第二十一話 遺跡探索と新たなチーム
今回依頼があって調査する遺跡が、大陸中央を覆う中央魔森林の中という事で、現地に近い転移門からの移動となっていた。
転移門の先、シマス国の現地にて、依頼された案内人が遺跡まで案内し、緊急時には生徒を逃がす予定とのことだ。
ネルテ先生先導の元、シマス国辺境の、小さな村外れの転移門から、中央魔森林の中に入っていく。
森の入口は相変わらず、瘴気が薄ら漂っており、鬱蒼とした森が進むほどに深くなっていく。
時折現れる小規模魔物を、戦闘のできるルドーとエリンジを筆頭に潰しながら、リリアも結界魔法で集団を覆うようにして、安全地帯を確保しながら移動していく。
手を払うような仕草で、ネルテ先生は戦闘できない生徒に近付く魔物から、緑色の魔法の掌で叩き払って霧散させていた。
しばらくすると、指定された場所に付いたのか、鬱蒼とした森の中、小さな緑色の塊のようなものをルドーは目にする。
よくよく見ればそれは苔と蔦に覆われた、小さな石造りの入口の様だった。
相当古いものなのか、蔦の下にある石も古ぼけて所々崩れている。
既に調査された影響か。
入口の扉周辺の蔓は切り落された形跡があり、無理やりにでもこじ開けたのか、石の扉は手前に横に倒されて、中は下に続く階段が見て取れる。
入り口の扉の中を覗き込むように観察していた男性が、話に聞いていた案内人だろうか。
ネルテ先生が明るく声を掛けると、気付いたように振り向く。
おかっぱ頭に聖職者の服装。
案内人は、あの魔人族の狼男事件の時に、ルドー達が会ったイスレ神父だった。
確かあの時の課外補習は、今回のシマス国とは別だったはずだが、なぜここにイスレ神父がいるのだろうか。
ルドーとリリアは顔を見合わせて不思議そうな顔をしたが、イスレ神父もこちらに気付いたようで、ニッコリと微笑んでいる。
周辺の安全を確保するために、結界魔法を大きくかけ、ネルテ先生の横に立って紹介を受けていたので、ルドーもリリアもイスレ神父に直接話を聞くことは難しかった。
丁寧にお辞儀をした後に改めて名を名乗り、ニッコリと微笑むと女子からほぅっとため息が漏れる。
「今回は前回の補習の時とは、また別のペアと組んでもらうよ。毎回同じペアとチームを組んでるんじゃ、訓練にならないからね」
遺跡の前でネルテ先生が開口一番に言うと、一同は動揺して騒めいた。
最近は一部を除いて、最初のチームで行動していることが多かったためだ。
しかしいろんな人間と依頼を受ける魔導士の関係上、同じ相手とばかり連携してはいられない。
パートナーとは魔力伝達を学ぶために変わらないが、チーム自体は必ずしも固定ではない。
当然と言えば当然の話だ。
「またこっちでチームは決めていいんですか?」
「いや、今回は連絡を取るために、各チームに一人通信魔法が使える人物を入れるから、こちらで決めさせてもらったよ」
トラストがまた手をあげて質問すると、そういってネルテ先生がチーム分けを発表していく。
トラストのパートナーが、授業初日に平民を蔑んでいた、あのハイドランジア嬢とかいう貴族女性だった。
通りで入学式の郊外講習の際、トラストは一人放置されていたとルドーは合点がいく。
ナルシストとハイハイ肯定男とのチームにされて、トラストは可哀想に絶望顔になっていた。
エリンジはパートナーのクロノが行方不明で不在の為、ネルテ先生と組み、メロンとたまに見かけていた、ごわごわの灰色猫毛の幸薄そうな少女と一緒だ。
アルスとキシアのパートナーは、入学式で蔦を使っていたあの小さい女子と、話したこともないグルグルメガネの、魔法薬を使う黄色髪の男子とチームだ。
となると、ルドーとリリアがチームを組む相手はというと。
発表されていくチームに、ルドーとリリアが揃ってどんどん顔色を曇らせていく。
「ふん、精々私を守りなさいね?」
「いいか、俺より目立つんじゃないぞ」
先日ネルテ先生からの説教で、しっぽりとしていた様子はどこへやら。
ふんぞり返った様子のフランゲルと例の自傷聖女に、ルドーはがっくりと肩を落とした。
「……ちなみにお前ら通信魔法は?」
「は? そんなの私の仕事じゃないわ」
「基本部下がやることだろう!」
