第十話 決定的な亀裂
静かな教室にカリカリと、鉛筆で文字を書く音だけが響く。
不意に何かに気づいたメロンが顔を上げ、周囲をきょろきょろと見渡して声を上げた。
「あれ、せんせー」
「なぁにー?」
「そういえば帽子の子、戻ってきてなくないですかー?」
メロンが不思議そうに呟く。
言われた周囲も気付いたように、顔をあげてきょろきょろと教室を見渡しはじめる。
クロノは基礎訓練を一人真っ先に終わらせた。
それからは移動するでもなく全員が訓練する様子を観察し、一通り終わった後、先に教室に向かったはず。
それなのに、クロノはルドーたちが教室にたどり着いた時点でいなかった気がする。
ルドーはくたくたになった身体を引きずってきたので、授業開始時間ギリギリだった。
その為ルドーより後から来た生徒もいなかったはずだ。
先に移動していたはずなのに、クロノは教室にも現れず、一体どこで何をしているのだろうか。
「んー? ありゃ? ほほう、初日からサボりですか」
ネルテ先生が指摘されてバインダーに視線を移し、一瞬スッと目を据わらせた。
座学の点呼も特になかったが、あのバインダーで出席確認は既に取られていたようだ。
ルドーは一瞬、クロノもエリンジのように座学を先に終わらせ、無言で立ち去ったのかとも考えた。
だがネルテ先生の反応から、どうやらクロノは最初から座学の為の教室に来ていなかったらしい。
「あいつが教室に一人居座ってたから、戻るに戻れなかったんじゃあ……」
教室が小さくざわつく中、ルドーがポツリと意見を口にする。
ルドーたちが戻ってきた時点で、教室にはエリンジが一人で既に席に鎮座していた。
校庭での騒ぎを知っていたルドーは、面倒事は避けそうなクロノの様子から、エリンジを避けたのではと推測したのだ。
理由もよくわからないまま、クロノはエリンジに激しく突っかかられていた。
昨日の今日でエリンジが一人でいたので、クロノもトラブルは御免だと、教室を避けてしまったのかもしれない。
「あぁー、それもあるかなぁ。うーん……あれ? 位置情報探索出来ない……」
ポリポリと頭をかきながら、バインダーをとんとん指で叩いていたネルテ先生が、ボソッと呟く。
流石にネルテ先生も、昨日の喧騒に頭を悩ませているようだ。
どうやらあのバインダーは魔道具になっていて、生徒の出席や現在地が分かる優れ物らしい。
だがネルテ先生の発言から、魔道具のバインダーに、クロノの居場所が示されていないようだ。
「まぁ、学内にはいるっぽいな。学習本も渡してるから、大丈夫大丈夫」
ひらひらと手を振りながら、ネルテ先生は笑って告げる。
学内の別の場所で、学習本を使って座学をやっている分には、問題ないという。
元々外部依頼でエレイーネーから外に出ても、勉強が出来るようにと設計されているものだ。
勉強出来ているなら、場所は細かく問わないのだろう。
「ほらほら、授業中だよ。わかったら集中しなさい」
ネルテ先生に言われて、何人か顔を見合わせた後、学習本に視線を下に落とした。
ルドーも周囲に倣い、同じように机に向かって、学習本に視線を移す。
ページの上に並ぶ文字の羅列。
ルドーの目に見たこともない言語が並んでいるが、これはこの世界の公用語だ。
中央魔森林の瘴気と魔物に日夜脅かされる世界。
それぞれの国で言葉が違えば、緊急時の連携が取りにくい。
魔物暴走の脅威が顕著になってきた時代、そういう理由で世界言語が統一された。
必要に迫られてやむを得ずといった形。
言語統合の為の各国の妥協点を探し、当時はかなり四苦八苦した。
結果多少地域訛りは残っているものの、世界は同じ言葉と文字でやり取りしている。
