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第十九話門番 ― 結界の巨人


鬼ヶ島は、ただの島ではなかった。

黒い岩が積み上がっただけの塊に見えるそれは――

よく見れば、あまりにも“整いすぎていた”。

無数の突起は牙のように空へ向かい、

表面を走る赤い亀裂は、まるで血管のように脈打っている。

風は鳴らず、波は静まり、

ただそこにあるだけで――世界が歪んでいた。

「……あれは、山じゃねぇ」

桃太郎が呟く。

「“生きてる”」

そして。

「――上陸だッ!!」

巨大な門が、世界を拒むようにそびえ立っていた。

音が、ない。

風すら、この場を避けている。

「……妙だな」

矢掛が目を細めた、その瞬間。

彼の身体はすでに宙にあった。

上から回り込む――判断は、速い。

だが。

「っ……!」

“そこにないはずのもの”に弾かれた。

空間そのものが壁となり、矢掛の体を叩き落とす。

落下の最中、彼は体をひねり、静かに着地する。

間髪入れず、弓を引いた。

「弐――鳳凰」

橙の羽根が、一直線に放たれる。

門前の“空間”に触れた瞬間――

閃光。

雷鳴。

爆発。

だが。

煙が晴れた先、門は――微動だにしていなかった。

「ダメだ」

矢掛は短く言い切る。

「強力な結界だ。飛行も、爆破も通らない」

一瞬の間。

「この門から行くしかない」

「……つまり、正面突破ってわけか」

軽く笑ったのは神庭。

その直後――

ゴゴゴ、と大地が鳴った。

「岩が……!」

隆起。

地面が盛り上がり、形を持つ。

「避けろ、哲西!」

“それ”は、人の形を取った。

振り下ろされる拳。

神庭が真正面から受け止める。

「……重てぇな、オイ!」

衝撃が地を砕く。

斬撃を叩き込む。岩が砕ける。

だが、その奥から現れたのは――

“巨人”。

門を守る存在。

いや。

門そのものよりも、巨大な“門番”。

「オレがいく!」

桃太郎が踏み込む。

「火炎刃・斬! 炎龍環・火焰龍舞斬!! 極爆波ァ!!」

炎を纏った連撃が、巨人を呑み込む。

爆ぜる熱。

揺れる空間。

――だが。

「……は?」

無傷。

「ふざけんなよ……今のが効かねぇのか?」

巨人は答えない。

ただ、拳を振るう。

直撃。

神庭と哲西が吹き飛ばされる。

「ぐっ……!」

「ぼくは……大丈夫……まだやれる!」

哲西が歯を食いしばる。

精霊を呼び出す。

三体、顕現。

だが。

通らない。

炎も。斬撃も。衝撃も。

すべてが――“弾かれる”。

「物理もダメ……精神もダメ……」

矢掛の声が、低く落ちる。

「空間すら、届いていない」

静寂。

「……ありえないな」

「なら、オレ様の奥の手だ」

神庭の体に雷が走る。

「修羅――ッ!!」

筋肉が膨れ上がる。

理性の縁に立つ力。

巨人を掴み――叩きつける。

殴る。

砕く。

吹き飛ばす。

岩壁にめり込むほどの一撃。

それでも。

巨人は、立ち上がる。

無傷のまま。

「……割に合わねぇな」

神庭が吐き捨てる。

その時。

「見えた」

矢掛が、静かに言った。

「何がだ?」

「防壁は一つじゃない」

指が、三本立つ。

「物理防御。精神防御。そして――空間隔絶」

「三重構造だ」

沈黙。

「三つ同時に破らない限り、届かない」

空気が張り詰める。

そして――

「なら、やることは一つだろ」

桃太郎が笑った。

「オレは最大火力でいく」

「ぼくも……全部出す!」

哲西が叫ぶ。

「これが最後の十体……全部、ぼくに憑依しろ!!」

光が爆ぜる。

次の瞬間――

銀狼。

「オオオオオオオオオッ!!」

理性を保った獣化。

精神体を纏った“実体”。

「私も行く」

矢掛が藍の羽根を構える。

「陸――迦楼羅」

空が裂ける。

巨大な怪鳥が顕現し、雷炎を吐き出す。

「一撃で決める」

「オレ様は雷で空間ごと斬る!!」

「オレは――」

桃太郎の刀が、炎を纏う。

「全部、斬る」

三者同時。

衝突。

空間が、軋む。

歪む。

だが――

「まだ足りねぇ……!」

押し返される。

その瞬間。

桃太郎の刃の熱が、空間を“揺らした”。

見えた。

透明な、鎧。

「これが……結界の正体か!!」

「隙間がある!」

「そこだ!!」

矢掛の声が走る。

全ての攻撃が、一点へ収束する。

――亀裂。

ピシリ、と音がした。

「いける!!」

桃太郎が踏み込む。

「百華閃――ッ!!」

一瞬で百の斬撃。

その一つが――

“隙間”を貫いた。

パキン――

世界が割れる音。

透明な鎧が、砕けた。

巨人の動きが、止まる。

「終わりだ」

桃太郎の一閃。

巨体が、崩れ落ちた。

結界が消える。

空気が、流れ出す。

「……終わったな」

「いや」

矢掛が門を見上げる。

跳躍。

上から回り込み――閂を焼き切る。

「開けろ、桃太郎」

「任せろ」

門が、軋む。

重く、ゆっくりと。

開いた。

その先にあるのは――

まだ見ぬ地獄。

崩れた巨人の中から。

小さな“核”が転がる。

哲西が拾い上げた。

「これ……まだ、生きてる」

矢掛が目を細める。

「ただの門番じゃない」

「“誰かの意思”が宿っている」

神庭が、笑った。

「つまり――」

「まだ上がいるってことか」

桃太郎は刀を肩に担ぐ。

「面白ぇ」

「全部、ぶった斬ってやる」

門の向こうから、風が吹いた。

それは――

戦いの始まりの気配だった。

 

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