就寝前のウィリアム
(楽しき日々 9/9)
ローズとの夕食を済ませ、居室に移動したウィリアムとエドガー
ローズの護衛は現在ズームが階段脇の詰め所に控えて行っている。
「それにしても参ったな」ウィリアム
「何がです?」エドガー
「ローズの前で また お前の株があがったじゃないか」ウィリアム
「ばかおっしゃい。私はもともと一段低いカブですから。
いくらカブが上がっても 上階の一員となることを許されてません。」
(注:ヒロポン国は身分制社会です)
ウィリアム様とローズ様は 同じ階で切磋琢磨するお若い二人ってことでいいじゃないですか」エドガー
(注:神の愛し子は王と同等または王よりも身分が高い)
「つまりは 男女平等とは 階級闘争ってことか。
男は 暴力・武力つまりは力で階級を争う。
しかし 女は 男の力で低い階級に閉じ込められることを嫌って、男女共に同じ身分であることを要求してるってことか」ウィリアム
「力によらない階級闘争。
女の武器は出産しないことにあるって 究極の長期戦術ですよね。」エドガー
「まったくだ。
女たちが出産を拒否するだけでなく、手籠めにされるなら自決するという究極の手段によって 女に暴力を振るう男たちに死の制裁を迫っているのだからな。
子孫を失うか、今いる不埒な男達を成敗することにより人類の未来への可能性を残すかの選択だ。
そして 女たちが 己の命のみならず人類の未来までかけた熾烈な戦いで手にした『平等』という地位を、
力の弱い男どもが、俺は男だから、女であるお前たちにはもったいない、俺たちによこせと騒ぎ暴力に訴えるから
『建前だけの男女平等なんてくそくらえ』ってことになるんだな。」ウィリアム
「つまり 女性たちが 自分達と生活を分かち合うにたる男を選ぶことを認めない男は、男社会においても負け犬・下種ということですよ。
言い換えるなら 戦が起きたときに、女を守らなかった・守れなかった男には
男としての存在意義がない、と事実をもとにして非力・無能な男どもを糾弾しているのだから、
まっとうな男なら 彼女たちの主張を否定できない」エドガー
「まったくだ。
男同士の権力争い=男の欲で勝手に戦を起こし、女たちに犠牲を強いる男はくたばれと言われるだけのあやまちを、ヒロポン国のみならずローズの国の男達も 過去にやらかしたということだろう。
自然の掟では、番を持つことが許されるのは優れた雄のみ
雄を選ぶのは雌の権利
それを否定して いいように物事を捻じ曲げる人間の雄は自然の理から外れた存在というわけか」ウィリアム
「だから せいぜい ウィリアム様は ご自分と対等の立場にあるローズ様と切磋琢磨なさってくださいませ」エドガー
「そういうお前はどうなんだ?」ウィリアム
「まずは 今のこの国を、女性たちが安心して表を歩ける国にしないことには
出会いすらままなりませんよ。
売春婦以外の女性は 隠れちゃって 人前に出てこないのが 今の我が国でしょ」
エドガー
「まったくだ。
親から守られなかった貴族の娘たちが一斉に姿を消してどこかに隠れている。
身内から守られなかった既婚女性たちが辺境の村に立てこもって男を一切寄せ付けないでいるともきく。
家族とともに戦い抜いて生き残った女たち以外は、隠れて自活しているようだ。
案外 ローズが神子として召喚されたのは 本当に天の意思だったのかもしれないな」ウィリアム
「ならば 彼女を大切になさいませ。
あの方が 心からウィリアム様に心をあずけられるほどの信頼関係を結ばれますように。」エドガー
「それとこれとは別だぞ」ウィリアム
「切磋琢磨の末に思いやりの情を抱くに至れば、信頼関係に発展させ
信頼関係が築かれれば、親友・主従・夫婦いずれの関係にも移行できるというものです。
ただのライバル心だけにとどまれば、いずれは 嫉妬やひがみや力の競いあいからつぶしあいに移行するだけ。
最初から子ども扱いして 対等に扱おうとしないのも
最初から関係性を否定して 距離を置き続けるのも
どちらも残念なかかわりだと思いますけどねぇ」エドガー
「説教臭い奴だ」ウィリアム
「一応 それが近習としての私の務めでございますれば」エドガー
「しかしなぁ・・我が国の現状を知られると ますます『男は嫌いだ!』とか言って遠ざけられそうな気がしてきた。」ウィリアム
「少なくとも わが軍は 女性に一切危害をくわえていません!」エドガー
「しかし 女性を助けたわけでもなかろう?
略奪することなく 行軍に必要なモノはすべて金を払って仕入れ、徴兵もせず、
兵にはきちんと賃金も支払い、戦が終わった後も失業者がでぬように 雇用の継続を望む者を雇い続けている。
だが、それ以上のことはしなかった。
だから わが軍が清廉潔白でも、敵側の庶民階級の悪者達が女に悪行を働いた罪を我々に擦り付けられそうで怖いよ」ウィリアム
「たしかに もともと その町に居た悪漢がなした性暴力は 全部侵入した側の軍がやったと歴史が塗り替えられるのは いつものことですよねー。
こっちは 敵兵しか倒していないし、最初にしかけてきたのは奴らの領主なのにね。」エドガー
「だからこそ 全国に残る売春宿を全部摘発して そこにとらわれれている女性たちを解放しましょう。
解放した女性達が自活できる技術を身に着けさせるための再教育には ローズ様にご協力いただいてはいかがでしょうか?」影の長がスッと姿を現して発言した。
「腐った町の人間は、自分達が暴力をふるって売春させていた女性達を、戦争被害者だとゆすりのネタにした例が過去にもありますから、この際 被害女性達を全員こちらの手で救済し、悪辣な町の人間と切り離すことが必要だという考えに賛成です。
ああいった腐った町の中に残したままにしておくと、ゆすりのネタに使われて腐った町の連中だけが肥え太ることになりますから」影の長。
「我々は 戦後のことまで考えて 従軍中は禁欲を貫いていたというのに」
エドガーはため息をついた。
「所詮 腐った人間は 自分の物差しで人をそしるものだ。
そのような連中に慈悲を示せば、慈悲を示した側が『罪を認めた』と喧伝されて悪者にされる。
だから 俺は 冷酷とよばれようとも慈悲は示さぬ。
民を慰撫する役は 愛し子様におまかせするよ」ウィリアム
「公の場で そのように役割分担するためにも
私の場で お二人が信頼関係を築かれることを切に願っております」エドガー
「俺は これでも あいつを認めているんだがな」ウィリアム
「存じております」エドガー




