バーテンダー
「それはそうと、お兄さん、軍でどういう仕事をしているんです?」
「実は、生まれた家が貧しくてね、転生者特権で学校に行けたんだが、基準が変わったんで金を返せと言われて、それで軍に何らかの貢献ができたら、その金を返さなくていいと言われて」
「また一つ、きな臭い話を聞いちまったな」
バーテンダーがカウンターに手をついてため息をつく。
「それで、どういう仕事をしたんです?」
「実は同じような境遇の女の子がいてね、向こうでの年齢が二十ほど違うんだが、今は同年代、ちょっとややこしいがね、その子、元々国体の選手だったんだと、それでスポーツ栄養学を学んだんで、それを基準にした食事メニューを提案したよ」
「なるほど、軍としては喉から手が出るほど、ほしいもんですな」
「それと、ダークフルーツケーキのレシピ、あれは保存さえよければ二三か月は問題なく食べられるからな」
「そうですか」
バーテンダーは腕を組んで考え込む。
「それだけあればとっくに支払いは終わっていると思いますがね」
タロは薄々感じていたことを言われてため息をつく。
「たぶん、誰かが欲をかいているんだろうな」
「やっぱりわかってましたか?」
「たぶんだが、そろそろいいと思うんだが、誰も何も言ってこない、やっぱり自分で何か言ったほうがいいかね」
「そりゃどうでしょうかねえ」
バーテンダーの話はいまいち釈然としない。
「しかし、ずいぶんと穏やかじゃない話ですねえ、このまま戦争でも起きるんじゃないですか」
「おい、悪い冗談はよせよ」
穏やかならざる話といってもそこまではタロも思っていない。
「しかしですよ、なんだか知識を絞り出そうとしているみたいじゃないですか?」
そう、タロとカラが受けたのは脅迫だ。向こうから差し出してきた教育の対価を今無理やり差し出せと言ってきている。
「実はね、こちらにもいろいろ情報が入ってきているんですが、まあ、戦国マニアと、三国志マニア、そういう連中がね、軍に引っ張られているらしいという話ですよ」
「なんだそりゃ」
タロは目を丸くする。
「そんな連中が一体何の役に立つんだ?」
「そういう連中の持っているというと、決まっているでしょう、戦争の知識ってやつですよ」
「しかし、そんな大昔の知識が何の役に立つっていうんだ」
「そりゃ、そちらのほうがご存じだ、あっちのほうの設備とかどうなんです?」
タロは思わず言葉に詰まった。言われてみれば戦国時代の知識でも十分実ような気がしてきた。
「しかし、戦争が起きるような社会情勢になっているのか」
タロの住んでいたところは新聞すら来ない。識字率が異常に低いので当たり前なのだが。
「今のところ民間はそうじゃないですがね、しかし上のほうはわからない」
タロは思わず立ちくらみをおこした。
「一度死んだ身とは言えなあ」
タロは一度死んだ。その時の記憶は漠然とある。しかし、死んだことがあるからといってできればもう一度繰り返すのは御免なのだ。
人の身であれば、永遠に生きるなど不可能だとわかっていたが、できれば先に延ばしたい。
「単なる料理人なら、多分もうすぐ解放されると思いますがね、もう一人のほうはどうなんですか」
「あの子は自分が無知だと言っていた」
「それでも、国体の選手ってことは、一般の人の知らないことを知っているんじゃないですか、それが日の丸を背負うってことで」
「今、その運動能力を持っていないのに」
「その子が、本当に役立たずだと思いますか、お兄さん」
タロは沈黙した。




