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元魔王先生のスパルタ勇者塾  作者: 浦賀やまみち
第五章 通過儀礼

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第32話 由緒正しい?金策法




「情報通りだ。どうやら、嘘は付いていなかったようだな」



 今、私はレイモンドさんに『お姫様抱っこ』されながら、空を飛んでいた。


 春休みに、家族旅行で行った東京。

 スカイツリーの展望台から見下ろした景色が、こんな感じだった。


 地上を歩いて探すのはきっと無理だろう。

 けれど、こうして高い空から見下ろせば、一目瞭然だった。


 盗賊たちを懲らしめたあの河原。

 鬱蒼とした森の中に、木が生えていない小さな空間がぽつんとあって、その延長上に集落があった。


 目測で、どれくらいだろうか。10キロ以上は離れていると思う。

 街道からの枝道は伸びていないし、獣道すら無かった。きっと遠い昔に打ち捨てられた村の跡なのだろう。


 木に縛り付けて放置してきた盗賊たち。

 彼らの一人が口走った方角とぴたりと一致している。間違いなく、あそこが『盗賊のアジト』だ。



「あのぉ~~……。」



 レイモンドさんが盗賊のアジトへ向かって飛ぶ。

 風を切る音が耳を叩き、前髪がばさばさと乱れる。

 その速さに思わず体を竦め、恐る恐る顔を上げると、レイモンドさんは楽しそうに口角を吊り上げていた。



「なんだ?」

「本当にやるんですか?」



 レイモンドさんの考えは、こうだ。

 盗賊のアジトを急襲して、やつらが商人や旅人から奪った財宝を、逆に頂戴する。


 あまりの発想に、私は文字通り、開いた口が塞がらなかった。

 本当は『それって、今度は私たちが盗賊になるってことでは?』と言い返したかった。


 でも、勇気が出せなかった。

 結局、レイモンドさんの勢いに押し切られて、お姫様抱っこされた。



「当然だ」

「当然って、そんな……」



 冷たい視線に射抜かれ、喉がきゅっと塞がる。

 だけど、同意は出来ない。私は唇を噛みしめた。



「喉元を過ぎたら、もう熱さを忘れたか? 

 さっき、お前は何に怯えていた? あいつらがお前に何をしようとしていたのか……。それを思い返してみろ」



 頭の中に、河原での出来事がよみがえる。


 にやついた顔で迫ってきた盗賊たち。

 ぞっとするような言葉。

 足が竦んで、一歩も動けなかった自分。


 怖かった。あのままだったらどうなっていたか、考えるだけで吐き気がする。


 それでも、私は『だけど』と言い返したかった。

 しかし、喉が固まって声にならない。それすらも口から出せずに、ただ目を伏せた。


 胸の奥にどんよりとした澱みだけが沈んでゆく。

 私にとって、犯罪者は警察に任せるもので、その処断を下すのは裁判所の役割だった。


 レイモンドさんが言う『叩かれたから叩き返す』なんて暴論は、この世界の常識なのかも知れない。

 だけど、それがどうしても受け入れがたかった。心が追いつかない。


 でも、現実は待ってくれない。アジトはどんどん近づいてきている。

 情報によると、アジトにいる盗賊の人数は50人以上。河原の木に縛った盗賊たちを合わせたら、70人近くのもう組織と呼べる大所帯だ。


 こんな組織が、つい最近まで暮らしていたモテストの街の近くに潜んでいたなんて信じられない。

 領主は何をやっているのだろう。野放しにしているなんて、街は本当に守られていたのだろうか。



「俺とて、こんな手間は御免だ」

「えっ!?」

「だが、しかしだ……。」



 レイモンドさんが私を抱え持つ両腕を直す。

 その小さな揺れに、伏していた目を上げると、レイモンドさんはニヤニヤと笑っていた。



「誰かさんがヘマをしてな? おかげで、路銀が足りないんだよ。

 いや、足りないどころじゃない。次、ギルドに行ったら違約金を払わなくてはならん。そう、誰かさんのせいでな?」

「うっ……。い、いじわる」

「事実を言ったまでだ」

「そ、そういうのを世間ではいじわるって言うんです!」



 言い返せなかった。

 言い返せないから、レイモンドさんの胸をポカポカと叩く。


 ド直球の正論だった。

 確かに、商人護衛の依頼を途中で打ち切られ、報酬は前金のみ。


 商人たちの行き先と私たちの目的地は同じ。

 私たちは途中の村々で食事の対価に働く必要があった為、道草が多く、商人たちは目的地『アナハイムの街』に着いている頃だろう。


 だから、冒険者ギルドに契約不履行のマイナス査定も届いているはず。

 モテストの冒険者ギルド職員のお姉さんは、ランクは一度昇格したら下がらないとは言っていたけど、依頼を受託できる幅は狭くなるに違いない。


 でも、レイモンドさんはこれまでの傾向から割の良い依頼を好む。

 その日の夜に歓楽街で遊ぶため、勝手に受託してくる。


 そして、今のレイモンドさんは無一文。

 私に貯えが少しあるとはいえ、遊び代に貸すのは嫌だ。

 どうして、女の私が、レイモンドさんが女性と遊ぶお金を出さなければならないのか。


 だけど、このまま目的地に着いたら、レイモンドさんは絶対に『貸せ』と言ってくる。

 無一文になってまで女性と遊ぶ人が、そこで我慢できるはずない。


 それに、男の人は一度そうなったら満足するまで止まらない。

 高校の後ろの席の女の子が夏休み明けに友達と話しているのを、聞き耳を立てて拾った記憶がある。


 昨夜はあんな事もあった。

 凄く、凄い不愉快で不潔だとは思うけど、私の身の安全のためには、レイモンドさんには歓楽街ですっきりしてきてもらう必要がある。


 まとめると、原因が自分にある以上、肩身は狭かった。



「……と言うか、お前はさっきから文句ばかり言っているが、この方法はだな。

 その昔、ある偉大な女魔術師が編み出した、魔術師向けの由緒ある正しい金策なんだぞ?」

「う、嘘だっ!?」



 私は思わず声を裏返してしまった。

 信じられない。盗賊まがいの金策をする魔術師が『偉大』だなんて称される世界がどこにあるっていうか。




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