情報収集
タロは、久しぶりに基地を出て、近くの街に出ていた。
この世界にも、未成年者飲酒を禁ずる法律があるため、昔のように酒場で飲むというわけにはいかない。
ただ少しだけ情報がほしかった。
今やっていることが、具体的にどれくらいの金額になるのかということだ。
何しろ、ずっと田舎に引きこもっていたので、他の転生者との情報交換の方法が分からない。
しかし、このままずるずると軍にいるわけにはいかなかった、タロには店があるのだから。
以前聞いたたまり場を探す。
この世界にはない、あちらの文字が、目印になっているという。実はタロの店も、かつて、自分がやっていた店名を小さく表示してある。
タロは大きく息を吐く。こちらの文字と一緒に小さく漢字で書かれている看板。
東洋人だったタロにとっては馴染み深い。
しかし感じだからといって油断はできない。日本人かと思えば、台湾人の可能性もあるのだ。
店内に入れば、場末のバーのような内装。
見慣れた、地球のバーテンダーの格好をした男がタロを迎えてくれた。
年頃は、三十くらいか。
「何にします?」
「残念ながら、ノンアルコールカクテルはあるか」
タロはスツールに座って肘をつく。
「ノンアルコールカクテルはありませんね、これで我慢してください」
言われて出されたのはただのお茶だった。
「あんた出身は?」
「日本です」
タロはほっと息をついた。
「俺もだ」
「いやあ、切ないですな」
タロのなりを見て相手は同情するような顔をする。
「今更赤ん坊からやり直すというのも何ですな」
タロとしても苦笑するしかない。
店内は閑散としている。あまり客が入っていない。
「昼営業はこんなもんです、その間ちょっとした雑用をしてるんですがね」
そう言いながら、背後でとろ火で煮込んでいるものを示す。
「ポトフですか」
匂いからタロはそう判断した。
「そう言えば、日本人なら、米が恋しくなりませんか?」
「まさかあるんですか?」
バーテンダーがこちらが驚くほど食い気味に身を乗り出してきた。
「ありましたよ、家畜用飼料として流通しています」
バーテンダーは呪いの声を上げた。
タロはカラから聞いた入手経路を説明してやると大いに感謝された。
「実は今、軍に協力を求められていまして」
タロがそう切り出すと、相手の顔がわずかにこわばった。
「いや、ちょっと不穏な噂を聞いたもので」
思わずタロは前に乗り出す。
「転生者をどう利用するかでいろいろと意見が分かれているらしいんですよ」
噂というものに触れる機会のなかったタロはこの機会に大いに情報収集しようとお茶を片手に耳を傾けた。