第42話 街道掃除、開始30秒で終了
「へっへっへっ……。こんな所で何を、ぐえっ!?」
「なかなかの上玉だな。俺たちと楽しく、ぬふっ!?」
「えっ!? つ、通行料を払って……。ぶべっ!?」
盗賊たちがお約束の台詞を並べ立てる前に、三人が三人とも地面に転がっていた。
タリアさんの嵐みたいな肘と拳と蹴りで、まとめて吹っ飛ばされた。
無謀だと笑われても仕方ないと思う。
いや、タリアさんについてじゃない。私たちのことだ。
だって、街道を行く私たちは、この世界の基準で言うと、成人したばかりの若造三人。
それも女二人に男一人という組み合わせでは、盗賊に狙ってくださいと言っているようなもの。
案の定、森に入ると、茂みからぞろぞろと奴らが現れた。
あの手の連中は、まず私たちを『カモ』だと決めつける。
財産はそこまでなさそうでも、女二人は目を引く容姿をしている。
私は自分でいうのも悲しいが、可愛くも美人でもない。
暗くて大人しそうに見える。実際その通りで、街中を普段着で歩いていれば『ただの気弱な女』にしか見えないだろう。
だからこそ、盗賊にとっては格好の的だった。
一方のタリアさんは、明るく元気で華がある可愛い女の子だ。
虎族特有の耳や尻尾は遠目には気づかれにくく、それ以前に彼女自身の容姿が目を惹く。
悔しいけど、特に胸。私より大きい。
つまり、メインはタリアさんで、私はついで。
盗賊たちは私たちを取り囲んできた。
だが、それが間違いの始まりだった。
すでに三人が地面を転がり、残りはざっと見で10人ちょっと。
「ちょ、調子に乗りやがって!」
「まずはあの眼鏡を捕まえろ!」
「おい、うっかり殺すなよ! 人質は生きてりゃ使えるんだ!」
その数の暴力が盗賊たちを強気にさせたのだろう。
呆気に取られていた彼らが我に返り、狙いを変えたのは、私。暗くて、大人しそうな女だった。
「アオニャン、そっちに行ったニャ!」
「はい、任されました!」
だが、少しはおかしいと思わないのだろうか。
今の私はハーフプレートに身を包み、背には常人なら持つことすら難しい大剣を背負っている。
それを見てもなお『弱そう』と判断するあたり、やはり盗賊は浅はかだ。
実際、興味を持ったタリアさんが私のハーフプレートを着てみたところ、やっぱり重いらしい。
タリアさんは『こんな重いのを着て歩けるなんて、凄い力持ちニャ!』と笑顔で褒めてくれたけど、私の場合は勇者の『刻印』のおかげにすぎない。
本当の力じゃない。ただのズル。
本来なら、何年も厳しい鍛錬を重ねて、血のにじむような努力を経なければ、戦いに使えるような代物じゃない。
「良いか! 当てるなら足だぞ!」
「分かってるよ!」
「おいおい、漏らしたらどうするんだ?」
「だな! そっちの趣味はねぇえぞ!」
下卑た笑いが街道に響いた。
私は静かに剣を抜き放つ。
三方向から矢が放たれる気配を、私はすでに見切っていた。
息を吸い、ただ一振り。
「えっ!? ぐぎあああああゃっ!?」
私の剣は、分類的に『バスターソード』と呼ばれる剣で、どちらかといったら両手で扱うのが普通だ。
大柄な戦士ですら振るうのに苦労する、重く、長く、鈍重な武器。
それを片手で一閃。
空気を裂く衝撃とともに、飛来した矢はすべてはじき飛ばされる。
そして、そのまま返す刃で、棍棒を振り下ろしてきた盗賊を右切上に斬り払った。
「な、なんだ?」
「ど、どうなってやがる?」
「い、今の、見えたか?」
完全に盗賊たちが怯み、足を止める。
何人かは口をぱくぱくさせるだけで、声すら出せない。
私はタリアさんと無言で視線を交わした。
同時に地を蹴り、盗賊たちとの間合いを一気に詰める。
「ええい! この程度の雑魚に何を手間取っている! 退け! 邪魔だ!」
「ニャんと!」
「もう! 勝手なんだから!」
しかし、ここでレイモンドさんが動いた。
すぐさま私もタリアさんも直感的に巻き込まれると判断して、盗賊たちを素通りしながら距離を取る。
盗賊たちの最大の間違いは、レイモンドさんを見誤ったことだ。
一見すると、レイモンドさんは貴族の坊ちゃんだ。
気品ある顔立ちに整った服装。むしろ、街道を歩いていること自体が場違いに見える。
しかも背中には、野営道具をぎっしり詰め込んだリュックサック。
知らない者からすれば、ただの荷物持ちにしか見えない。
盗賊たちが貴族と見たか、荷物持ちと見たかは知らないけど、どう見ても戦うための人間には見えないだろう。
もちろん、レイモンドさんは荷物持ちを大いに嫌がった。
でも、私は剣を背負っているし、タリアさんは身軽さが売りの武闘家。
結論として、旅立ち以来ずっと彼が担うしかなかった。
その上、昼食のお肉を鳶にさらわれて機嫌が悪い。
よりにもよって、盗賊たちは最悪のタイミングを選んでいた。
「ドラゴニック・ファイヤーブレス!」
レイモンドさんの怒りの咆哮が響き渡った。
次の瞬間、その口から轟音と共に紅蓮の炎が吐き出される。
それは、力ある言葉通りに龍の息吹のように放射状に広がり、前方の盗賊たちと森の木々を焼き尽くしていく。
熱風が押し寄せ、私は思わず腕で顔をかばった。
「うぎゃああああああああああっ!?」
盗賊たちが姿を現してから、30秒も経っていなかった。
こうして、街道の平和はあまりにもあっけなく守られた。




