閑話 3人の過去〈レア視点〉〈ノベク視点〉
この話をいつ入れるのが正解なのかがわからない
——sideレア
「がァァぁああああ!!」
(ソラ……)
昏い昏い森の中、今日も叫び声が聞こえる。
本人曰く、魔法の練習をしているらしいけど……。
正直、その度に響く悲痛な叫びは聞いていられない。
「……レア、話があるんだ」
テントの中で耳を塞ぎ縮こまる私に、ノベクが声をかけてくる。
「……何?」
「……ソラの記憶を……一部、封印しないか」
その言葉は、私に衝撃を与える。
思わず私が顔を上げると、覚悟を決めたような、そんな顔のノベクが居た。
「貴方、今何をいってるかわかってるの!?あれは!」
「わかってるさ!感情も一緒に無くす可能性があることも、失敗すれば永遠に記憶がなくなる可能性があることも!」
思わず声を荒げた私に、それを超える声でノベクは話す。
「なら、なんで……」
あれは、私達の居た村の秘術であり禁忌。
使えるのは私の家の人だけだったし、門外不出の……そう言う類の、とても危険な物だ。
「もう……見てられねぇんだよ」
そう、普段元気で私たちを引っ張ってくれている、そんなノベクの物とは思えない程消え入りそうな声で言う。
その言葉に、私は声を詰まらせた。
(私……だって……あんなに苦しんでる所なんて見たくないよ……)
「…………ちょっと、考えさせて」
それだけ何とか声に出し、再び縮こまる。
「……あぁ」
それだけ言うと、ノベクはテントから出て行った。
今日の訓練と、ソラの吐き後の片付けに行ったんだと思う。
(私は……弱い)
ノベクよりも、ソラよりも。
気持ちが、意志が、信念が弱い。
でも、ソラのあんな姿なんて見たくない。
「……やろう」
でも、勝手にじゃなく、ソラにも話して。
「……そっ、か。……ごめん、そうだよな。辛いのが俺だけな訳がないのに……周りのこと考えずに迷惑かけて……最低だな、俺」
その日の夜。
私は、ソラに全てを話した。
私の話を聞いたソラは、疲れ果てたような暗い顔で、私に謝ってきた。
心底申し訳なさそうに、自分を責めるように。
「最低なんかじゃない! ソラはっ! 私達の為に頑張ってくれてるのは分かってる!」
私が思わずそう声を荒げると、ソラは驚いたように固まって、ふと微笑んだ。
「ありがとう、レア。…………封印はしてくれ。レアとノベクに迷惑をかけるくらいなら、そっちの方がいい。…………でも、後二日だけ、あと少し、待ってくれないか?」
軽く首を振って真剣な表情になったソラは、そんなことを言って来た。
「……わかった」
「ありがとう」
感謝を言うのは、こっちの方なのに。
*
テントの中。
私の目の前には、目を閉じて横たわるソラと、その後ろで見ているノベクの姿があった。
今日が、ソラの記憶を封印する日。
緊張を紛らわせる為に、大きく息を吐き出す。
「…………それじゃあ、始めるわ」
「あぁ」
「うん」
ソラは上半身裸で、左手を私と、右手をノベクと繋いでいる。
童顔で、どちらかと言えば可愛いという印象を受ける顔は、疲れや不安、寝不足からか心なしかやつれ、目の下にある隈が暗い雰囲気を醸している。
「……覚悟は、いい?」
「うん。……あ、そうだ。もし仮に、仮に失敗したとしても。……自分を責めないでね」
そう言って、私に微笑んでくる。
「レア」
言葉に詰まっている私に、ノベクが声をかけてくる。
「なに?」
「失敗してもお前の責任ではないが……成功させるぞ」
「……そうね」
失敗したらを考えるより、成功させることを考えよう。
大丈夫、この魔法で難しいのは、相手が抵抗する場合だ。
ソラも協力してくれる。
——sideノベク
「……鬼よ、魔よ、古よ。心を、夢を、古きを束ね、封じらん〈封印〉」
レアがそう呟くと、海のような美しい青色の瞳は鮮血の様な赤色に染まり、淡く桃色に光出す。
それと同時に、ソラを経由して膨大な魔力が送られてくる。
「ッ……」
その流れの制御を補助し、レアの手助けをすることが俺の役目だ。
(体が……熱くなっている?)
始まってから、数分が過ぎたかと言う頃。ソラの体が、熱を発している様に感じる。
状況を確認する為に目を開けると、ソラの肌が赤色になっていることに気が付いた。
本人の意識はまだある様だが、苦悶の表情を浮かべていて、何かが起こっていることは間違いない。
それが、元々この術の効果の一部なのかがわからない為、どうしようもないのだが。
レアを見ると、額からは大量の汗を流している。
顔は歪みながらも集中しているのが見てとれ、失敗したわけではなさそうだ。
(俺も集中しないと)
これを後数十分。
必ず成功させる。
——sideレア
「よかっ、た。よかったんだよ……ね」
魔法は、成功した。
ソラの、あの日から、それ以前の記憶の封印に。
人格も残っているし、私達の事も覚えていた。覚えていてくれた。
…………代償は、感情の希薄と、生きる上で考えたり思い返す必要がない知識の喪失。
例えば、歴史。
ソラは、過去の話を殆ど忘れてしまっていた。
例えば、魔法。
普段使わないような、大規模な魔法を使えなくなってしまっていた。
それでも。
成功であることは間違いない。
(大丈夫)
封印は消失とは違う。
感情が戻ってくる可能性もあるし、知識も一緒に思い出すはず。
希望は、ある。




