その2 我が誇り消失事件
「ゴブ? ゴブゴブ?」
「ゴブブ! ゴブブ!」
ふと騒がしさに目を醒ました。
辺りは暗く、妙に息苦しくて、口を開けたら砂が入ってきた。
何だと思って、身体を動かそうとして気づく。
妾は土に埋まっていた。土の中に腰まで埋まり、頭と足が逆さまになっていた。
「ゴブ?」
その瞬間、もっと大事な事に気付いた。
今、妾は大地から二本の足を生やして、天に向けている状態。
つまり、パンツが丸見え。
「なっ!? なっ!? なっ!?」
しかも、妾のパンツを目撃している不埒者は棒らしきもので、妾の大事なアソコをツンツンとつついてきたではないか。
許せなかった。断じて、許せなかった。
いつか、父上に捧げ、妾が『娘』から『お嫁さん』になる大切な宝物。
そこに触れるなんて、天地がひっくり返っても許されぬ大罪。
「のじゃああああああ!」
「「「ゴブブーーーッ!?」」」
妾の憤怒が爆発し、逆さまの姿勢のまま放たれた咆哮は気合いとなり、周囲の土を一気に吹き飛ばす。
衝撃と共に大地がめくれ上がり、妾の身体は土の束縛から解き放たれて跳ぶ。
もうもうと舞い上がる土煙を払うように宙で一回転。大地に着地する。
左右を見渡せば、ゴブリンが3匹。
5メートルほど向こうで、いずれも尻もちをつき、目を見開いて、大口も開けている。
即座に罰を与えても良かった。
だが、妾は魔王である父上の娘。優雅さは忘れてはならない。
「はっはっはっはっはっ! 死ぬかと思ったのじゃ!」
胸を張って高笑いする妾。
両手を腰につき、威厳たっぷりに。
「んっ!? どうしたのじゃ? 吸血鬼ジョークじゃぞ? 笑っていいのじゃぞ?」
しかし、ゴブリンたちはあいも変わらず間抜けな顔を晒したまま。
妾がドヤ顔で両手を広げて見せると、ゴブリンたちが無言で顔を見合わせた。
「むぅ……。ゴブリンには高度すぎたかの?」
腕を組み、うんうんと頷いて気付いた。
組んでいる腕が素肌に触れて、妾のほんのりな胸を凹ませていた。
「な、なぬぅぅぅっ!? す、スラパイ! す、スラチチ! お、おぬしら、何処へ行ったのじゃっ!?」
視線を落とし、愕然とする。
ブラジャーを着けていなければ、そこに詰めていたスライムの2匹も居ない。
「このままでは父上に会いに行け……。ぬ?」
組んでいた腕を解き、どんな時も常に一緒だった重臣2匹の姿を探して、上半身を左右に振り向けて気づく。
妾は全裸だった。
身体のあちこちに煤と土汚れを着けて、すっぽんぽんだった。
つまり、妾はパンツどころか、大事なアソコが丸見えだった。
あまつさえ、パンツ越しどころか、直にツンツンとつつかれていたことになる。
「見ぃ~たぁ~なぁぁ~~~?」
驚愕のあまり振り向けたまま固まっていた上半身をゆっくりと戻せば、ゴブリンたちが抜き足差し足忍び足で立ち去ろうとしていた。
「ち、父上にしか見せたことないのにぃぃ……。」
顔を伏せた妾の声が低く震え、肩がぶるぶると震える。
煮えたぎる憤怒と共に練られてゆく魔力が、周囲の石ころを浮かせてゆく。
やがて砂粒までも逆巻く渦が妾を中心に生まれ、大地はびりびりと微かに震え、空気が熱を帯びる。
ゴブリンたちは逃げ出した。
小賢しくもそれぞれが別の方向へと駆け、自分だけは助かろうとしている。
「記憶を消し去ってやる! いや、存在そのものを世界から消してやる!」
妾はゆっくりと顔を上げ、紅の瞳をギラリと輝かす。
勢いよく突き出した右掌から生まれた巨大な火球が飛び、ゴブリン三匹を巻き込んで大大大大大爆発。
轟音と共に炎の柱が天を突き、衝撃波が大地を裂く。
灼熱の奔流に呑み込まれたゴブリンたちは、悲鳴を上げる暇もなく一瞬で灰と化した。
「のじゃ! のじゃ! のじゃ! のじゃ! のじゃああああああああああ!」
だが、それだけでは気がすまない。
大地を足で蹴って、天高く跳躍。
右掌と左掌を交互に勢い良く突き出して、同じ火球を五連発。
次々と放たれる灼熱の弾丸が大地を焼き、爆ぜる度に地鳴りが走る。
大地は赤く染まり、激しい地震を誘発させて、衝撃波が四方八方へと広がり、空気そのものが悲鳴を上げる。
やがて、天まで届く巨大なキノコ雲を生んだ。
「ふぅ~~……。」
肌を刺す熱波。
全裸で宙に浮いたまま、額に流れる汗を右腕で拭う。
「……で、ここは何処じゃ?
どうして、妾はここにいるんじゃ? どうして、裸なんじゃ?」
焼け野原を見渡しながら、妾は呆然と呟く。
もしかしたら、疑問の答えを持っていたかもしれないゴブリンたちは、跡形もなく蒸発した。
黒煙の立ち上る地平線の向こうに答えはなく、あるのは吹きすさぶ熱風ばかり。
「あの服……。父上に頂いたお気に入りなのに……。」
顔を覆ってガックリと項垂れる妾。
だが、すぐに顔を上げて、涙声で叫んだ。
「スラパぁ~~イ! スラチチぃ~~! 妾の重臣よ、妾の誇りよ! どこじゃぁ~~! 生きておるかぁ~~!」
両手を口に当て、必死に呼びかける声が焼け跡に虚しく響いた。




