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きっかけと出会い、そして

 剣闘士になる人間には、二種類いる。

 一つは、異国から攫われてきた奴隷。あと一つは捨て子などが引き取られたり、志願したりしてなる場合だ。

 アルゴは、後者である。母親は彼を産んだ後体調を崩して亡くなり、父親は酒浸りでアルゴを放置していた。だから、生きていく為に剣闘士になったのである。

 剣闘士としての体作りの為だが、朝晩食べられて自分の寝床があると知った時は嬉しさに悶えた。そして、そんな風に手に入れたものを手放さない方法を考えた。


(簡単だ。強い剣闘士となって、生き延びればいいんだ)


 そうすれば、剣闘士でいるうちは衣食住が保証される。

 名案だと思って稽古に励んだが、予想外だったのはあまり身長が伸びなかったことだ。剣闘士になるような者は、異国の奴隷でなければ大抵は背が高くて体格も良い。一方、アルゴは腹が割れるくらいの筋肉はついたが、長身にはならなかった。残念だと思ったが、すぐに気持ちを切り替えて己の闘い方を模索した。

 そこで見つけたのが、攻撃を避けずに相手に突進することである。

 当然、怪我は絶えなかったが死ななければ御の字だ。そんな風に傷だらけ、血塗れになりながらも勝ち残り、生き残る小柄なアルゴのことをいつしか観客は『ファアル』と呼んだ。

 ……追い詰められて逃げ場を失ったネズミは、逆に猫に噛みつく。そんなことわざのように、必死になって抵抗すればアルゴのように、強者に打ち勝つことが出来ると言われた。

 そして、いつしかその異名と共にアルゴはかつて目指した『強い剣闘士』になったのだが。


「お前、強いな! 僕のものにならないか?」


 そんなアルゴの前に、現れた少年。

 いかにも金持ちそうなその子供は、綺麗な手をアルゴへと差し出して満面の笑顔で言った。

 ……生き延びるだけで、いっぱいいっぱいだったが。

 こんなキラキラした目で見られていたのかと、アルゴは何だかくすぐったい気持ちになった。



 闘技場の観客席は、四層構造になっている。

 一階は富裕層。二階は騎士階級の席で、三階は商人など裕福な平民の席。そして四階は、一般の平民の為の席だ。ちなみにティート達は、ガータと共に二階席で応援している。


「えっ? 席順、逆じゃないの?」

「ええ、女神。何かあった時、高いところにいたらなかなか逃げられませんから……富裕層から、優先されるようにです」

「そっか、成程ねぇ」


 聞いてみるとエリの感覚では、裕福な者ほど高いところから観戦するらしい。しかし歩いての移動なので上に行けば行く程、それこそ魔法でも使わないとすぐに移動出来ないのだ。

 ……話を元に戻すが、そんな一階にアジュールの王族達の座る貴賓席がある。

 陽射しを避けるよう天蓋が張られているその席には、身を乗り出すようにしながら闘っていたアルゴに声援を送る少年がいた。


「あの方は?」


 その貴賓席は、ティート達の座っている席のちょうど反対側にあった。

 天蓋の下にいるのもだが、十二、三歳くらいのその少年は髪も肌も綺麗で、着ている服も高級品と見て取れた。そんなティートの問いかけに、ガータが答える。


「第三王子のサイード様だ」

「小さ、い」

「お前に言われても……まあ、上の二人の王子達とは年が離れていることもあり、可愛がられている。今年、勝者への報酬の決定権を任されるくらいにな」

「それは……すごいですね」


 ガータとミリアムのやり取りを聞きながら、大抵のことは叶えられると聞いているのでティートは感心して呟いた。そんなティートに、ガータも頷く。


「殿下は、強さに憧れを持っている。だから、アルゴの後援者になったのだが……同じように、支援してほしい者が今回の武闘会に参加している訳だ。観客としては、やる気がある者が多ければそれだけ面白くなるからな。結果、立ち見でも良いからと閲覧希望者が殺到している」


 そう言われて、ティートは四階の平民の席へと目をやった。

 なるほど、確かに立ち見の者達がいる。そして名を呼ばれたアルゴに目を戻すと、男は王子へと頭を下げていた。


「女神の強さを、見せつけたい気もしますが……囲われてしまうと、それはそれで困りますね。まあ、女神をどうにか出来るとは思いませんけど。万が一のことがないように、僕も頑張らなければ」

「何か言ったか?」

「いえ。今日は、これで終わりですよね。女神達と合流して、戻りましょう」

「ん」


 ティートの呟きに、ガータが尋ねてくる。とは言え、内容までは聞こえなかったらしい。

 それににこり、と笑みを返してティートは言い、ミリアムも頷いて立ち上がった。

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