学習本に並んだ文字の羅列を見て、ルドーは頭がおかしくなりそうだった。
だがじっとしていても仕方ない。
頭を抱えて唸りながら、黙々と書き取りから始めることにした。
◇
「お兄ちゃん。言われてた文字の勉強、やっぱりサボってたんだね」
ジト目で口を尖らせたリリアからの追及を、ルドーは顔を逸らして躱した。
文字と格闘し続けた座学の授業。
頭がガンガン鳴り、癖毛の黒髪をガシガシと掻き毟りながら、ルドーはなんとか書き取りをキリのいいところまで終わらせた。
座学間での昼食をとるタイミングは各自自由。
学習本からルドーが顔を上げた頃には、もう昼をとっくに過ぎていた。
慌てて食堂に行き、ルドーが料理のトレーを適当に選んでいると、テーブルで食後の一息と談笑していたリリアから小言を言われたのだ。
「うるさいな、てかなんでリリは文字読めるんだよ」
「私は家にあった本読んでたもん」
愚痴をこぼすようにしながら隣に座ったルドーに、リリアはまた口を尖らせる。
言われてルドーが思い返せば、確かにリリアはニヤニヤしながら、ゲッシ村の小さな家の本棚にあった本を読み耽っていた。
「あぁ、なんか恋愛小説とか色々言ってた……」
ルドーが恋愛小説とこぼした瞬間、顔を真っ赤にしたリリアにパアンとひっぱたかれた。
解せぬ。
『あぁー? つまんねぇ授業の方は終わったのかぁー?』
欠伸をするようにパチパチ弾けながら、聖剣の声がルドーの頭に響く。
ちなみに聖剣は勉強にはまるで興味がないので、座学中はずっといびきをかいて寝ていた。
おしゃべりで邪魔されない分マシなので、ルドーもそのまま寝かせて放置していたのだ。
更なる平手打ちの回避と、目下の問題に取り掛かろうと、ルドーは話題を逸らす。
「ところで、なんでそいつが仲良さそうにリリの隣座ってんだ?」
「うえっ!?」
ルドーが指差した相手が、あからさまに動揺の声をあげて固まった。
リリアの反対隣りに座っていたのは、昨日医務室でリリアに惚れたメガネ男子だ。
ルドーがジトリと三白眼で睨みを利かせると、慌てた様子で両手をばたばた動かし始める。
「お兄ちゃん、そいつじゃなくてトラストくんだよ」
メガネ男子があわあわとなんとか言い訳を口にしようとしたら、リリアが間に割って入ってきた。
「トラストくん、エリンジくんの次に座学終わらせたんだよ! だからちょっと話聞いてみようと思ったら、凄い博識でね」
両手を叩いた後、少し興奮気味なリリアがルドーの肩を叩く。
どうやらメガネ男子、もといトラストは、自分から近付いた訳ではなく、どちらかというとリリアの方から歩み寄ったらしい。
リリアの方は完全に他意がない顔で、純粋な学習意欲で話している感じだ。
リリアに褒められたためか、赤い顔で頭をかきながらなにやらもじもじとしているトラストに、ルドーは少し感心する。
まさかエリンジの次に座学を終わらせるほど、トラストが勉学に強いとは。
「へぇー、集中してて気付かなかったな」
「あ、あはは……役職の影響でいろんなものが見えるもので、気になって色々調べてるうちに、詳しくなっただけで……」
ルドーの純粋な賞賛を、トラストは謙遜で返した。
トラストが昨日医務室で話していた、観測者という役職。
なんでも情報収集に使う、解析魔法に特化した役職だとか。
観測者を持つトラストは、情報に触れる機会が常人より多く、興味を持つ度調べていた。
結果、トラストは入試試験トップのエリンジに次ぐ博識となっていたのだ。
「そういう訳で、勉強を教えて欲しいなって。今トラストくんに頼んでたの」
「あぁ、そういう」
両手を合わせたリリアの話に、ルドーは納得して頷いた。
学習本があったとしても、片田舎出身のリリアとルドーでは、知っている知識に差があり過ぎる。
