気合いを入れようと思ったので
リンスはティートに言われ、恵理達も使ったので彼女達の髪もサラサラツヤツヤになった。
入浴の手助けをしてくれていた女性の使用人達の目は、釘付けになっていた。だから入浴後、恵理が分けてあげると目を輝かせて感謝された。
「よろしいんですか? ありがとうございます」
「いえいえ……ロッコはリンスだけじゃなく、温泉も髪に良いんです。機会があれば、ぜひ」
「「まあ!」」
使用人達の主はガータなので、彼女を差し置いてロッコに来るようには頼まない。
けれど少しは揉み療治教育の為、援護射撃になれば良い。そう思い、恵理はにっこり使用人達に笑ってみせた。
※
そして、用意されていた食事は今日も美味しかった。
香辛料が、疲れた体に心地好く染み渡る。ありがたくご馳走になっていると、すごく食べ慣れた味を感じて恵理は思わず目を見張った。
「カレー……」
「女神?」
それは、見た目はミートパイなどに近かった。けれど、揚げた生地に包まれた挽き肉やキャベツの具は、確かにカレー味だった。昨日も香辛料の効いたスープがあったので期待していたが、この味はまさにカレーだ。
ただあまりに焦がれたので、似た味でもカレー味だと感じているのかもしれない。だから確認する為に、恵理は料理を運んでいた女性の使用人に尋ねた。
「……あの、この料理の味付けに使っている香辛料はターメリックとクミン、あとコリアンダーとレッドチリペッパーですか?」
「えっ?」
「あ、故郷の言葉なので呼び方が違うかもですが……」
そう断ってから、恵理は香辛料のそれぞれの特徴を付け加えた。
今尋ねたのは、カレー粉を作る為の最低限の香辛料だ。母が、好みの味を作れるからとカレー粉のブレンドから手がけることもあった人で、恵理も手伝ったので何を入れるか知っていたのである。
「ええ、よく解りましたね」
「ありがとうございます……あの、ガータさん! 明日の夕食は、私も一品作らせて貰っていいですか?」
「何?」
「今日、参加者は半分に減ったから、明日は今日よりも早く終わりますよね? それに」
そこで一旦、言葉を切って恵理は他の面々にも目をやった。
「……このまま勝ち上がれば、明後日は私とレアンが闘います。そして、同じく勝ち上がればどちらかがサムとも……誰が勝つにしろ、その前に気合いを入れたくて」
「店長……」
「……師匠」
「あと、私が作りたがっているものを皆に一足先に食べて貰えたらなって」
「女神!」
「ん、是非」
それから言葉を続けると、レアン達が感激したように声を上げる。そんな彼らを見て、ガータも一つ頷いた。
「いいだろう……厨房には、声をかけておく。調味料の他にも、用意するものがあったら言ってくれ」
「ありがとうございます!」
「……いや」
お礼を言ったところガータが微妙な表情をしたので多分、少なくとも恵理は明日負けると思っているのだろう。そしてそんな彼女を励まそうと、申し出を許可したのだと思われる。
まあ、確かにやってみないと解らない。
けれど恵理としてはロッコでもカレーを作る為、絶対に負けられないので――言葉にこそしないが、決意を示すのににっこりと笑った。
 




