プロローグ
「ねぇこの後暇だったらお茶しようよ?」
「・・・。」
男は推理小説の謎解きの章で、その物語の中に入り込んでいた。
女は辛抱強く、男の返事を待った。
男がハードカバーの裏表紙に手を置いた。
隣で、女性誌のページを行ったり来たりさせている女に目をやる。
男の顔を見て「で?」と聞いた。
男が答えた。
「で、でって・・・?!」
「この後暇だったらお茶しようよって、今から13分前位に声掛けたんだけど。」
女も女性誌を閉じた。
「は?からかうの止めて下さいっ!」
男は立ち上がり右隣の席に置いていた学校指定の紺色のバッグを肩にかけ、
背凭れのマフラーを手にして女の後ろを通り過ぎようとした。
女の左手が素早く、男のブレザーの裾を捕える。
男がカクッと停止。
此処が何処であるかも忘れた男は声を大きくした。
「なっ何するんですかっ?!」
目の前の女と、その前にある大きな机。
そして周囲の多数の書籍棚。此処は図書館。
男は、他の利用者の迷惑になってしまった事を悔やみ、辺りを見回した。
自分の座っていた机の上の蛍光灯が灯っていて、他は夕焼けの暖色を帯びていた。
「??・・・?」
女が男の読んでいた本を背表紙を頼りに元の棚へと返却した。
「貴方、この人好きね?マニアックって言われない?」
女は、受付カウンターを照らす電気を消した。
手にしているのは、IDカードだった。
「れ・・あれ?」
男がふと見上げた図書館の掛け時計は18時27分を指していた。
図書館の閉館時間は18時である。
近くのファミレスで女はアイスティーのグラスを空にした。
「あの・・俺、すみません。」
「何時もの事じゃない。」
女は笑った。
男が閉館時間も忘れて本に夢中になっているのは、職員の間で有名だった。
「個人情報の問題もあって、本当はこんな事しちゃいけないんだけど、どうしても貴方と話してみたかったんだ。田口伊緒クン。」
伊緒は女にそう言われたからか、自分の名前を呼ばれたからなのか体中が熱くなり両膝に置いたそれぞれの手を力強く握り締めた。
「あたしは、此処の近くの大学4年の安藤菫。その制服、一高のでしょう?あたしも実は一高出身。
此処。今はバイトだけど春からは契約職員になるんだ。何度か対面した事あるんだけど、記憶に無い?」
一瞬遅れて、伊緒は頷く。
「・・・そうよね。伊緒クン、本しか興味無さそうだもん。」
「あの・・・話って・・・。」
伊緒は、菫の考えてる事が全く解らず完璧な困惑の渦中に居た。
「ねぇ、『WHO IS MARDER』は誰が犯人だと思った?」
「え?」
伊緒としては少しだけ、男女の質問が飛び出すのかと構えていた手前、話のベクトルが180度別で質問を聞き返してしまった。
「あたしは、”ハルヤマ”が妖しいと思ったんだけどね。」
「あ、・・お。俺は”アヤノ”だと思った。」
「えー!!あたしの弟もそう言ってたっ!アヤノなのぉ?!又、読み直さなきゃ。」
聞けば、菫も伊緒同様、推理作家の織戸悠が好きで、図書館で織戸悠の本ばっかりを完読している伊緒と推理談義をしてみたかったという事だった。
伊緒にとっても菫とその話題で盛り上がれる事にかなり興奮していた。
二人は携帯番号とアドレスの交換をして、その日は別れた。
少ない話数の連載ですので、1話1話が長文になっています。
読みづらいかもしれません、申し訳ありませんが
暫しお付き合いくださいませ。
*** 壬生 ***




