体力を削ぎ落せ
「それじゃ、頑張ってみようか」
始まったのは、スタミナをすべて使い果たすレベルの過酷な訓練だった。
始まった三十分で、荒い息をしていない人間がいなくなった。
「動きに無駄がある、もうちょっと滑らかに動けない?」
そう言いながらカラは姿勢を正す。
「そこ、体の軸がぶれると体力をロスする。軸は真っすぐに」
言われたことが藁らず戸惑っている相手をカラは身体の線を叩くことで、示す。
「呼吸に気を付けて、規則正しく、ゼハゼハ言ってるのは酸素の無駄遣い」
ビシビシと檄が飛ぶ。
「やってんなあ」
とりあえず、飲み物を用意したタロが、保冷ポットを複数おいておく。
少し甘みをつけておいたのは、筋力を保つために血糖値を一定に保つためだとか。
あと、炭水化物多めの食事メニューを要求された。
「とりあえず三日分」
そうカラは言った。
「三日はきっちりがっちり鍛え上げるつもりだから」
カラはスケジュール帳を片手に宣言した。
「筋肉をつける最短プログラムが、地球人じゃない彼女達にどれほど通用するかは謎だけど、今はそれに頼るしかないわ」
筋肉をつけるには、身体の周期を計ることが重要らしい。トレーニングも、やり始めは順調だが、身体が慣れてくれば停滞期に入る。それをどれだけ遅らせるかもやり方次第らしい。
「プールが使えるか、交渉してみたいんだけど」
「プール?」
「やっぱり、水圧という負荷は魅力的なの、全身つからなくても、腰くらいの深さで歩くだけでも、かなりの筋力アップが見込まれるわ」
「しかし、水着というのはハードルが高すぎないか?野郎ならパンツ一丁で全然大丈夫だろうが」
若い娘が肌もあらわな格好で泳ぐなどあのうるさ型のご婦人が許すはずがない。
「プールに足をつけてバタ足の練習だけでもいいんだけどなあ」
「なるほど、足腰は基本だな」
タロはしばらく考えていた。
「だったらズボンをはいて、水中行進はどうだ。服を着ていれば負荷は倍だろ」
「なるほど、それはそうだ」
カラが大きく手を打った。タロのいた地域では水難予防に着衣水泳の授業があった。着衣をつけたまま水中で動くのは数倍からの力が必要だと身をもって知っていた。
この事実を知れば、居間からの過酷な訓練を受けている彼女達の怨嗟はまっすくにタロに向かうだろう。
それをわかっているため、タロは沈黙を守ることにした。