ダメだこいつら。
この間のあれだけネルテ先生に言われたはずなのに、反省もなく堂々と出来ないことを宣言している。
となるとこのチームの通信役は、魔法を習得したリリアという事になるだろう。
ルドーには通信魔法が使えない理由がある。
「えーっと、改めて自己紹介するね。私はリリア、こっちは双子の兄のルドーだよ」
「ちょっとそこのあなた!」
とりあえず場を和ませようと、リリアが和やかに自己紹介を始めた。
だが突然自称聖女の方が金切り声を上げた。
自己紹介まで中断させて、なんだこいつとルドーは顔を顰めた。
「あなたのせいでこっちは大迷惑なのよ! 何がリリアよ、私の名前とそっくりなんて! 今すぐ別の名前に変えなさいよ!」
「えーっと……ちなみにお名前は?」
「アリア・バハマよ! あなたのせいで何度勘違いされたと思ってるの!?“あ、例の双子の聖女の方! え、違う?”って何度言われたことか! 同じ聖女なのも気に食わないのよ、ふざけんじゃないわ!」
アリア・バハマ、それがこの自称聖女の名前のようだ。
リリアとアリア、なるほど確かによく似ている。
おまけに彼女も聖女だから、色々と間違われて不快な思いをしていたらしい。
だからといって、リリアの名前を変えろというのは大分理不尽である。
それにそれ相応の実力を持てば、そっちの方が名声は上がるので、結局のところ努力次第だ。
入学してから、ずっとその努力を怠ってきたのはアリアの方なので、自業自得だろう。
ルドーは手助けがいるか、どう切り返すのかとリリアを見ると、危険信号を感じて無意識に後ろにずさっと引き下がった。
「私の名前はお母さんが付けてくれた大切なものだから、変えるつもりは微塵もないね」
ニッコリ笑いながらも、強い口調でリリアが断言した。
芯が強い、というより結構頑固なので、こうなると絶対に曲げないことをルドーは知っている。
一度こうと決めると頑として動かないのだ。
今回は亡き親に決めてもらった名前の事なので、当然と言えば当然の反応ではある。
しかし定期的にぶっ叩かれてるのも、ルドーの身を案じての事だと分かっているし、危険だから下がってろと言っても、リリアが納得しなければ絶対に下がらない。
普段大人しいが、リリアは琴線に触れると梃子でも動かない。
怒らせると怖いのだ。
最初のおどおどした様子から侮っていたのか、思ったより強い口調での反撃をくらって、アリアは固まる。
普段文句ばかりだが、反論には弱い様子だ。
「はいはいおしゃべりもそこまで!」
新しいチーム分けに、それぞれが改めて自己紹介していたが、ネルテ先生の号令に一斉に前を向いた。
「一度中を調査されてるとはいっても、探索漏れた未知の部分もあるかもしれない。瘴気もあるから、新たに魔物が湧いてるかもね。常に四人のチームで固まって行動すること。定期的に通信魔法で、私とイスレさんに連絡を取ること。問題が発生した場合は速やかに報告して、場合によっては早期脱出を図りなさい。無理そうなら救出要請を出すんだよ、はい復唱!」
ネルテ先生の合図に、ぼそぼそと皆が復唱を始めたが、声が小さいと何回かやり直しをされる。
その様子はさながら軍事訓練のようだ。
やる気のないフランゲル達のせいで、ルドー達はさらに無駄に復唱させられた気がした。
「私は出入り口を確保するために、入口に残ります。しかし何かあれば救助に向かうので、気軽にご連絡くださいね」
イスレが手を上げて微笑みながら告げると、女子数人からまた溜息が漏れた。
顔は比較的普通だが、微笑みなれているせいか、笑顔が強力な武器になっている。
隣にいるリリアはあまり効いてない様子だが、アリアからは黄色い悲鳴があがった。
ネルテ先生に指示されて、チームが順番で中に入っていく。
ルドー達の順番も来たので、下に続く石階段をコツコツと響く足音を立てて四人が下る。
どれほど続いているかわからない階段も、外から侵入したのか、あちこちが苔むして蔓まみれだった。
下に進めば進むほど、じっとりと肌に纏わりつくような、ひんやりと嫌な感じの空気が漂っている。
既に調査が入っていると聞いていたが、やはりこれはまだ瘴気がありそうだ。
