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ワールド・エラー ―境界と案内人―  作者: 藍乃木是羅
第1章 境界と案内人
17/24

#017 迎え撃つ銃弾の雨 *

 東区外周部の道は都市部と比べると狭く、瓦礫の山に隠れて建物が数件建っていた。もちろん、建物の外装はひび割れだらけな上に穴も空いており、当然のごとく窓ガラスは有るべき位置に存在しない。争いの被害を免れたというよりは、被害に耐えたと言った方が正しい。

 その中でも一際被害の大きい家屋に直面する。壁どころか屋根までもが無くなっていて、入ろうと思えばどの隙間からでも侵入し放題な有り様だ。


「ここ、人いるの?」

「まさか、犯人もこんな所には隠れないと思うよ」

「だよね……」


 同意しつつもステラはカメラのモードを切り替え、熱源体を探そうとする。一通り全体を見渡すと、予想通りの答えを述べた。


「うん、いないね。もう、犯人はどこに行っちゃったのかなぁ。犯人さーん、どーこでーすかー!」

「コラッ、大声出さないでよ」

「えー、だってさ、これじゃ何時までも見つからないよ」


 エルミナとステラのペアが巡回する地域は、外周部の東南東辺り。全区から警察や警備隊、また案内所からも総計50以上のペアが作戦行動に加わっている為、進行自体は恐ろしく速い。半日も経っていないというのに、端末に表示された情報によればもうじき半分のエリアの調査が終わるという。

 1日掛りの調査だと思い込んでいただけに、些か拍子抜けの感があった。しかし、調査中は常に気を抜くことはできないので、2、3時間であっても相当の集中力を必要とする。


 昨晩男が出現した位置からして東区にいる可能性が高く、そこに集中的に人材が集められているが、人影はおろか機械兵器すら発見されない。あるとしても、昨日の騒動で停止した物ばかりだ。

 これだけの人員を()いているにも関わらず、状況は依然として変化していなかった。


「エル、誰かいるよ。隠れて」


 ステラの一声で近くの残骸に身を潜め、陰から慎重に様子を伺う。10歳くらいの少年が2人、こちらへ素早く駆けてくるのが見えた。

 外周部の子だ、とエルミナは直感した。着ている上着は布が擦り切れんばかりのシャツで、ズボンには遠くからでも目視できる程大きな穴が開けられている。更に大きな布の袋を2人で片方ずつ持ち、中には幾つか食料が入っている。ただしその量は、この2人の少年の分だけだとしても足りないであろう。


 彼等が道の交差地点まで来た。少し立ち止まって荷物を持ち直し、こちらに気づくこともなく真っ直ぐ進んでいった。


「あれ、もしかして外周部に住んでいる……」

「そうだね。買い物してきたんだろうけど」

「避難勧告って外周部にも出ているはずだよね。どうして?」

「多分、構っていられないんだと思うよ。外出するなって言われても、それじゃご飯も買えないし」

「ふぅん……あ、また誰か来る」


 少年達の後を追って、今度は1人の少女が走ってくる。ペースは少年達よりも遅く、時々転びそうになっては脚を止めている。両手に抱えているのは飲料水の入ったボトル2つ。


「待ってよ……お兄ちゃん……」


 なるほど、3人は兄妹らしい。兄妹で揃ってお使いでもされているのだろうか。

 その顔に浮かぶのは、都市部ではしゃぐ子ども達とよく似た無邪気な笑顔。置かれている状況は全く異なるが、子どもの日常会話はどこでも同じようなものだ。


 不意にその少女が立ち止まった。首を振って辺りを見回す様子を見ていると、少女と目が合った。視線を勘づかれていたようだ。

 少女は物怖じすることなく壁際に近づき、(まばた)きしながら2人の姿を観察した。純粋な瞳がエルミナを射抜く。


「お姉ちゃん達、だれ? 何してるの?」


 そして訝しむこともなく訊いてきた。突然の事だったが、エルミナは出来うる限り穏やかに言った。


「えっとね、捜し物をしに来たんだ」

「何か失くしたの? 落し物?」

「うん……ちょっとね。なかなか見つからなくて」

「お手伝いした方がいい? お兄ちゃん達も、リーダーさん達もお手伝いするよ」

「……」


 言葉に詰まった。まさか、こんな幼い少女に向かって「兵器を捜している」などとは言えない。彼女が機械兵器の存在を知っているか否かは別として。とにかく、この場はどうにか誤魔化す他無い。

