魔王
「これは……」
リュークやレアと話しながら〈空盾〉の練習をしつつ、何事もなく街まで帰還した。
今はギルド支部の建物内に入って、マイラさんに報告をしている。
「明らかに不自然ですよね」
マイラさんが見ているのは、あのワイバーンの頭部だ。
他の死体も全て出したが、あらかじめ合計金額を三等分する事に決めており、素材で揉めることはない。
「そう、ですね……これは、マスターにも話を聞いておきます。…………いよいよ本当に、あの噂が現実味を帯びて来てるな」
「噂?」
「え、あ、はい。知りませんか?」
噂とはなんだろうか。
特にそんな話を聞いた覚えはないんだけど。
「聞き覚えがないですね」
僕がそう言うと、マイラさんは「関係があるかもしれないし、いっか」と呟いて、その噂についての説明を始めてくれる。
「最近、色々な異変が起きていまして……ほら、ソラさんもいくつか遭遇しているでしょう?」
「あぁ、蛭とかこのワイバーンとか、虹魔狼とか」
何かありそうだとは、僕も感じていた。
しかし、具体的に何かあるのだろうか。
「はい。他にも色々生息地の分布が変わっていたり、色々ありまして……魔王が復活したんじゃないかって言われてるんです」
(魔王……?)
「すみません、魔王ってなんですか?」
僕がそう聞くと、マイラさんは驚く。
「ソラ!」
そこに、レアが割って入る。
「どうした?」
「マイラさんも忙しいでしょうし、そろそろ行きましょう?」
(……確かに、ずっと話し込むのは失礼か)
そう考えていると、マイラさんが口を開く。
「大丈夫ですよ、ご心配頂きありがとうございます、レアさん」
「あ、ええ……大丈夫ならいいわ」
そう言うと、レアはあっさりと引いた。
「えーっと、じゃあ魔族についてはご存知ですか?」
「すみません、わかりませんね」
「では、そこから説明しますね。まず——」
マイラさんの話によると、こうだ。
人は嘗て、魔族と言う、人に近い見た目で、魔力の制御や開発、行使に長けている種族と戦争していた。
最も、魔族と一括りにいいはするが、その中でも差はあったらしく、巨人や小人に吸血鬼、人狼等様々らしい。
その中でも動きが素早い者や力が強い者……と、人と同じく個人差はあったようだ。
その多くの種族を束ねていたのが、魔王。
魔王は途轍もない力を持ち、全属性の魔法を使え、戦場で猛威を奮っていたらしい。
しかし、その戦争は人の勝利で終わった。
突如現れた勇者と呼ばれる存在によって魔王は討ち倒され、リーダーを失った魔族は統率を失い瓦解。
数で押している人がその隙を突き、滅したそうだ。
だが、滅したとは言っても人よりは少なくともその数は多く、生き残りはいると言われているらしい。
その生き残りが、魔王を蘇生した、と言うのが今流れている噂だそうで、そもそも魔法に関しては魔族が上。人では未だ辿り着けていない死者蘇生の魔法を完成させていてもおかしくない、と言う事だった。
「なるほど」
「ですから、気を付けてくださいね。それと、何かあれば直ぐに報告もお願いします。……まぁ、ソラさんはこまめに報告してくれていますし、信用していますけど」
「因みに、勇者はどんな人だったんですか?」
僕がそう聞くと、マイラさんは少し考えた後、口を開く。
「色々言われていて、一概にこれ!と言える物はないんですが……一般的に、炎の魔法に長けていたらしいですよ」
「へぇ、炎」
身近で強い炎の魔法と言えばレアだが……。
レアを見ると、なぜかほっとした様子を見せていた。
どうしたんだろうか。
「はい。私が知っているのはこのくらいですね」
「ありがとうございました」
その後、報酬を受け取り三等分してリュークに渡した。
「そうだ、結成初依頼達成記念に打ち上げでもしない?」
ふと、レアがそんな事を言ってくる。
「いいね」
「俺もやってみたいです!」
「じゃあ決まり!いきましょ!」
そう言ってズイズイ進んでいくレアに引っ張られつつ、カラフルな家が立ち並ぶ道を着いていく。
少し歩くと、レアのお気に入りの居酒屋に着いた。
居酒屋といっても、酒とつまみ以外にもパーティー料理や普通の料理も出る、この辺りだと人気なお店だったと思う。その代わりに、値段が少し高い。
店の中に入り、適当に椅子に座る。
「まぁ、今日は僕が奢るよ。いっぱい食べてね」
「良いわね!店員さん、パーティーA下さい!」
言うが早いか、レアは近くに来た店員を捕まえ、直ぐに注文をする。
「あはは……ほら、リュークもどんどん頼んでね。リュイが何を食べるのかはわからないけど……ここ、持ち帰りもありだったと思うから頼んでいいよ」
「ありがとうございます!」
「聞いてくださいよ〜!リュイったら俺の髪の毛齧るんです〜!しかも〜!」
「ソラ!これ美味しいわ!あ、こっちも美味しいわよ!」
(……どうしてこうなった)
思わず頭を抱える。
「レアは何回目だよ!リュークのはちょっと気になるけど!」
「いや本当に!美味しいのよ!」
「僕で遊ぶんですよ〜!」
数分後。
僕は左右から話責めされていた。
言葉を投げ返す隙も与えずに、次々と放ってくる。
始まりは、レアがお酒を頼んだことだ。
少しなら良いかと思って黙認していたらこれだ。僕は付き合いで一杯のんだが、苦味が強くて好みではなかった。
リュークはお酒をなるべく避けていたのだが、料理に使われていた物で判断力が落ち、間違えて飲んでしまったらしい。
「ああもう!せめて片方にして!」
(これ、いつまで続くんだ……?)