座学の授業ではネルテ先生に質問すればいいが、教室では先生にずっと手を煩わせることも難しい。
だからリリアは、自主的に勉強しようとしていたのだ。
「おー、そういう話なら参加したいなぁ」
「何々、何の話ー?」
ルドーたちの話を聞いていた連中が、ぞろぞろとテーブルに集まり連なってくる。
「あ、俺はアルスね。孤児院出身だから、勉強ちょっと不安なんだよな」
「私は今まで好きなことしか勉強してこなかったから、他分野がてんでだめなんだよね」
軽く手を挙げた薄桃髪の男子アルスと、メロンも参加を希望してきた。
アルスとメロンがそれぞれ懸念点を伝えてくる。
リリアに他意はないとしても、トラストはリリアに惚れてしまっているのだ。
二人きりでの勉強など、ルドーにとってはとんでもない。
複数人数での参加の方が、トラストとリリア二人きりでの勉強会より、ルドーには安心感がある。
これ幸いと、ルドーもアルスとメロンの話に乗っかることにした。
「俺も農村出身で、勉強はからきしだからな。一緒に教えて欲しいもんだ」
『えぇ、また勉強かよ。そろそろ暴れようぜ?』
ルドーの提案に、聖剣がルドーの頭の中で不満を漏らす。
だがリリアとトラストを二人きりにすれば、リリアに惚れているトラストが何を仕出かすか分からない。
まだトラストが信用に値する相手かどうか、ルドーは見極められていないのだ。
ルドーが見る限り、トラストはどうもリリアと二人きりになることまでは考えていなかったようだ。
突然の勉強会指名に、ただわたわたしているだけだった。
この様子なら、リリアをつけ回したり怪しい手紙を送ってきたりと、変な方向には行きにくそうだ。
ゲッシ村の若男衆からリリアへの反応を思い出しつつ、ルドーは少し安心する。
「集まって勉強会だなんて、庶民はやはりレベルが低いですね。なぜこんな人たちと一緒に勉強しないといけないのかしら」
紺色の長髪、明らかに貴族然とした動きの女子が、扇子を広げて口を隠しながら不快気に呟く。
たしかこいつは昨日の戦闘で、いの一番に結界に入ってきて、日傘をさしていたやつだったような。
トゲトゲした言い方と、庶民を蔑むような言葉。
ルドーたちは思わず、気まずくなって顔を見合わせる。
生活環境で仕方ない部分もあるが、勉強が足りてないのは事実。
テーブル周辺が、何とも言えない後ろめたい空気になった。
「あら、ハイドランジア嬢。私トラストさんの斜め後ろだったので、ついうっかり見えてしまったのですわ。貴族の教養と遜色ない内容、しかもかなり高度なものをしていらしたわよ」
カツンとヒールの音が響いたと思ったら、テーブルから少し離れた所にいた女子が近寄り、ばさりと開いた扇子を口に当てる。
昨日負けていられないと意気込んでいた、よく手入れされている綺麗な深緋色長髪を翻した女子だ。
ルドーたちに難癖をつけた女子の後ろからやって来て、嗜める様に声をかけていた。
「むしろ高度な教育を受けていたはずなのに、先を越されたことに恥ずべきなのではありませんの?」
深緋色の長髪の女子は、そう言って扇子の上の目を細める。
ハイドランジア嬢と呼ばれた女子は、トラストよりも座学が終わるのが遅かった事実を指摘されていた。
一瞬悔しそうな顔をした後、ハイドランジア嬢はフンと鼻を鳴らして足早に立ち去っていく。
様子を見ていた深緋色長髪の女子は、扇子越しに溜息を吐く。
立ち去るハイドランジア嬢の後姿を、困ったように眉をひそめて一瞥した。
ぱたんと扇子を閉じた深緋色長髪の女子は、貴族らしい長めの制服スカートをひらりと翻す。
そして扇子を仕舞いながら、カツカツとルドーたちのテーブルに歩いてきた。
