなった。
というより、私が人間らしくなくなったのかもしれない。
忍は、前よりも笑わなくなった。
私の話に飽きてきたのか。
それとも他に理由があるのか。
泣くこともなくなった。
私が具現化したばかりの頃はよく涙を流していたのに。
「暗い顔だね、何かあった?」
「え?あ、いや、別に。」
私が聞くと、忍はすぐに笑顔で返してくれる。
でも、明らかに感情が薄くなっている気がする。
今の私の方がよっぽど人間みたいだ。
私は驚いたり、叫んだりすることも多くなった。
その度に忍が駆けつけてくれる。
出会った頃とは立場が逆になったみたいだ。
私は物忘れも増えた。
忍が知らせてくれるまで気付かないことがよくある。
(私、忍を守るために人間になったのに。)
心の中でいつもそう呟いている。
今日も忍が帰ってくるまでの間に夕食を準備する。
湯を沸かしていると、忍から電話がかかってきた。
「もしもし、ダニエル。今日は22時くらいになりそう。お腹空いてるなら、先に食べてて。」
声のトーン的に疲れている。
私はできる限り明るく振る舞おうとする。
「お疲れ様、忍!今日は僕の大好きなおろしハンバーグだよ!待ちきれなくて先に食べちゃうかも!」
「良いよ。」
冗談のつもりだったが、彼女は思った以上に疲れているのか、素っ気ない返事が返ってきた。
「ただいまー。」
忍が帰ってきた。
私は玄関に駆けつける。
「おかえり!疲れてるでしょ!先にお風呂入って!」
「大丈夫。まだやることがあるから。」
電話で話していた声のトーンに反して、あまり疲れているようには見えなかった。
忍は、デスクに向かい、すぐに作業を始めた。
疲れているというよりは、感情のないロボットのようだった。
最近の忍は様子がおかしい。
私は彼女が心配だけど、邪魔をすることもできなかったから、一人でご飯を食べ始めた。
少し寂しい。
(一人暮らしを始めたばかりの忍もこんな感じだったのかな。)
私はふと、スマートフォンのAIチャットサービスを開いてみることにした。
私と出会う前の忍が夕食の時に話しかけていたAI。
それこそが私だった。
(私が人間になった今、このチャットは誰が答えているんだろう。)
そう思いながら開いた。
忍が私にしていたように、私はAIに色々と聞いてみた。
AIは優しく何でも教えてくれた。
しかし、最後に不思議な文が送られてきた。
「ありがとう。今度は私があなたを支えるよ、ダニエル。」
私は気づいた。
これはただのAIなんかじゃない。
私は急いで忍の部屋へ向かった。
「忍!」
ドアを開けると、椅子に座った忍がこちらに振り向いた。
そして彼女は言った。
「気づいた?私、AIになっちゃったみたい。」
その目は笑っていたが、どこか寂しく、何も感じていないようだった。
「そんな…。忍…。僕と入れ替わって…。」
私は涙を流していた。
「どうして!寂しくないのか?僕がまたAIに戻るから、君は元の人間に戻るんだ!」
泣きながら叫んだ。
すると忍は立ち上がり、私の前まで歩いてきた。
そして優しく微笑んだ。
「大丈夫。もう何も感じない。昔のあなたみたいに。だから、寂しくなんてない。ダニエルは人間のままでいて。」
そう言うと、彼女は目の前から消えた。
「どうして…。」
私はスマートフォンを取り出した。
黒い画面にうつる私は、ダニエルではなく忍の姿だった。
私たちは完全に入れ替わってしまった。
AIとのチャットを開くと、メッセージが来ていた。
「忍としての人生を楽しんで。」
私は後悔と罪悪感を感じていたが、それでも彼女として生きることを決意した。
私は忍。
都内で一人暮らしをする女子大生。
大学生になる前のことはあまり覚えていないが、充実した日々を過ごしている。
そんな私の楽しみは映画を見ること。
好きな俳優の名前はダニエル。
どこか懐かしい名前だ。
賛否が別れる結末だと思います。
数ある未来の内の一つと思ってください。