『ルドー、あいつうぜぇし、今のうちに痺れさせとくか?』
「でかい荷物になるだけだからいやだ」
ルドーは魔物が出る可能性も考慮して、慎重に進もうとしていた。
だがそんなことはお構いなしと、ズンズンと大足で先を進んでいくフランゲルとアリアを見ながら、バチッと提案してきた聖剣に冷静に返す。
じめじめとした遺跡内は、苔が中にも広がっており、水滴が滴って滑りやすい状態になっている。
フランゲル達は特に目星も付けていなければ、探索系統の魔法を使っている様子も見えないが、どこに行くつもりだろうか。
ルドーが何度か止めようと声を掛けたがそれも聞かず、どんどん先に進んでいくので、ルドーもリリアもなすすべがなくついていくしかない。
ただリリアが名前の一件から機嫌を損ねたのだろう、終始ニコニコずっと笑っていた。
こういう時は危険だから、リリアの機嫌が直るまで、ルドーは触らず放置するに限る。
「こういう遺跡は、最奥にお宝が眠っていると相場が決まっているのだ! それを見つけることで、一番の功績者となる!」
「伝説のアクセサリーがあれば、私が身に着けてもいいわね」
「遺跡内の物品は持ち帰り禁止だぞ。話聞いてなかったのか」
「あらやだ、そうだったかしら? でも私が持ってこそ価値があるものよ」
話しぶりから、フランゲル達はどうやら最奥を目指しているらしい。
一番の発見をして、今日までの挽回を図るつもりだろうか。
フランゲルは一応、ネルテ先生の叱責は気にしていたようだ。
アリアに至っては宝石目当てだ。
俗物的な動きに、こいつは本当に聖女なのかとルドーは疑いたくなる。
大きく肩を落として溜息を吐きながら、ルドーはさらに続けた。
「どっちにしろ一度調査が入ってるんだから、そういうのは残ってないだろ」
「ふん、国の魔導士程度が隅から隅まで調べるか! きっと取りこぼしがあるに違いない!」
「そうそう、私たちと違ってね」
言っても聞かない二人は、謎の自信に満ち溢れている。
どこからその自信は来るのだろうか。
それにしても真直ぐ奥に進んでいるが、下に続く階段からは既に遠い。
入口の灯りが遠くなってきて、どんどん暗くなってきている。
使われていなかった遺跡なので、調査が入っていたとしても、中の灯りは期待できないはずだ。
他の生徒もここまで来る間に、見かけた枝分かれした通路を別々に進んでいったのか。
それともルドー達と違って、慎重に探索魔法でも使って調べながら進んでいるのか。
ルドーが振り返っても、他の生徒は既に見る影もない。
フランゲルがズンズンと進んでいったので、ルドー達が正面の一番奥にいるのは確かだと思うが。
「お兄ちゃん」
「ん? あぁなるほど、助かるリリ」
いつの間に作ったのだろうか、リリアが松明を用意して渡してきた。
聖剣の雷を着火剤にして、火を付けて周囲を照らす。
そんなルドー達を気に掛けるわけもなく、ズンズン先を進んでいくフランゲルにアリア。
あんなに先を進んでは見えないのでは。
そう思って滑りやすい足場に注意しながら、ルドーはリリアと二人で慌てて追いかける。
しかししばらくすると、アリアが松明とは別の、灯りを持っていることにルドーは気が付いた。
「なんだそれ?」
「あら。光魔法よ、はじめて?」
アリアは手の中に納まるくらいの球体を灯していた。
ルドーが転生前の昔に見た、電球のように白く眩しい。
アリアの傍にいるフランゲルにも周囲が見えるほど、明るく周囲を照らしていた。
不思議と周囲の瘴気も少し薄くなっている気がする。
松明を持って追いついたルドー達は、驚いたようにそれを見つめた。
「私の聖女としての力は、瘴気を払う光魔法! この程度出来て当然よ」
「へぇ、じゃあやっぱり聖女だったんだ」
「私をなんだと思ってるのよ!」
「いや、純粋に見直しただけだけど」
ルドーの付け足しに、一瞬面食らった後、アリアは得意げな表情を浮かべた。
「あら、ルート解放したかしら。仲良くしてあげてもいいわよ」
『あんま調子に乗らせない方が身のためだぜ』
後ろからリリアの圧を感じたのか、聖剣が身震いするようにパチパチピリつく。
たまにあるそれに慣れているルドーは、一応琴線がわかっているので無視を貫いた。