「あ、違いますのよ! 本当にたまたま目に入っただけでして。決して覗き見なんて、はしたない真似をしていたわけではありませんのよ!」
ルドーたちに黙ったままじっと見られていることをどう勘違いしたのか、深緋色長髪の女子は、両手を優雅に振って慌てて弁明する。
わたわたと顔を赤らめている様子は、先程の貴族然とした様子からは大分ギャップがある。
失態を誤魔化すように、深緋色長髪の女子はコホンと小さく咳払いをして自己紹介を始めた。
「私、ローゼン公爵家が長女、キシアと申しますの。それでその、皆さんで勉強を自主的にやろうという話が聞こえたもので、その、僭越ながら私も参加したいな、と……」
改めてスカートを掴んで腰を折り、キシアは貴族らしい挨拶をする。
キシアはルドーたちの話を聞いていたらしく、恥ずかしそうに視線を下げて小さく汗を飛ばした。
貴族がどうのと話していたから、おおよそキシアも貴族と思われる。
ならわざわざ勉強会に参加するほどではないはずだ。
勉強会に参加することで、キシアは周囲との親睦を深めようとしているのだろうか。
キシアは最終的にもじもじと顔を赤らめて、俯きながら指をいじいじと弄びはじめた。
メロンとリリアの女子から、「かわいい」と小さく声が漏れる。
「いいじゃん、やろうやろう! 問題ないよね!」
「お、おぅ」
メロンがそう言って、なぜか主催ではないルドーの肩をバシバシ叩いてきたので、しどろもどろになりつつ曖昧に返す。
「女の子いっぱいで華やかだねー」
「同数だと思いますけど……」
ニコニコ微笑んだアルスに、トラストが小さく突っ込みを入れていた。
◇
結局昼休憩は食事を終えたのち、そのまま教室に戻って時間まで勉強を続ける形となった。
文字すら読めない状態のルドーは、ここで生徒の中で一番状態が悪いことが判明。
さらに精神的ダメージが入り、ルドーはがっくりと落ち込んで周囲から慌てて慰められた。
『つまんねぇ勉強は終わりだな。やぁーっと暴れられるぜ』
「最後の魔法訓練って、結局何するんだ?」
待ってましたとばかりにバチバチ弾けた聖剣の声を頭の中で聞きながら、ルドーは振り返る。
魔法訓練は運動着でも制服でも自由の為、ルドーを含め全ての生徒が、座学の時の制服のまま運動場に集まっていた。
基礎訓練と座学は、腕輪と学習本という、それぞれ魔道具の補助で何をするのか把握できた。
だが魔法訓練だけはそういう物も配られていないので、ルドーは何をすればいいのか分からない。
「とりあえず校庭に集まれって話でしたけれど……」
「魔法の訓練も人によって得意不得意ありますから、個人でやり方が違う気もしますわ」
トラストとキシアも、なにをするのか予測するように話し始める。
とりあえず説明を聞こうと、ルドーたちはネルテ先生の到着を待っていた。
瞬間、突然のドカンと大きな爆発音が響き渡る。
衝撃と共に、運動場に大きな土煙が舞った。
ルドーたち全員が驚いて、身体ごと視線を爆発の方向を向ける。
「いや、一旦落ち着いてって!」
「うるさい! 真面目にやれと言っている!」
爆発音が聞こえた方向から、言い争う声が聞こえた。
誰かが土煙から飛び出してきたかと思ったら、スタッと少し離れた場所に着地する。
クロノがちょっと落ち着けと言わんばかりに、両手を前に出しているところだった。
しかし土煙を払うように荒い足取りで現れたエリンジは、全く聞く耳を持たない。
さらに追い打ちをかけようと、手を上げて上空に虹魔法を展開し始めた。
「俺より潜在魔力が高いだと!? ならば何故魔法を使わない! ふざけた態度もいい加減にしろ!」
「使わないんじゃなくて、まともに使えないんだって言ってんじゃん!」