 エルミナは姿勢を低くすると、対面する少女と顔の高さを合わせた。


「ありがとう。でも私達は大丈夫だから。お兄ちゃん達、もう先に行っちゃったよ」

「あ、そうだった! 待ってぇー!」


 会話している間に体力を取り戻したのか、先程よりも少し大きな声で叫ぶと、脇目も振らずに走り去っていった。相変わらず途中で立ち止まりながら。

 小さくなっていく後ろ姿を見送りながら、ステラが安心したように呟いた。


「なんか、思ってたよりも元気そうだね」

「確かに。もっと苦しい生活をしているって勝手に思ってた。楽ってことはないだろうけど。将来、あの子達も救われる日が来るのかな……」


 小声で洩らした最後の言葉を聞くなり、ステラは背後からエルミナの両肩を勢いよく掴んだ。


「うわっ! ……いきなり何すんの」

「他人事みたいに言ってるけど、それってエルの役目でしょ? ほら、もっと頑張らないと、調査終わらないよ」


 しばしの沈黙の間に、辺りを再度見回した。

 壊れた自動車に脆くなったビルの壁、舗装が裂けるように割れた道路、そして植生もほとんど見られない閑散とした景色。だが目を凝らすと、そんな廃れた街の中にも人間の暮らしている形跡が見られる。

 例えば買い物帰りに捨てられたビニール袋や、ゴミ箱に収まりきらずに溢れ出る缶や瓶。刃がボロボロになるまで使い込まれた包丁まであって危なっかしいが、料理までしている人もいるという事が予想できる。少なくとも、その刀身に血は付着していない。


 とても綺麗とは言えない街並みだが、何も無い訳ではない。彼等は一生懸命今を生きていて、いつか栄える街に行きたいと願っている。そんな事まで想像していた。そうして改めて、エルミナは自分がここへ来た目的を自覚した。


「……うん、そうだよね。私が──」


 言葉は不意に途切れた。視界に何か煌めく物が映ったのだ。

 荒れた地面に目をやると、通りの真ん中に小さな金属の破片らしきものがあった。周囲を警戒しながら更に近づく。破片は複数あり、黄色く輝くものや黒ずんでいるものが混じっている。

 そして気づいた。確か、アンドロイドの頭部に、こんな複雑な形状のものが使われていた。

 同時に嫌な予感が湧いてきて、(いびつ)な部品の数々から距離をとり、咄嗟に機械銃を取り出して物陰に隠れた。ステラは戸惑ったものの、エルミナの考えを瞬時に理解して、彼女の後方へと移動して身を屈めた。


 予感は的中した。通りの左側、積み重なった瓦礫の影にペアの姿が見えたのだ。ガイドの方は無事だが、サポーターのアンドロイドは右腕を失っている。加えて後頭部にも損傷があり、落ちている部品の数からして機能に支障をきたしている可能性が高い。

 それから間も無く、全身を硬い外殻で包んだ人型の機体が通りの右側から現れ、一糸乱れぬ隊列で歩いてきたのだ。異様な光景に己の目を疑うが、距離と歩行速度からして猶予は無い。


 エルミナは立ち上がり、元きた道へ踵を返すと手振りと共にステラを呼んだ。


「ステラ、こっち。ここにいたらすぐに気づかれる」


 道の中程で立ち止まると、エルミナは再び前方を向いた。


「ねぇ、どうするの? あんなにいるんじゃ一度に相手なんてできないよ。ってもしかして──」


 エルミナが銃を構え直すのを見て、彼女の行動を悟ったステラは慌てた様子で彼女を止めようとした。


「ダメだよ! 1体は止められても、他の機体が気づいたら攻撃されるよ」

「そうだけど……このまま逃げ続けても、どのみち見つかる。後ろ見て」


 後方からも硬い足音がする。横目で確認するだけでも理解できる程に、群れを成す敵影が今も迫ってきている。

 つまるところ、彼女等は両方向から敵に迫られつつあるという事だ。通路は1本道、脇道は瓦礫によって行き止まりとなっている。前の通りを抜けるのでは敵に感知されてしまう。

 既に選択の余地は無い。エルミナは機械銃を持ったまま開いた片手で端末を起動、そして告げた。


「こちら東区第34地域。戦闘型機体を発見しました」


挿絵(By みてみん)


 既に先のペアが報告しているかもしれないが、通信機器を破壊されていた場合はそうとも限らない。

 報告を済ませると、エルミナは銃を両手で持ちながら壁際に身を寄せた。前方の機体は3列横隊で進行中、距離は100m以上はあるだろうか。そろそろ気づかれる頃合いだ。対して後方は迫りつつあるとは言え、まだ前方よりは距離がある。

