都会にて
翌日、乗換駅に着いたカラとタロは今度は普通の客車に乗る。
一番安い、三段ベッドの中の一段だけが与えられた空間の席だが。荷物は小物以外車掌に預けることになっている。
この客車は車両が男女に分かれていたためカラとタロはなけなしの小金の入った財布だけ持って別々に乗り込んだ。
たとえ高さ五十センチもない空間でも、一応マットレスのあるベッドなので、カラは前日の疲れをいやすためさっさとベッドで寝いった。
空腹を覚えて目を覚ます。
ベッドから降りて、食堂車を目指す。
食堂車で飲み食いした分は切符代に入っているので財布に余裕がなくとも安心。
そう思いつつ、食堂車に入ると、すでにやって生きていたタロがシチューを食べている。
カラはシチューとパンを一つもらってタロの前に座った。
「それだけで足りるの?」
カラの皿は随分と控えめに量を押さえられている。
「胃弱で、あまり量を食べることができないの」
空腹であるのに、目の目の食べ物を見たら、少し胸が詰まった。
元々裕福でないので、食事は少量しか食べない。それに基本的に座り仕事が多いので食欲がわかない。歩くというのは結構な重労働なのだ。
こういう時前世との差を思い知る。
前世はできるだけバランスのとれた食事を大量にとっていた。それでいて体脂肪率は平均よりかなり低かったのだから、筋肉はカロリー食いというのは本当だと思う。
「そう言うもんなの?」
タロはここを先途と食べまくっている。元々裕福でないのはカラと同様だが、農作業なので、腹は常にすいていた。ただ飯となると食いだめする習慣ができている。
カラは少量のクリームシチューをゆっくりと食べた。
胃弱ですぐ胃にもたれるので少しずつ。
タロはそんなカラを見るともなく見ていた。
「しかし暇だな、あっちじゃ暇つぶすもんいくらもあったからな」
タロがぼやく。
この世界は日本の江戸時代より、識字率が低い。おそらく同時代のヨーロッパレベルだ。
学校に二人が行けたのは異世界の知識を得るためにこちらの文字の読み書きができたほうが楽だからという完全にあちら側の都合だ。
田舎の農家の子供は、まず学校に行かない。
識字率が限りなく低い地域に本屋があるわけもなく。暇をつぶせるようなものは全くない。まったくのこの世界の記憶しかない人間なら、列車に乗るだけで興奮して退屈を感じることもないだろうが、二人にとっては慣れた旅だ。
読み書きができる利点を知っているのは読み書きができる人間だけだ。前世の記憶でそれを知っていた二人は兄弟にそれを指導した。
そして、兄弟もそれを最近では理解してもらえたようだ。
読み書きができる人間が全くいないのは都会の人間にも不便だ、その利点を生かしてうまく立ち回れば兄弟たちも自分の道を何とか切り開くことができるだろう。
そのあたりはそれぞれの兄弟に期待していた。
会話も気づまりで二人はもくもくと食事をするだけで時は過ぎていった。
久しぶりに見る都会はあちらの都会にかなり似ていた。一瞬の既視感、そしてわが手を見て、違うと悟る。
駅の前で一人の女性が立っていた。年齢は二十歳を過ぎたくらいか。
この世界では珍しく、肩までで黒髪をバッサリと切っていた。
大柄で、カラより頭一つ高い。
はっきりくっきりとした顔立ちで、大きな緑の目が印象的だ。
カラの茶色のグラデーションとは大違いの目立つ女性だ。
「カラとタロね」
女性はついてこいと二人を促した。