クロノの反論は、エリンジ虹魔法にかき消された。
エリンジは虹色の複合魔法を次々と展開しては、クロノを狙ってバンバンと撃ち続ける。
次々と向かってくる魔法の砲撃を、クロノは軽々と身を翻して躱していた。
一体どこでエリンジが聞いたか知らないが、どうやらクロノの潜在魔力はかなり多いようだ。
それなのに魔法を使おうとしないクロノの態度に、エリンジは業腹で炊きつけるように集中砲火を浴びせている。
外れた魔法が次々と地面に当たっては大きく抉り、その度にドカンと大きな爆発と土煙が舞い上がる。
止めようにも魔法の威力が強すぎて、衝撃が強く近付くことすら困難だ。
エリンジが繰り出す魔法攻撃のあまりの威力に、ルドーたちは恐れおののいて動けなくなった。
「ど、どうしましょう。止めたほうが良いのでしょうか」
「いやいや、あんな威力の魔法どうやって止めるよ」
トラストが仲裁を提案するが、近寄れないとアルスが小さく首を振る。
そしてそもそも仲裁する理由がないことを、ルドーは思い出した。
「昨日先生が言ってたけど、喧嘩は校則違反じゃないらしいぞ」
「えっ、お兄ちゃん、それほんと? そうなると先生来るまで、何もできないんじゃない?」
『別に止めるのも校則違反じゃないんだから、行こうぜ?』
リリアの不安に首を振り、聖剣の提案を無視しつつ、ルドーはエリンジとクロノの方に目を向けた。
魔法訓練に参加しようと後から合流してきた生徒も、なんだなんだと集まってくる。
エリンジは周囲の様子を気にする素振りは一切ない。
人が集まってこようが全く考慮せず、クロノに向かって虹魔法の砲撃を弾幕のように放ちまくっている。
これはちょっとまずい。
土煙のせいで視界が悪く、誰に流れ弾が飛んでくるか分からない状況になってきている。
ルドーがそう思った瞬間、流れ弾の一つがちょうどキシアのすぐ横に当たった。
「きゃあっ!?」
地面が爆発して、キシアの悲鳴が小さくあがる。
舞い上がった土煙が収まった先に見えたのは、リリアの結界魔法の半球体。
どうやら傍にいたリリアが、なんとか結界魔法を発動させて難を逃れたようだ。
だがキシアはその場に立ったまま、庇うように右腕を左手で押さえつける。
爆発した地面の土塊が当たり、キシアは腕にかすり傷を負っていた。
だがエリンジはそんなキシアに気づいておらず、クロノに詰め寄り続けていた。
「真面目にやれと言っている!」
「うっざ」
一瞬怪我をしたキシアの方に、クロノは目深にかぶった帽子を向けた。
と思ったら、クロノの姿がふっと陽炎のように消える。
魔法を撃つ構えのエリンジの目の前に、クロノは突如として現れた。
クロノはエリンジの腹目掛けて、素早く正面衝きをする。
瞬きするほどほんの一瞬だったのに、とんでもない衝撃音が運動場に響いた気がした。
ルドーたちが集まる遠くからでも、エリンジの背中が抉れたかと思えるほどの衝撃。
クロノの一突きで、エリンジの身体が突き上がり、恐ろしい速度で吹っ飛ばされる。
そのまま遥か彼方の校舎に、エリンジはドカンとド派手に抉り叩きつけられて動かなくなった。
「ガキの癇癪に付き合ってられるほど、こっちも暇じゃないんだから……」
相変わらず帽子で表情は見えないままだったが、クロノは深い溜息を吐きながら、項垂れて額に手を当てている。
その様子から、クロノはエリンジに対して相当呆れているようだ。
エリンジが打ち付けられた壁から、どさりと地面に倒れる。
駆け寄ったほうがいいのだろうが、もしエリンジの意識がはっきりしていた場合、虹魔法の追撃が怖い。
なんとか状況は収まったものの、気まずい沈黙が場を支配する。
ネルテ先生の訪れを、ルドーたちは心の中で祈った。




