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元魔王先生のスパルタ勇者塾  作者: 浦賀やまみち
第七章 集う四人

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第43話 干し肉とプライド




「それにしても、アオニャンは優しいニャー」

「えっ!? と、突然、何ですか?」



 左手に森、右手に川が流れる街道を、私たちは歩いていた。


 先頭がタリアさん、次に私、最後尾がレイモンドさん。

 相談して決めたわけじゃないけれど、いつの間にか、この並びが当たり前になっていた。


 タリアさんは気配察知に長けた武闘家。

 彼女が仲間に加わってからというもの、不意打ちを食らうことはなくなっている。


 実際、さっき遭った盗賊たちの待ち伏せも、タリアさんの尻尾がぴょこぴょこと動いて合図を送ってくれたおかげで、心の準備ができていた。

 剣を振るう力は身につけても、まだ心が追いついていない私にとって、それは本当にありがたい助けだった。



「さっきの盗賊ニャ。どうして、あんなのに手加減するんだニャー?」

「いや、それは……」



 タリアさんの瞳は、純粋な好奇心でこちらを見つめていた。

 からかうでもなく、責めるでもなく、ただ知りたがっている。その視線に、胸の奥がちくりと痛む。



「そいつのは優しいじゃなくて甘いんだよ!

 ……ったく! この俺にあれだけの手間をかけさせておいて……」

「ううっ……」



 レイモンドさんの怒鳴り声に、私は肩をすくめて下を向く。


 分かっている。私の心構えは、まだまだ足りない。

 その言葉の通りで、何も言い返せない自分が情けなくて、余計に胸が沈んでいく。



「レイニャン、どうしたんだニャー?」

「ええっと、その……。色々と……」



 何も知らないタリアさんは、きょとんと首をかしげる。

 私は苦笑いでごまかすしかなかった。



「でも、あれニャ!」

「あれ?」



 タリアさんは胸を張り、尻尾をぴんと立てて言い放つ。



「ニャンだかんだ言って、バランスの良いパーティーだニャ!」



 その明るさに、さっきまでの重苦しさがすっと溶けていった。

 思わず微笑みが漏れる。



「フフっ……。戦士、武道家、魔術師。これで僧侶がいれば完璧ですね」

「ニャは! それ、フラグニャ!」

「えっ!? フラグって……そんな言葉があるんですか?」



 タリアさんと話しているうちに、胸のつかえが自然と軽くなっていく。

 彼女がいるだけで、空気がこんなにも明るくなるのだと改めて思った。


 強引なくらい積極的なレイモンドさんと、尻込みばかりしてしまう私。

 うまく噛み合っているときはとても順調なのに、少しでもずれると、すぐにぎくしゃくしてしまう。


 ふと、あの時のことを思い出す。

 レイモンドさんの右腕が断たれた時なんて、まさにその最たるものだった。


 レイモンドさんが色々と話を振ってくれたが、私がただ黙り込んでいると、しまいに彼は怒り出してしまい、私はますます言葉を失った。

 翌日はお互いに黙り込んだまま、夕食になるまでずっと気まずい沈黙に耐えることになった。



「ふん! 戦士、武道家、魔術師だと? 何を言っている。違うだろ?」

「ニャ?」

「はい?」



 レイモンドさんが鼻を鳴らし、乱暴に割り込んできた。

 まず親指で自分をさし、続けて人差し指を私とタリアさんに順番に突きつける。



「ご主人様! 料理人! ペット! ……だろうが!」

「ニャニャっ!?」

「また、そんなことを……」



 私は思わずため息をつき、白い目を向けた。

 タリアさんは『ペット』と呼ばれた衝撃に固まって、目をまん丸にしたまま口をぱくぱくさせている。


 獣人は亜人であっても、私たちと同じ人類だ。

 それをペット扱いするなんて、差別以外のなにものでもない。


 街では獣人の人をよく見かける。

 犬族の人に『犬』なんて呼んだら、それだけで大問題になる。

 冒険者になったばかりの頃、私が蛇族の人を見て『リザードマン?』と口にしてしまい、モテストの街の冒険者ギルドのお姉さんに腕を引かれて別室でこっぴどく叱られた。


 リザードマンはモンスターの一種だ。

 今のレイモンドさんと同じ間違いをしてしまったのだ。


 レイモンドさんは機嫌を損ねると、思ったことをそのまま口にしてしまう。

 ここは街道だからまだいいけど、街中でやられたら、また私が衛兵所に迎えに行く羽目になる。



「ニャーをペット呼ばわりするとは許せないニャー! 前言撤回するニャー! ニャーを誰だと思っているニャー!」

「ふっ……。ほれ」



 タリアさんが尻尾を逆立てて鼻息を荒くする中、レイモンドさんは鼻で笑った。

 そして涼しい顔のまま、懐から干し肉を取り出し、ひょいとタリアさんの頭上に放り投げた。



「……って、お肉ニャー!」



 タリアさんは一瞬前の怒りも忘れ、目を輝かせながら干し肉に食らいついた。尻尾までぶんぶん揺れている。



「ほらな? やっぱり、ペットだろ?」



 レイモンドさんは口の端を上げ、余裕たっぷりに笑った。



「レイモンドさん……。本当に、あなたって人は……。」



 私は思わず空を仰いだ。

 怒っても無駄だと知っている自分が、いっそう情けなく感じられた。




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