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第四十七話 グルアテリアテロ防止戦線

 小さな町に入ったルドー達は、議員がいそうな場所を知っているヘルシュ達と別れて魔人族を探すために走り出す。


「説明できる大人がいると思うから俺もあっち行くけど、君たちあくまで引き付けるだけだからな! 町中で戦闘するんじゃないぞ、くれぐれも危険なことはするなよ!」


 同じく別れてヘルシュ達の後を追うニン先生に釘を刺されながらも石畳の路地を走り続ける。

 通り過ぎる町の人たちに、必死で走る姿を怪訝な顔で見られながらも構わず走り続けた。


 先頭を走るエリンジがリリアに顔を向けて大声で指示する。


「リリア、さっき感じたとかいう場所まで案内しろ!」


「リリに? 危険だろ!」


「カプセルが壊せなくとも、移動させられれば魔人族を町の外に誘導は出来る! お前に代わりに場所の探知が出来るか!」


『デメリットのせいで無理だわな』


「くっそ……リリ、離れんじゃねぇぞ!」


「うん、任せて!」


 危険に巻き込まれかねないのに妙にいつもより明るい笑顔でリリアが応える。

 場所の探知が出来るリリアが先導してルドー達は続く。


 石畳の続く町はレンガ調の小さな建物が並んで建っており、川が近くを流れているのか、広めの水路が横を流れて所々緑もある。

 人通りはまばらで、魔人族が歩いて居ればすぐにわかりそうなくらいには開けていた。


「上だ!」


 しばらく走っているとエリンジが叫ぶ。

 ルドー達が走りながら見上げると、路地に洗濯物が干されているまばらな視界に、先程見かけた大型の魔力の鳥が建物のすぐ上を飛んでいるのが見えた。


「おらぁ!」


 戦闘をするなと言われていたのに条件反射でルドーはつい雷魔法を放ってしまった。

 干されている洗濯物に静電気を纏わりつかせながら飛んでいった雷魔法だが、大型の魔力の鳥はかなり余裕を持ってひらりとあっさりかわしてしまう。


「お兄ちゃん! 攻撃したら戦闘になるでしょ!」


「いや、いい考えだ」


 そういうとエリンジも虹魔法を展開して大量に撃ち始める。

 ただエリンジにしては珍しく何一つ当たる様子がない。


 なんだなんだと周辺の住民たちが空を見上げ、中には窓からわざわざ覗きに来る者も現れる。


「自主的に動いてないなら、奴らは目立ちたくないはずだ。だから大量に攻撃しつつあえて外して目立たせろ!」


「反撃して来たらどうするの!」


『いやどうやら大丈夫みてぇだぜ、ほらよ』


 ひらひらと花弁のように攻撃を躱している大型鳥は、攻撃を避けるように進路を変えて飛び去っていく。

 どうやら反撃している暇はない様子だ。


「リリ、案内再開だ。向かってる先でまた出くわしたら威嚇して進路を外す」


「……そうすれば少なくともあの人たちはテロの場所から外れるってこと?」


「テロ発生時の到着を遅らせることは出来るはずだ。行くぞ!」


 再びリリアに先導させて走り始めたルドー達は、先程の鳥が飛んでいったほうを注視しながら先に進む。


 走りながらルドーはテロについて考え、エリンジに意見を求めた。


