24 ハネムーンへ
第3章ラストです。
――魔物とメデューサ騒動の翌日――
私とレジナルドは、王城の外れにある神殿で式を挙げた。神官の前で宣誓を終え、正式にこの国の王妃として皆にお披露目される。
「偽ギディオン! 来てくれたのね」
「カレン様。とてもお綺麗です」
あ、隣にいるのはリンコーク帝国の皇帝。つまりはギディオンのお父さんだ。
「ご結婚おめでとうございます。そして、ギディオンが世話になっております。しかしギディオン、ずいぶん男らしくなったなあ。ガハハハッ」
「そ、そうか? 元が良いとなんでも似合うんだろうなぁっ。ガハハハッ」
ギディオンの頭を見てガハガハ大笑いする皇帝陛下。小馬鹿にされているのに、まんざらでもない様子のギディオン。楽しそうな父子だな。
「兄上。私、レジナルド様とカレン様を見ていたら、もう一度恋がしたくなったわ。今度はもっと、まともな旦那をあつらえてくださいな」
「エミリア……。確かにそなたには申し訳ないことをしたが、その歳でとなると――いてえっ!」
皇帝陛下の背中を、拳でグリグリとえぐるエミリア様。素敵な兄妹だぞ。
「ガハハ。相変わらず可愛いが止めなさい、エミリア」
「親父ぃー。叔母上より、俺の縁談が先だろぉ?」
「ギディオンは髪が伸びるまで待ちなさい。私には時間がないのよ」
ああ、なんか帝国の血濃いわ。不憫になったので、偽ギディオンの手をそっと握る。頑張れ。
「ほら、貴方! ナールとニールがもっと伸び伸びと成長できるように、ウーミワタールも帝国の皇帝陛下に負けないよう、子沢山な王族を目指しますよ!」
「わ、わしはもう無理じゃよ」
「父様がんばれー」
「がんばれー」
子どもに子作りの応援をされる父親かぁ。あれはあれで幸せの形だな。うんうん。ウーミワタール国の繁栄は間違いない。
「カレン様。このよき日に立ち会えたこと、チョキュール公爵家当主として、生涯誇りといたします」
「カレンちゃんがこの国に遣わされてくれて、本当に良かった……。いつまでもレジナルドを支えてちょうだいね」
「お義母様、おじ様。その想いに報いる事が出来るよう、よい妃になりますね」
なんか、お義母様とチョキュールのおじ様は、この世界の和やか担当になりそうだわ。本当の両親のように温かい。
「カレン。王妃になっても、変わらずわたくしたちの友情を深めてまいりますわよ」
「もちろんよ! そして次は、リリアナとメイソンさんの結婚式ね。楽しみだわ」
寄り添い合いながら頷くリリアナとメイソンさん。なんて似合いの二人なんだ。只今幸せを謳歌していますって感じね。って、それって、今の私が感じるべきことじゃ? ギギギと私は夫を見やる。
肝心の私の夫はというと――
次から次にかけられるお祝いの言葉に、表情を変えず「ああ」だの「感謝する」だのと言っている。
私は気づいていたよ。支度を手伝ってくれた使用人の皆さんの、痛くなる程の心づかいを。
「素晴らしいスタイルでございますね」
「ご自身でデザインなされたドレス、よくお似合いです」
「これほど素敵な花嫁は初めてですわ」
などなど。多分綺麗だって言葉は、旦那に最初に言われるよう、言葉を選んでくれていたんだと思う。
で? 粛々と式の進行に合わせて登場してみれば、いつもと変わらぬツーンとしたレジナルド。淡々と神官さんに言われるがまま段取り通り式を進めて、やっとみんなの前に出て来てさ……。最初に私に『綺麗』と言ったのは偽ギディオン……。
偽ギディオンが悪いのではない。レジナルドは、いくらでも私の耳元で囁く機会があった。ドレス姿、期待しているって言ってたくせに――
「はああぁー」
「疲れたか?」
ええ、ええ。疲れましたとも。この数日間、無駄毛のお手入れからはじまって、トレントとの戦いまで終始火に炙られてましたしね。
しかしね、ため息をつきたい理由はそれじゃない。
「カレン。ウーミワタール国の王子たちの件、感謝している」
「どうしたのよ? 急に改まって」
「私では彼等に寄り添うことはできなかった」
あれ? 双子を気にしていないようで、意外と心配していたの?
