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第四十六話 仕掛けられた火蓋

 巨大な鳥が突っ込んでキャラバンをひっくり返したと思ったら、その鳥から狼男のボンブとアシュで見かけた長身の狐目白髪男が鳥から降りてきたのが遠目でも見えた。

 ルドーとエリンジが反射的に走り出し、ニン先生が一声上げて止めるが、既に走り出した二人は止まらなかった。


「いや待ちなさいって! あぁもう君たちはこっちで警戒待機! 通信魔法使える子はエレイーネーに連絡お願いできるかな!」


「えっあっはい!」


 二人の後を追うようにニン先生も走り出す中、リリアが慌ててエレイーネーに通信魔法で連絡を取る。

 ルドー達が全力で走り寄る中、ボンブと白髪狐目長身男は最初に突っ込んだキャラバンには目もくれず、残りの二つのキャラバンに一人ずつ駆け寄って突っ込んでいったかと思ったら、あっという間にキャラバンを粉々に砕いて、中に乗っていた人が数人吹っ飛ばされているのが見える。

 しかし思ったような成果がなかったのか、慌てる様な表情で二人ともキャラバンの残骸から出てきて大声をあげていた。


「ダメだアーゲスト! こっちは囮だ!」


「やたら目立つと思ったらやっぱりか。となると二人が一応行ってる町の方か、カイムが不味いな。合流する、急ぐぞボンブ!」


 ルドー達三人がキャラバンに追いつくよりも先に、長身男の背後から魔法による大型の鳥が出現し、二人はあっという間に乗り込んで飛び去ってしまう。

 エリンジが追撃しようと虹魔法を連打したが、まるで枯れ葉が舞うようにひらひらとかわされてあっという間に見えなくなった。


「何が起こってんだよ……」


「とりあえず怪我人の救助だ」


 荷馬車ごとひっくり返されて、破壊されてバラバラになったキャラバンの周辺に倒れた人たちにすぐに回復魔法をかけるエリンジと、後ろから物凄い勢いで走ってきたリリアが即座に回復魔法をかけていく。

 オリーブたちも心配そうな顔でこちらに追いついてきた。

 アリアとヘルシュは後ろの方で怯えているのか座り込んで抱き合っていて、おろおろしたイスレさんが様子を見ている。


「怪我は大したことなさそう。みんな一撃でのされちゃってる感じ」


 リリアがそれぞれ気絶しているキャラバンの人の様子をみて行く中、カゲツが目的は何だったかとキャラバンの残骸を見渡すが、訳が分からないといった様子で狼狽えていた。


「あややや、屋根張ってた割りに中身空っぽでなにもないですよ! 人も最低限しかいない……」


「なんか囮とか聞こえたな。なんの囮だ?」


「……ちょっとこれまずいわ。先生こっち見てくれへん?」


 オリーブが何かに気付いたようにニン先生を呼ぶ。

 ルドー達も何か手掛かりでもあったかとそちらの方に顔を向けた。


「商会の紋だよね、エルムルス商会のやつだと思うけどどうした?」


「よぅ似とるけど微妙に違うわこれ。偽装して作られてる」


 そう言ってオリーブが指し示した残骸の一部に貼られていた木製の紋だが、ルドーにはなにがどう違うのかよくわからなかった。


「あややや! 確かにこの部分に要らない装飾ついてます! 効率重視のエルムルス商会は紋の製造も効率化してるからこんな面倒な所に面倒な物つけませんや!」


 商会に詳しいだろうカゲツがそういった場所に、確かに金色の塗装装飾が付いていた。

 それっぽい見た目になって品があるが、本物にはこれがない殺風景な紋をしているという事なのだろうか。


「つまり誰かがエルムルス商会に成りすまして動いて、それを魔人族が追ってるってことか、なんでまたそんな……ってエリンジ?」


 ルドーもリリアの回復魔法の合間に商会の紋を見ていたら、回復をリリアに任せたエリンジが荒い足取りでヘルシュとアリアの方に向かって歩く、かと思ったら徐に座り込んでいた二人の襟首を掴んで、唐突に砂利道に向かって放り投げた。

 上がる悲鳴に思わず呆気にとられる。


「走れ! 次の町に案内するんだ!」


 そのまま虹魔法で追撃して、悲鳴を上げたアリアとヘルシュは言われるがまま走り出す。

 さらに振り返ったエリンジはこちらに向かっても虹魔法を次々射出し、残骸の近くにいたカゲツの背後を的確に狙って追い立て、こちらも虹魔法から逃げるように悲鳴をあげて走り出した。

