082⚫️大国のやり方
北の大陸の沿岸線は、いまや絶え間ない警報と怒号に満ちていた。
ゼルド・ファルマ王国は、ついに本格的な“飽和攻撃”へと踏み切ったのである。
一点突破ではない。
海図に記された港湾、入り江、砂浜、さらには岩礁帯に至るまで、同時多発的に上陸部隊が押し寄せてくる。
「また別の地点で上陸だ! 北東の入り江、敵影多数!」
「南岸でもだ! こんな数、どうやって・・・!」
報告が重なるたび、指揮所の空気は重く沈んでいく。
ブラッド率いる“潜竜”艦隊は、これまで北の大陸を守る最後の盾として機能してきた。
だが、敵が上陸地点を分散させたことで、潜竜の迎撃能力は限界に近づいていた。
潜竜は海中を自在に動き、敵艦を奇襲することに長けている。
しかし、海は広い。そして敵は多すぎた。
「全航路を同時に封鎖するのは、無理だ。」
海図に書き込まれた赤い印を見ながら、ブラッドは淡々と言う。
赤い印は、刻一刻と増えていく。さらに追い打ちをかけるように、’泳竜’の効率低下が増々深刻化していた。
かつては一撃で敵艦を沈めた泳竜も、相手の新型艦の登場と敵艦の増加により、一隻を無力化するのに複数発を要するようになっていた。
「命中・・・しかし沈まない! 追加装填急げ!」
「間に合いません! 別の敵艦が突破します!」
潜竜の攻撃が遅れれば遅れるほど、敵の上陸部隊は次々と海岸へ到達する。
そしてついに、西の大陸にも侵攻が及んだ。
ゴライブ伯爵領の港町では、昼食の香りが漂う穏やかな時間が、一瞬で戦場へと変わった。
「敵だ!ここに?なんで?!」
「ここはラベリアじゃない!東の大陸が目的ではないのか?!」
混乱の叫びが街を駆け抜け、避難民が内陸へと押し寄せる。
北の大陸と西の大陸。
二つの大陸が同時に火の手を上げたことで、戦況は完全に’第二段階’へと移行した。
もはや海だけでは防げない。
陸戦が始まる。
その報は、ボレリア王国にも届いた。
公国宰相ウィルフレッドからの急報を受け、
ボレリア王アーサーは険しい表情で立ち上がる。
ついに来たか・・・。
北も西も、同時に押されている。
我々も覚悟を決めねばならない。
戦争は、いよいよ三つの大陸全体を巻き込む’総力戦’へと突入しようとしていた。