「エリンジ、魔人族が自主的に攻撃しないなら、その仕組んだ組織とかがどうやってテロを起こさせるつもりかわかるか?」


「魔人族の目的があのカプセルなら、そこを狙う。おそらく細工されている」


 眉間に皺を寄せて険しい顔をしながらエリンジが告げ、前で走りながら聞いていたリリアも強張った顔で一瞬振り返っていた。


「……中に人が入っているカプセルにか?」


「俺が組織の人間ならそうする」


『胸糞悪いが同意見だな』


 走りながら疑問に思ったルドーの質問に、エリンジは淡々と返す。


 アシュでの光景が頭をよぎる。

 ただでさえ弱っていたのにさらに細工までされて危険に晒されるのか。


 胸の辺りからモヤモヤと気持ちの悪い感覚がわいて聖剣(レギア)を握る拳に力が入った。


『ちょっと緊急連絡! 不味い事態がわかったですや!』


 石畳の道を走っていると唐突に通信魔法が入る。

 エリンジとリリアが走りながら応答した。


「カゲツどうした、何があった!」


『議員さんのいる馬車に向かう過程でヘルシュくんが色々聞き込みしてたんですや! そしたら保管されてた爆薬が最近無くなったっていう話が出てきて! 三十年前のドンパチの余りで湿気ってるらしいですけど!』


 慌ててそう伝えてきたカゲツに、エリンジは吐き捨てる。


「そんなの魔法でいくらでも再生可能だろ! くそ!」


「つまりカプセルに爆薬が仕込まれてる可能性があるって事!?」


『テロ事態に加えて組織の細工の証拠隠滅、ついでにテロとこの国の理由付けいっぺんに済むってか、ほんと碌な事考えねぇ』


 心底苛ついている様な低い聖剣(レギア)の声に、ルドーは思わず歯を食いしばった。

 焦るようにエリンジもリリアに叫ぶ。


「リリア、クロノに伝えろ! 頼むから聞いてくれ……」


「カイム! 止まって! 止まってってば!」


 聞いたことのある声にルドー達が走りながら振り返ると、見覚えのある帽子が建物の上を飛び伝っているのが見えた。


「アーゲストが罠の可能性があるって言ってたでしょ! こんな町中で暴れたら取り返しがつかないよ! 一旦止まって!」


「うるせぇだまってろ!」


 ルドー達がクロノの先を見れば、髪を使って屋根から屋根に飛び移り、恐ろしい速さで移動しているカイムの姿があった。

 猛然と突き進んでいる姿から既にカプセルに気付いているかもしれない。


「クロノ! カプセルに近付くな! 爆薬が仕込まれてる可能性がある!」


「あぁもうさっきからうるさかったのあんたらか! 聞こえてるけど今それどころじゃないよ!」


 エリンジが咄嗟にクロノに向かって叫んだが、一応こちらに顔を向けて返答はあったものの止まりもせず飛び伝い続けていく。


 先を行くカイムの方が早すぎて、クロノでも追いつけない様子だった。

 魔法が使えないクロノには追いつけなければ止める手段がないのだろう。


 物凄い勢いで町の外からこちらに向かってくるカイムに、ルドー達は進路を変えようと足を止めて攻撃しようとしたが、髪の毛を伸ばしてまるでターザンのようにあちこち飛び移って動いているカイムは、動きが読めなくて逆に当たりそうで威嚇が出来ない。


