無理難題
ちょっと重そうな機材にラインをつないで、ラインの両脇にはマットを敷いた。
「それじゃ皆さん、最初は立つところから頑張って」
お手本として、二三歩歩いたところで、カラはラインから飛び降りた。
一人乗ってあっという間に落ちて、次の一人、キャーキャーという歓声が聞こえる。
それをカラは座って見学している。
たまにはこんな楽なのもいいかと心中で呟く。
どれだけ続くかと思っていたカラだが、彼女達は一向にめげることなくトレーニングに励んでいるようだ。
仕事とトレーニングの両立は結構難しいと思っていたのだが。
とはいえ、彼女たちの身体つきを見れば、なかなか締まってきたものもちらほら見える。
スラックラインはカラが実家のほうで取り入れたトレーニングだった。
練習用として織り上げたそれを実家近くの木に結び付けて練習していたのを近所の子に見られた。
結局、面白そうな遊びだと、あっという間にカラはラインを取り上げられた。
それだけでなく、カラがひと月練習してやっと立つことができたのに、他の子供は三日で立てるようになったこともカラを落ち込ませた。
たぶん彼女達も、そう思うと床にのめりこみたくなる。
マットの上に転落する者もおり、ずるずるの格好ではスカートがめくれる。今回ばかりは、男子禁制は当然。
「たまには楽してもいいよね」
見本として体勢を取だけで身体が辛い。
好きに飛び跳ねている女性たちをカラは座って見守っていた。
タロはお一人様専用のスラックスリングを試していた。スリングを三十センチほどの長さに固定したものだ。
ただ立っているだけで全身の筋肉がきしんだ。
「うん、さすがアスリート上がり、効くわあ」
降りたら足ががくがくしていた。
「まあ、俺も今から地道に頑張らんと」
前世の肥満した自分のポッコリお腹を思い出せば、若いうちからの節制が大事だと痛感する。
これからカラにいろんなトレーニングを教えてもらおうと思わず誓ってしまった。
本日のメニューはグラタン、本来高カロリーのグラタンをどうカロリーオフするかが課題だ。
「ラタトゥユでもかけてみるか」
軽く煮込んだ肉にラタトゥユをかけ、粉チーズとパン粉をふってみようかと思案する。
「あの、お話があるのですが」
タロの私室に入ってきたのは、一人の若い軍人。
タロからすれば見上げるように背の高い彼は制服の上から見ても引き締まった身体つきをしていた。
「なんでしょう?」
その青年軍人はおひとり様用スラックスリングを不思議そうに見ていた。
「あ、それは何でもないです、お気になさらず」
「ああ、その、カラ様はウェイトレスに痩身指導をしていると聞いたのですが」
「ああ、していますねえ」
カラの指導を受けているのはすべての女性職員といっても過言ではない。その中にはウエィトレス勤務のものも数多くいた。
「実際、彼女体はかなり細くなっていますね」
タロが見ても、二の腕の脂肪などは取れている。引き締まってきたと感じた。
「その、私もその指導を受けられないでしょうか?」
無理だとタロは思わず思った。
カラがやっているのは筋肉を鍛えて、脂肪に置き換えること,彼女達の体重はそれほど変化していないのではないだろうか。
「どうしても体重を落としたいのです」
確実に体脂肪率一けたの彼が、カラの指導を受ければ、筋肉がさらについて体重は増えること疑いない。
どうしよう、タロは思わず悩んだ。