「あれらは私には、心の奥底を見せなかっただろう。カレンだからこそ、安心して子どもに戻れたのだろうな。お前は懐深い女だ」
「いやあ、まあ、照れるよぉ」
な、なによ。今さら褒め殺したって、花嫁のご機嫌は斜め上を行きまくってるんですからね!
「でも、メディーナ様が来て、あの子たちをガッツリ叱ることは知っていたんでしょう?」
「まあ、そうだな。ウーミワタール国の王族は風魔法に特化している。情報も風に乗せて直ぐにやり取りできていた」
まんまと今回も、私は体を張って他国の王族の問題解決に駆り出されたって感じかね。
「カレンのお陰で、国内外の懸念事項もなくなった。心置きなく新婚旅行に行ける。執務は二週間休む。先々の分まで全てこなしておいた。不測の事態があっても、母上が対応する」
「ふう~ん」
ま、すごく忙しそうにして公務を片づけていたのは知ってたけれど……。それで機嫌が直る程、女心は単純じゃないんだから。
「やっとカレンを独り占めできる。ユカタ姿もだが、ドレス姿も美しかった。カレンは暗い色合いだけではなく、白も似合うのだな」
「ひいっ!」
浴衣って、肝試しで幽霊の仮装をした時のよね!? そりゃあ、故郷の和服と一生懸命考えたウェディングドレスを褒められたら嬉しいけれど……。
「どうせ、レジナルドはモノトーンでシンプルなデザインなら良いって思うんでしょ?」
「それは確かに好ましいと思うが、カレンの浴衣とドレス姿は、他の者に見せたくない程綺麗だった」
グホッ! そこまで言われたなら仕方ないなぁ。拗ねてる場合じゃないわね。二人で旅行に行くため、公務を頑張ってくれてたんだ。みんなの前では言えなかったみたいだけど、ちゃんと気持ちも伝えてくれた。
「ありがとう、レジナルド……。不束者ですが、これから末長くよろしくお願いいたしますね……」
「やっと、我が妻カレン・ファンドブルグになったな……」
互いに瞬きも忘れ見つめ合う私たち……。
「「カレーン」」
はっ!? これは、ナールとニールの声? お前たち空気を読め~。
「ねえ、レジナルド。『欲しいモノを貰える券』を使ってもいい?」
「ああ、約束だ」
「二人だけでゆっくりしたい……。レジナルドの時間を頂戴?」
おおっと。双子に居場所が見つかったようだ。
「カレンいたー! 僕たち、ファンドブルグ王国にこのままいるー」
「母上が、弟が生まれるまで留学してなさいってー」
「そうなの!? ま、まあ、毎日楽しくなりそうね」
「「だからあーそーぼー」」
待って。お子様には分からないかもしれないけれど、新婚初夜ってやつなのよ!? 今やっと素直になれて、レジナルドといい雰囲気になっていたのに……。
「お前たち、悪いな。このままカレンは旅行に行く」
「「ええーっ。遊びたかったー」」
「ひゃあぁ! 宙に浮いてるぅ!」
「あいつらの母親に教えてもらった」
私は不敵にだが、しっかりと笑ったレジナルドに抱えられ、そのまま開け放たれた窓から外へと飛び出す。
「オークリー。至急、荷物を届けるように」
「カボチャパンツさん、よろしく~」
眼下には呆気にとられたカボチャパンツさんや白い目を向けるギディオン。寂しそうなデグ太郎にダンディーに微笑むおじ様。リリアナとアリアンヌ様は手を振っている。
「みんな~。行ってきまぁ~す!」
「『欲しいモノを貰える券』はまた使う機会がなかったな」
「なんで?」
「私が最初からこうするつもりだったからだ」
華怜・ファンドブルグは知らない。神からのギフトとしてこの世界に転移した彼女が、自国の貴族諸侯と近隣諸国の王族方の争いの火種を木端微塵にし、ファンドブルグ王国周辺一帯の平和に貢献したことを。
「しっかり掴まっていろ」
「うん!」
彼女は空を飛ぶことに大はしゃぎしながら、レジナルドの首にグルリと両腕を回してハネムーンへと旅立った――
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