「人狩りの連中にいい様に利用されて良い訳!? 同胞たちが危険に晒されるんだよ! いい加減止まって!」


「うるせぇっつってんだろ!」


 攻撃を躊躇して迷っていたルドー達に届くクロノの叫ぶ言葉、人狩り。

 そして脳裏をよぎるあのカプセル。


 ルドー達は魔人族が何に脅かされているのか理解し始めた。

 返せと言ったカイムの言葉をルドーはようやく飲み込む。


 恐ろしい速さで飛び伝っているカイムの顔は怒りで歯を食いしばり大きく歪んでいた。

 逆の立場だったらルドーは止まれるだろうか、怒りに我を忘れることを自制できるだろうか。

 クロノはテロの件も伝わっていたようで、必死に叫んでカイムを止めようとしている。


「カプセルに近付いて罠だったら中の子も助からないよ! 助かる方法を考えて! 一旦止まって!」


「だからうるせぇんだよ!」


 カイムがクロノの方を向かずに髪が伸び、クロノは一旦引き返すように後ろに飛び上がってそれを躱したが、外れた髪が建物に当たって瓦礫がルドー達に降り注いだ。

 ルドーはすぐさま聖剣(レギア)を振って雷魔法を放出し、エリンジも虹魔法で瓦礫を狙い、大きめの瓦礫を砕いて粉々にする。パラパラとレンガの破片が舞った。


 その隙にカイムは物凄い勢いでルドー達の上を通り過ぎ、攻撃を回避して距離が開いたクロノも間もなく止めようとカイムの名を叫びながら追うように跳び過ぎていった。


『ありゃダメだ、怒りで暴走してんぞ。止めようがねぇ』


「威嚇もしようがねぇ、万一攻撃して止めようにもあれじゃ町中で暴れかねねぇし、どうするエリンジ」


「カプセルだ。あれをどうにかするしかない」


 瓦礫で一瞬止まったものの、そのまま真上を通り過ぎていったカイムたちに進まれるのは不味いので後ろから追いかける形でまたルドー達は走り出す。


「カプセルを移動させてテロを防ぐ方針だな、どうやって移動させる?」


「追い抜かれた上あそこまで早いと接触は避けられん。こうなるともう一か八かだ、爆発ごと転移魔法で町の外に飛ばす」


「……間に合わないから爆発は避けられない?」


「もう止められん以上議員を守るしかない」


『ほんと胸糞わりぃ選択肢しかねぇもんだな』


 今の状況での一番の最悪は、カイムがカプセルに接触してテロが実行され、戦争が起きる事だ。

 それを阻止するには、議員の方を守るしかない。

 遥か先を行くカイムのあの速さでは接触は止められない。


 カイムが接触してカプセルが爆発したら、きっと中の人は。


「……俺もリリも転移魔法は使えねぇ、いけるかエリンジ」


「当然だと言いたいが、あの速さではギリギリだろう」


「あの飛んでる髪の人を転移魔法で町の外に出せないの?」


「早い上に動きが読めん、流石に無理だ」


「でもカプセルに向かう直前なら?」


 リリアの言葉にエリンジもルドーも驚いて走りながら顔を見合わせる。


「カプセルに向かうなら動きも読めるな、カプセルごとあいつも町の外に出せば接触も防げるし爆破も防げるか?」


「転移の影響で接触はしないはずだ。先程より難易度は上がるが、やる価値はある」


『いいねぇ、若者はギリギリを生きてこそだぜ』


 罠が作動しなければ、きっとカプセルの中身も無事だ。それならまだやりようがある。


「見えた! あそこ!」


 そう言ってリリアが指し示した先は、町中の馬車通り沿いの河に泊まっている人が数人乗れそうなほどの小さい船の上だった。

 大きめの積荷が布を掛けられて積まれているそれは、ちょうどあのカプセルが一つ入るほどの大きさだった。


 そこへパカパカと音がして、ちょうど馬車が通りかかろうとしている所だった。

 カイムも近付いてこれでは馬車まで巻き込まれかねない。


「すみません! この国の勇者、ヘルシュ・オクロッカです! 近くにきたら議員さんが来てるって聞いて挨拶をと思いまして!」


 そう言って別行動をとっていたヘルシュが馬車の前に躍り出て、突然の乱入に馬がいなないて足を上げて止まる。

 ぺこぺことヘルシュが頭を下げ、快く馬車から降りてきた議員。

 ヘルシュを筆頭にアリア、カゲツ、ニン先生でなんとか話で足止めしている様子だった。


「ふん、良い働きだ。見直してやる」


「もうちょい素直に褒めてやれって!」


「でもこれで馬車とは距離が開いたまま! いけるよお兄ちゃん!」


「頼んだエリンジ!」


 カイムはもう船の目前にまで迫っていた。


 エリンジが集中するように手を伸ばすと、船の周囲の空間が歪む。

 カイムが驚いた顔でそれを見つめ、必死に手を伸ばしている様子が見えた。


「カイム!」


 突然クロノがカイムを止めるように回り込んで飛び込んできた。エリンジが驚いて目を見開く。


 空間がグニャリと歪む。

 バシュンと大きな音がして船ごと空間を切り取るようにカイムとクロノも消える。


 ルドーとエリンジとリリアも同時のこの町から消えた。


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