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元魔王先生のスパルタ勇者塾  作者: 浦賀やまみち
第三章 臆病な勇者

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第26話 護衛任務、開始30秒で終了




「ゴブゴブ!」



 太陽の光を浴びて、青々と育った麦畑。

 黄金色に色づく一歩手前の穂が、風に揺れてさわさわと音を立てていた。


 そのあぜ道を歩いていたその時。

 左右の麦畑がざわめきだしたかと思うと、影がいきなり飛び出してきた。


 緑色の肌、醜い顔つき。口を閉じても突き出している二本の牙。


 冒険者たちの間で雑魚御三家と呼ばれるモンスターの一角『ゴブリン』だ。


 背丈は私とそう変わらない。

 力では人間に劣るけれど、その分素早く、数で押してくる厄介な相手。


 しかも、それが前に7匹、後ろに5匹。完全に挟み撃ちだ。

 


「う、嘘っ!?」



 驚きはしたが、焦りはしなかった。


 私はどちらかといったら、掃除や洗濯みたいな銅ランクの平和な依頼を好む。

 けれど、戦闘経験ならナルサスさんと一緒に山ほど積んできた。


 それこそ、ナルサスさんに『場馴れが必要だ』と言われて、普通の冒険者だったら一生無縁なはずの『ドラゴン』との戦いにも立ち会ったこともある。

 正確に言うなら、私がしたのは遥か後ろから声援を送るくらい。実際に戦っていたのは、もちろんナルサスさんだ。


 その時に比べたら、ゴブリンなんて、全然怖くない。

 むしろ、今の私なら落ち着いて相手にできる。そう、私はもう怯えるだけの初心者じゃない。



「レイモンドさん、私の傍に!」



 問題はただひとつ。すぐ後ろにいる護衛対象、レイモンドさんの存在。

 もし、彼に傷でもつけようものなら、大ごとになるのは目に見えている。

 やっぱり、初心者相手の戦闘レクチャーなんて、受けるべきじゃなかった。


 男の人は気付いていないと思っているだろうけど、女は解るんだぞ。

 会った時から何度も何度も、胸やお尻を見て、本当に信じられない。


 挙げ句の果て、胸を指差して『それ、偽物だろ?』ときた。

 はい、その通りです。この鎧の胸のカップ、私のサイズより二つは大きくて、中に布をぎっしり詰めています。


 いっそ、レイモンドさんの方から依頼を断ってきてくれたら、どれだけ楽だったか。

 けれど、彼は私に文句を散々ぶつけながらも、結局はついてきた。


 これもそれも、七つ角屋のフルーツタルトが美味しすぎるのが悪い。

 あの味が忘れられなくて、つい高額な報酬に目がくらんだ。


 その結果、よりにもよって『男性にものを教える』という自分には不向きすぎる依頼を受けてしまった。


 そして、ナルサスさんはもういない。

 レイモンドさんを守れるのは私しかいない。


 背中から剣を引き抜き、両手で柄を固く握る。

 右へ振りかぶり、駆けながら迫るゴブリンに横薙ぎを放とうとしたその瞬間。



「ゴブゴブーー!」

「ゴブ! ゴブブ!」


 赤白い光球が、私の右側を通過した。

 不自然に軌道を湾曲させ、正面のゴブリンへ直撃する。


 前髪が靡き、おでこが露わになるほどの大爆発。

 炎の柱が天へと伸び、熱風が身体を押し戻す。思わず右足を引いた。


 耳をつんざく絶叫。 

 数秒後。炎が消えると、前方にいたはずの7匹のゴブリンは、全て黒炭になっていた。


 強い風が吹き抜け、黒炭は音もなく崩れ、大地に散らばっていく。

 それが何だったのかすら、今はもう分からないほどに。



「えっ!? ……えっ!?」

「どうした? 何か酷く焦っていたようだが?」



 目をパチパチと瞬きさせる。

 呆然としたまま後ろを振り返ると、レイモンドさんは誇らしげに胸を張っていた。

 更にその後方、5匹のゴブリンが武器を振り上げたまま固まっていて、私と同じように目をパチパチと瞬きを繰り返していた。



「ゴ、ゴブーー!」



 そのうちの1匹が、甲高い悲鳴をあげて踵を返した。

 次の瞬間、残りのゴブリン達も我先にと麦畑へ飛び込み、蜘蛛の子を散らすように四方八方へ逃げる。



「あっ!?」



 すぐさま私は後を追うとする。

 だけど、どれを追えば良いのかが分からず、無様に顔を左右へキョロキョロ。


 なにしろ、ゴブリンは繁殖力が強く、成長速度も早い。

 だから、冒険者の間では『見かけたら必ず全滅させろ』と言われている。


 しかも今回の依頼は、この広い麦畑に巣食うゴブリンの徹底駆除。

 刈り入れが始まるまでに片付けなければならないのに、一匹でも残せば大問題だ。


 他の冒険者パーティも、きっと別の場所で戦っているはず。

 ここで取り逃がしたら、私たちのせいで余計な迷惑がかかってしまう。



「ふっ……。愚か者め」



 そんな私をよそに、レイモンドさんは余裕の笑みを浮かべ、右掌を掲げた。


 そこからほとばしった光線は、一直線に天へと昇る。

 それは五方に散って、流星のような軌跡を描いて降り注ぎ、麦畑へ散ったゴブリンたちを正確に貫いた。



「ゴブ! ゴブゴーー!」



 悲鳴が次々にあがり、麦畑のあちこちで火柱が噴き上がった。

 爆発音と土煙が連鎖し、視界が赤と黒に染まる。


 ゴブリンたちとの遭遇から、まだ1分どころか、30秒も経っていない。

 信じられないほど、あっさりと片付いてしまった。



「おい、こんなものか? 呆気なさすぎて、つまらんぞ。もっと歯応えのある場所へ連れて行け」

「ええぇぇ~~~っ!?」



 冒険者ギルド職員のお姉さんはレイモンドさんを『世間知らずのお坊ちゃん』と評していた。


 でも、絶対に嘘だ。

 私は情けなく叫ぶしかなかった。




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