 倒すなら前方の敵だ、と即座に判断して半身を乗り出す。丁度通りの交差点に差し掛かる所で隊列は立ち止まり、直後にセンサーの赤い光が(またた)いた。その光線が左側へ向いた時、機体が姿勢を低め、今にも突進しそうな構えを取った。


 あのペアが狙われたのだと理解し、エルミナは自身に焦りが生じるのを感じた。

 このまま放っておけば彼等は攻撃される。サポーターは最悪機能を停止しているだろう。ガイド1人で無数の戦闘型へ立ち向かうことなど考えないだろうが、同時に逃げることもできない。

 だがそれは、チャンスでもあった。敵機体の目が逸れた為に、エルミナから見ればその集団は隙だらけであった。撃ち込むならば今しかない。

 エルミナは思い切って物陰から飛び出ると、前方の機体に狙いを定め、引き金に指を掛けた。何体かがこちらを振り返るが、構わず指に力を込めた。


 果たして鈍い音がした。あの耳障りな呻きは距離のせいか聞こえず、判別のつかない衝突音がするだけだ。

 射撃の後すぐに身を隠したエルミナが再び顔を出すと、周囲の朽ちた壁のひび割れが若干増えているようだった。そして中央では、倒れた機体がもがくように四肢を滅茶苦茶に動かし、やがて完全に停止した。


「ステラ!」


 叫ぶ前に彼女は地面を蹴っていた。真っ直ぐに道を進み、突然の襲撃に判断しかねる集団と対峙する。

 当然、戦闘型アンドロイドのAIは何時までも迷ってなどいない。寧ろ、この短い間に作戦を決定したらしい。前の3体がステラの突き蹴りを受け止める間に、後ろに並んでいた残りの機体が取り囲もうと揃って前に張り出した。予想以上に数が多い。

 感知したステラは相手の蹴りをしゃがんで躱すと、包囲される前に間一髪で抜け出した。


 しかし、まだ相手の攻勢は緩んでいない。通りの狭さを利用して壁を作るように並び、前方の抜け道を塞いでいる。後方に味方がいる事を利用して再度包囲するつもりだろう。

 エルミナが陰から後方を覗くと、集団のうち何体かは駆け出していた。そして残ったものは腕を突き出した姿勢で止まる。その腕に取り付けられているのは大型の実弾銃。


 背筋が凍りつく。あれは大戦で使用された、本当の兵器──

 驚くと共に反射的に引き下がると、直後に砲撃が開始された。折り重なる発砲音と共に弾丸がとめどなく射出され、ステラの元へ一直線に向かう。

 だがそれは標的には当たらず、味方の外装に当たっては激しく周囲に弾き返された。壁が穴だらけになり、音を立てて崩れ始める。


 危険を承知でエルミナは付近の建物に上り、2階の高さから通りを見下ろした。もちろん、捕捉されないように隠れながらであり、十分には見渡せていない。

 ふと上方に視線を移すと、向かい側の民家の上に人影を発見した。赤い長髪に細身の少女──ステラだ。2階建ての屋根の上に手を着いて立っている。今更驚く事でもないが、1度の跳躍で建物の2階分を飛び上がったらしい。


 砲撃が止むと、全機体の集中はステラへと向いた。別れていた集団は1つに集まり、5体程が彼女と同じように民家の屋根に一蹴りで上がった。下にはまだ10体以上も残っているが、ほとんどがステラを捉えている。

 屋根上で格闘戦が行われる中、ステラは次々に繰り出される手足を避けるので精一杯だった。一瞬攻撃が薄くなった所で彼女はこちらを向いた。何らかの合図……そう、奴らを止めるのなら絶好のチャンスだ。


「よし……今だ」


 未だに後を追って建物に上る機体があるが、そちらは一旦無視する。エルミナは道路に残って銃口を上に向ける機体目掛けて、躊躇せず機械銃を連射した。

 狙い違わず次々と動作を停止するが、やはりと言うべきか、3体は奇妙な姿勢になりながらもまた動き出した。昨日見かけたものと同じだ。装甲の表面が歪んだのも見逃さなかった。

 停止命令に抗って(うごめ)く機体のうち1つがセンサーを光らせた。片腕を動かし、エルミナの方へ銃を向ける。


 耳を刺激する発砲音と共に、大口径の弾丸が建物の壁を貫く──ことは無かった。エルミナが目にしたのは、地面に伏して動かなくなった3機体の姿と、それよりも1回りも2回りも小さな薄青の髪の少年。後方には機械銃を手に持った茶髪の女性が佇んでいた。

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