 カゲツの近くにいたサンザカがオリーブに攻撃が当たらない様に剣を構えて後ろに強引に下がらせていた。

 そのまま三人を追い立てるように虹魔法を放ちながら走り始めたエリンジに、ルドーは困惑しながらもなんとか追いかけて走り出せば、回復を終えたリリアも追いかけてくる。


「学生でももう資格は持っているだろ! さっさと動け!」


「おい! おいエリンジどうした!」


『とうとうトチ狂っちまったか!』


「お兄ちゃん!」


「ちょっと君たち! あぁもう、イスレさん二人お願いします!」


 走り去っていくルドー達を見て、ニン先生もイスレにオリーブとサンザカを任せて慌てて追いかけてくる。

 残された三人は訳が分からずただそれを呆然と見つめていた。

 虹魔法から逃げ惑うヘルシュ達にさらに追い打ちをかけて走らせているエリンジに追いついてルドーはそのまま叫びかける。


「エリンジ! なんだってんだよおい!」


「魔人族は今まで何をしてきた!」


「えっと、魔道具施設の破壊か!?」


「そうだ、施設の破壊だ! つまりテロ行為だ!」


「何が言いてぇんだよ!」


「これだけ戦争準備がされている場所でテロ行為が起きてみろ! 引き金になって戦争が始まる!」


 悲鳴を上げながら虹魔法から逃げていた前方の三人が急に静かになる。

 そのまま大人しく走り始めたのを見てエリンジはようやく虹魔法を使うのをやめた。


「ヘルシュ! 今回はお前が一番必要だ!」


「えっ僕!? なんで僕!?」


「この国の勇者はお前だろ! 今一番戦争阻止しなければならないのはお前だ!」


「うええええええええ!?」


 走りながら驚愕した大声がヘルシュからあがる中、アリアから非難めいた大声もあがる。


「わ、私たちは関係ないじゃない! それに魔物相手じゃないのに戦えないわよ!」


「今から行くまでに戦えるようにしろ! でなければ俺が倒して捨て置いてやる!」


「滅茶苦茶ですやこの人!!!」


 怒気と共に虹魔法が再開されてまた逃げるように走るヘルシュ達三人。

 有無を言わさず従えと言わんばかりの怒気に、横で一緒に走っているルドーとリリアも困惑するばかりだ。

 ルドー達が走っているとニン先生も追いついてきた。


「君たちまさか魔人族を追う気か!? 一旦戻って連絡を取ったほうがいい!」


「それでは遅い! 先生が今連絡を取ってくれ!」


「わかったよ連絡入れるから! しかし今向かってるのはグルアテリアの町だ! そこが狙われたとして戦争になるのか!?」


「魔人族が囮と言っていた、つまり自主的に動いていない! 先程の荷馬車と言いこの状況を仕組んでいる連中がいるはずだ! そうなるとこの先の町に魔人族をおびき出しているなら何かあるはずだ!」


「……あっ、そういえば、ランタルテリアの、戦争反対派貴族の首都訪問、日程的に、検問所通ってちょうど、今向かってる町に……」


 ヘルシュが走りながら息継ぎの合間に呟く。

 全力の走りとエリンジへの恐怖で顔が赤と青が混ざり変な顔色をしていた。


「絶対それじゃないの!」


「本格的に不味いやつですや!」


 一拍置いて叫ぶように答えたアリアとカゲツも流石に息があがっているが、状況を理解し始めてもう抵抗する気もないようだ。


 戦争反対派の貴族をグルアテリアのテロで殺せば、それだけでランタルテリア側に協定外の戦争の理由が出来る。

 さらに魔道具施設破壊の魔人族とグルアテリアが組んだと言えば、被害があった周辺国も戦争を止めるのを足踏みする可能性がある。

 邪魔な貴族もいなくなって一石三鳥という事だろうか。


「わかったか! 防ぐには人手がいる! お前たちも働け!」


『それで全員引っ張り出したわけだな!』


「理由は分かったけどこっからどうすんだよ!」


 たまたま居合わせただけで即座に分かったとはいえ、想定以上に逼迫している状況。

 ニン先生もそれが分かったのかエレイーネー本校と大慌てで通信連絡している。

 テロの阻止、それは必須条件だがその方法が分からないルドーは叫ぶようにエリンジに問いかけた。


「この人数でも出来ることは限られる。半数は魔人族を引き付けて対処、半分は仕組んだ連中を探してテロの発生阻止だ! リリア、クロノに通信魔法使え」


「えっ!?」


 走りながら指示を出すエリンジの最後の言葉にルドーとリリアは驚愕する。

 確かにボンブ達が二人と言っていたのをルドーも聞いたが、クロノが来ているとは限らない。


「万が一だ。俺の通信魔法はおおよそ拒絶される」


 悔しそうに言うエリンジだが、こちらから魔人族に状況を伝えられるとしたらそれしか手段がない。

 カイムの返せと唸った声がルドーの頭にちらつく。

 自主的に動いてないのなら、先程エリンジが言っていた組織とやらに誘導されて状況を分かっていない可能性がある。

 知らぬ悪意を押し付けられそうになっているなら止めたほうがいい。


「く、クロノさん! 聞いて! このままだと魔人族が戦争に利用されるかも……」


 リリアが通信魔法を使っているのか、頭が回らずそのまま全部口に出している。

 同じ文言を何度も何度も叫んでいたが、悔しそうに下を向いた。


「……ダメ、反応がない」


『あいつ魔法使えないんだろ、返事できないだけで聞いてるかもだぜ』


「今はそれに賭けるしかねぇか。テロが起こるならさっき言ってた貴族の近くか、ヘルシュそっち向かえ!」


「わ、わかったよ! 顔も効くだろうしやるだけやってやる!」


「た、戦えないから私もそっち行くわ!」


「あいや! 不安なので私もそっち行くですや!」


 ヘルシュがようやく覚悟を決めたように歯を食いしばりながら叫び、アリアとカゲツも追従して離れていく。

 砂利道を急ぎ走っていると、リリアが何かに気が付いたように顔を上げてこちらを向いた。


「お兄ちゃん!」


「なんだ、まさか返事来たのか!?」


「それはダメ、でも思ったの! 魔人族を誘い出すならどういう方法使うかって! それで試してみたら、また感じた!」


「感じたって……」


「アシュの時と同じ! きっとあのカプセルの人、この先の町にいる!」


 ルドーとエリンジは走りながら驚愕に目を見開く。

 アシュの時、リリアは回復魔法の影響か、傷付いたカプセルの中の人たちを言い当てた。

 あの時と同じなら、あのカプセルもこの先の町にある。

 走り続けるルドー達の前に、小さな町が見えてきていた。


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