第四十七話― 巫女四柱、贄 ―
冷たい石の床。
滴る水音。
そして――鎖。
擦れるたびに、静かに響く。
四人の巫女が、並ばされていた。
美咲――勾玉。
奈義――銅鐸。
日生――短剣。
真備――銅鏡。
それぞれの神器が、淡く脈動している。
まるで――呼応するように。
声が落ちる。
「……揃ったか」
低く。
重く。
空気そのものに沈む声。
誰も、答えない。
だが――理解している。
ここが、“終点”だと。
足音。
一歩。
また一歩。
空間が、支配されていく。
「巫女四柱」
温羅が現れる。
その目に、感情はない。
ただ、“条件”を確認する者の目。
「これで――鍵は揃った」
奈義が、顔を上げる。
奈義
「……何をする気じゃ」
問いは鋭い。
だが――
温羅は答えない。
視線を、奥へ向ける。
そこにあるもの。
“漆黒球”。
鼓動している。
ドクン。
ドクン。
空間が、それに合わせて歪む。
美咲の呼吸が止まる。
(……これ……)
知っている。
夢で見た。
何度も。
何度も。
何度も。
未来の残骸のように。
美咲
「……やめて」
声が、震える。
「それ、動かしたら……終わる」
温羅の口元が、僅かに歪む。
「理解しているか」
一歩、近づく。
「ならば――話は早い」
手をかざす。
空間が、閉じる。
逃げ場が消える。
「祈れ」
一言。
日生が、歯を食いしばる。
日生
「ふざけ……るな……」
言葉が、潰れる。
見えない圧が、全身を締め付ける。
膝が――落ちる。
「……っ……!」
抗えない。
立てない。
奈義が叫ぶ。
奈義
「祈るな!!聞くな!!」
だが。
声が――出る。
意思とは無関係に。
真備が、静かに目を閉じる。
(……来る)
これは分岐ではない。
“確定した未来”。
美咲の唇が、震える。
涙が零れる。
「……いや……やだ……」
それでも。
止まらない。
言葉が――溢れる。
それは祈りではない。
“強制された詠唱”。
四人の声が、重なる。
開門。
ドクン。
黒球が、大きく脈打つ。
光が、吸われる。
音が、消える。
空間が、歪む。
温羅
「……始まった」
静かな宣告。
「神の檻が、開く」
四人の声が、共鳴する。
世界と繋がる。
境界が――溶ける。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
鼓動が、加速する。
奈義が、歯を砕きそうなほど噛み締める。
奈義
「……止まれぇぇ……!!」
日生の指が、血を流す。
日生
「……こんなの……認めない……!」
美咲が、涙を流しながら叫ぶ。
美咲
「桃太郎……!!」
真備だけが、静かに見ている。
(……違う)
(これは“終わり”じゃない)
(ここから――分かれる)
異変。
最初に、空が裂けた。
音はない。
ただ、亀裂が走る。
次に、大地が沈む。
押し潰されるのではない。
“存在そのものが増えている”。
世界が、耐えきれない。
温羅
「……来るぞ」
ただの事実。
その瞬間。
“それ”は現れた。
影ではない。
物質でもない。
“概念”が、形を持つ。
顕現。
巨神鬼。
一万メートルの異形。
四本の腕。
骨ばった躯。
神を飢えさせたような存在。
そして――胸。
漆黒の球。
同じ。
だが、違う。
これは“核”。
世界側ではなく、“向こう側”。
温羅が、笑う。
初めて。
明確に。
「……成功だ」
「これで、世界は殺せる」
美咲の目から、涙が落ちる。
美咲
「……間に合わなかった……」
奈義
「くそ……ッ!!」
日生
「……こんなの……!」
真備は、ただ見ている。
その目は――折れていない。
(……まだだ)
(終わっていない)
巨神鬼が――目を開く。
その瞬間。
世界が、止まる。
空気が凍る。
重力が歪む。
因果が、従う。
存在が、ひれ伏す。
温羅が、呟く。
「神を殺す神」
巨神鬼の視線が――四人に向く。
それだけで。
命が削れる。
存在が、削れる。
「さて――」
温羅が、振り返る。
「次は、人間どもだ」
遠く。
まだ届かない戦場で。
桃太郎たちは――
この“終わりの始まり”を、まだ知らない。




