脱出
「……準備はいい?」
「はいっ!」
軽く意見交換をして、覚悟を決めた。
取り敢えず、出ないなら出ないでいいから考えずに、出た時の事を考える。
僕が機械を操作して、その間グレンに警戒してもらう……ことにしたが、あの魔物が出て来たなら正直倒すのは厳しいだろう。
その場合は、すぐに僕も加勢する。
壁や天井をいつも以上に警戒しつつ、機械の前まで進む。
(……)
触れる位置まで近付いたが、今の所襲撃はない。
一息付き、目の前の機械に意識を向ける。
それは壁一面に広がっていて、黒い本体に薄黄緑の線がそこら中に張り巡らされており、所々で交わったり途切れたりしている。
腰くらいの高さに半球が二つ、その間に正方形の板が数十個着いていて、これが操作する為のものらしい。
その上には、幾つもの絵が描かれており、これが操作前と操作後のイメージのようなものなのだろう。
間違えるとどうなるか分からない為、あの本に書かれていたマニュアルを見つつ、慎重に操作を進める。
一つ動かす毎に軽い音がなるのが心臓に悪い。
「来ました!」
「っ!」
直ぐに振り返り、敵を視界に収める。
それは緑の同じ魔物。数は二体。最初に見た時よりも数が少ない。
左右のそれぞれ壁からゆっくりと這い出て来ていて、正直気持ちが悪い状態だ。
「〈蒼炎槍〉! 〈風切〉!」
態々完全に出てくるのを待つ必要もないので、風切を弧状に上へ投げ、蒼炎槍をやや近い左個体の前足の間を狙って放つ。未だに壁に埋まっている状態なのだから、流石に左右には避けられないと判断しての攻撃だ。
グレンは僕の攻撃を見てか、右の方に詰める。足止めを買って出るつもりなのか、牽制の色が強い動き。
魔物はグレンを正面に捉え続けていて、壁から完全には抜け出せていない。
左の個体は飛んでくる魔法に対し、風切を頭突きで掻き消し、蒼炎槍を床に叩き潰した。
肉が焦げる音と煙が僅かに出てくるが、それだけ。それだけだが、無傷ではない。
(……何で壁の中に戻らないんだ? 僕らから逃げた時だって、何で一旦遠くに離れてから……)
もしかして、そこまで自由の効かない力なのだろうか。
例えば、数分に一度、片方の方向にしか進めないとかそんな。
「〈土壁〉!」
魔物の腹と床の隙間から、土壁を出現させる。
壁の中に戻れないのなら、体を折る、まで行かなくとも動きの阻害くらいは出来ると思ったからだ。
結果、体が少し浮き、土壁を破壊しようと腕を振り回しているが、力が入らない体制なのか元々一撃で壊せなかった土壁の被害は殆どなくなっている。少なくとも、このままなら数十秒は持つだろう。
「〈蒼炎槍〉! ……っ」
出した蒼く光る槍を掴み、跳んで魔物の上を取る。
本来撃ち出す魔法だが、角度的に狙うのが厳しいのだ。無理矢理突き刺しに行く。
手のひらがチリチリ焼けるのを文字通り肌で感じながら、落下の勢と共に緑の背中に突き刺す。
その槍は肉を切り裂く感触と共に勢いよく沈んで行き、魔物の腹を突き破った。
即座に飛び退くと、蒼炎槍が刺さっていた部分が空洞になり、大量の血が吹き出てくる。
そんな状態にも関わらず、魔物は死んでいない。悍ましい叫び声をあげながら、先程よりも激しく暴れており、土壁を壊してずるりと下半身を地に付けた。
そして、僕を睨みつけてくる。
しかし、流石にこれ以上は満足に動けないようで、体を引きずるように近付いてくる。
「〈蒼炎槍〉」
警戒しつつ後ろに回り込んで、首を狙って放つ。
狙い違わず命中した槍は首を貫通し、魔物の頭を落とした。
死んだ事を確認し、急いでグレンの加勢に入———
———ろうと振り向いた瞬間。
「跳んで!」
叫ぶ。
慎重に戦っていたグレン背後に、天井からもう二体の魔物が降って来たのだ。
「っ!?」
グレンは咄嗟に飛び退くも、避けきれずに足が当たってしまった。
床を転がりつつも受け身を取って直ぐに魔物を視界に収めているが、足を庇っていることから少なくないダメージがあったのだろう。
(もうやるしかない)
使わないに越したことはないのだが。
目を閉じ、魔力に集中する。
体が熱くなってくるが、これは成功している証だ。
全身の魔力を保持したまま、ゆっくりと目を開く。
「炎よ 古よ 源よ 我が願うは原初の力 神から授けられしは始まりの火種 今ここに、太古の地から甦らん〈原初の焔〉」
頭を鈍器で強打されたような鈍い痛みが走り、視界がグラグラと揺れ、立っているのも辛くなる。
これは前回もなったことで、一度に殆どの魔力を使用する時の代償のようなものだ。
手を床につけて体を支えつつ、魔物たちの居た方向見る。
そこには、黒い灰と足を引きずりながら近付いてくるグレンの姿だけだった。
「ごめん、使うしかないと思ったから使った」
「助かりました、ありがとうございます」
頭を押さえつつ、ゆっくりと起き上がる。警戒は緩められないが、一旦は脅威が去ったと思いたい。
原初の焔を使いたくなかった理由は二つ。
一つは、使える状況はまず間違いなく誰かが傷付いた状況だから。そんな状況は来て欲しくない。
もう一つは、使った後の僕がほぼ使い物にならなくなるから。
魔力の90%以上は持ってかれるのだ。ここまでで探知なんかに使っているから、ほぼ役に立たなくなってしまった。
こんな力、あるだけで使うタイミングがない方がいいのだ。
「早く終わらせよう。……ごめん、少しでも休みたいから操作任せていい? そこのマニュアルの、7番まで終わったから」
「わかりました」
そう言って機械の操作を始めるグレンを見て、息を整える。
頭痛と熱は直ぐに引かないのも余り使いたくない理由だ。
「終わりました」
そのまま目を閉じて待っていると、グレンが声をかけてくる。
「ありがとう、戻ろう」
「……大丈夫、なんですか?」
早く移動しようとした僕に、心配そうに言ってくる。
「大丈夫。それより、グレンも足大丈夫? 気休め程度だけど〈生命活性〉〈治癒〉」
軽い治癒魔法を使ったが、それだけで頭がズキズキと痛む。
「……ありがとうございます」
グレンは何か言いたそうにしていたが、お礼だけ述べて進み出す。
これで外に出られるはずだ。
「グレンさん! 大丈夫ですか!?」
「ソラ! 無事?」
僕らが分断された場所の付近まで戻ると、レアたちと無事合流出来た。どうやら、迎えに来てくれたらしい。
グレンに真っ先に反応したのはリーシェで、直ぐに治癒をかけ始める。
「……無事ではない、かな。なんとか生きてるって感じ。レア達は?」
「一回襲撃が……でも、レアさんが倒してくれたみたいです」
ジウがそう答えてくれるが、「みたい」と言う事は実際に見たわけではないってことなのかな。
(分断されたあと、さらに別れた? でも……だめだ)
痛みが邪魔して、うまく思考出来ない。
「えぇ、それより早く戻りましょう」
「うん」
レアに同意し、手助けを借りて原初の焔を使った事を話しつつ遺跡を出る。
今度は閉じ込められることもなく、無事に脱出する事が出来た。
もし矛盾とかあれば指摘していただけると助かります




